特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

この世の中の2種類の人種:映画『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』


福島県浪江町が、国や福島県を相手に刑事告発を検討しているそうだ。理由はSPEEDIの情報を的確に提供せず、被害を拡大させたから。もっともな話だhttp://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20120411-00000027-fnn-soci
現地の保安院の役人は自分たちの避難に気をとられてSPEEDIの情報を住民に伝えなかったそうだが、そういう破廉恥としか言いようが無い役人の犯罪行為を二度と繰り返させないためにも、この問題は日本人全員にとって重要なことだ。原因を究明して、それこそ刑事罰でも与えなければ役人はまた同じ事を起すだろう。いざとなったら国民のことなんか平気で切り捨てるのが大日本帝国以来の、この国の伝統なのだから。


                                             
新宿で映画ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜 ヘルプ ~心がつなぐストーリー~|ブルーレイ・デジタル配信|ディズニー
アメリカでベストセラーになった小説を原作にした、今年のアカデミー助演女優賞の受賞作。

舞台は1950年代後半から60年代にかけてのアメリカ南部ミシシッピー州、ジャクソン。人種差別が厳然として残る南部では黒人たちには良い職も少なく、白人家庭で家政婦(Help)として働くものが多く居た。白人と黒人でトイレを分けるなど理不尽な扱いを受ける彼女たち。自分を育ててくれた黒人家政婦を母のように思っていた主人公、白人女性のスキーターは大学を卒業してジャクソンへ戻ってきたばかり。物書き志望の彼女は家政婦たちの証言を本にまとめようとする。
                              

基本的にはすごく良い映画だと思う。
身の危険を感じて当初は証言を拒否していた家政婦たちが、ある事件をきっかけに証言を始めるところは本当に感動する。お話も破綻もないし、ユーモアと感動に詰まっている。子育てやDVにまつわる、人種や年齢を超えた女性同士のシンパシーも描かれていて、視点に広がりもある。ラストシーンでは問題はまだまだ解決しないことも描いているし、主役でなく、家政婦二人の再出発を焦点に据えたのも秀逸だ。

役者さんもアカデミー助演女優賞を取った家政婦役の二人だけでなく、主役を演じるエマ・ストーンや人種差別主義者の友人役プライス・ダラス・ハワード(昨年の素晴らしかった『50/50』の主人公の彼女役)も良かった。これも昨年の『ツリー・オブ・ライフ』でシリアスな奥さん役だったジェシカ・チャステインの一見コミカルだけど実は、という演技にも感心した(この人も助演女優賞ノミネート)。
●シリアスな奥さんが一転 天真爛漫。

良く出来ているし、メジャー資本が作ったものにしては良心的な映画だと思う。だけど、うん○パイなど、いかにもディズニーらしく万人受けしそうなギャグがヌル過ぎだったのも相まって、思い入れをもてなかった部分がある。


それはドラマより、ここで描かれている人種差別のほうがインパクトが強いからだ。トイレやバスでの黒人たちへの差別や女性を警官が殴るシーンを実際に画面で見るとやっぱり考えさせられてしまう。今のボクには人種差別なんて狂気の沙汰としか思えないけれど、当時はそれが『差別』ではなく、お互いのために『分離』するという論理があったこと、それが人種分離法(ジム・クロウ法)という法律の下で堂々と行われていた、というのは恥ずかしながら始めて知った。ケネディ暗殺やワシントン大行進を伝えるTV映像を黒人たちが黙って見るシーンには胸が締めつけられたし、黒人家政婦を警官が躊躇無く警棒で殴りつけるところはマジで頭にきた。


映画『ヘルプ』の中で、主人公の友人の白人女性たちは、黒人家政婦たちが居なくては子育ても食事もできない。彼女たちはそれを当然だと思っている。黒人と一緒のトイレを使うと病気になるといいながら、アフリカのためにチャリティーパーティーを開いたりする。自分たちの善意をひとかけらも疑わずに

こういうことって、今でもあると思う。今の日本でも当てはまることがあると思う
原発に関わる独占企業の経営層や経済産業省の役人や御用学者たちと、現場で事故収拾作業に携わる人や避難する人たちとの関係はまさにそうだ自分の手を汚さずに済む人種と自分の手にしか頼れない人種、今の日本には2種類の人種が居ることが今回の原発事故で誰の目にもあらわになった。
更に言えば、性別分業だって正規/非正規雇用の問題にだってあるだろう。ウォール街占拠、1%と99%の問題はこの映画で描かれた人種差別の構造そのものだ。その構造は今も変わっていない



映画『ヘルプ』は良く出来た映画だ。シリアスな題材は苦々しげに描けばよい、というものではない。この映画は人種差別とそれにちっちゃな風穴を開ける話を笑いと涙で包みながらうまく描いていて、後味だって良い。でも、後味が良すぎてドラマが少しだけ浮世、いや憂き世離れしている。告発した家政婦の身の安全を守ったのはうん○パイ(笑)というのはちょっと説得力がなさ過ぎる。ディズニー印の映画に言う話ではないけれど、少し違和感を感じてしまう。よく出来た、面白い映画であることは確かなんだけど。
                                                            

PS.今年2月にフロリダで黒人少年が自警団に射殺され、その自警団は正当防衛を盾にいまだに逮捕されない、という事件がおきたばかり。http://sankei.jp.msn.com/world/news/120402/amr12040214310002-n1.htm
付記 様々な抗議が行われた末 やっと今日逮捕。米黒人少年射殺の自警団員を逮捕、出頭後に殺人容疑で | ロイター

●事件が起きた翌月、フロリダで『41 Shot(American Skin)』を歌うスプリングスティーン。この曲は無実の黒人少年が警官に41発の弾丸を打ち込まれて殺された事件を題材にしている。