特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

メルトダウンは原子炉だけじゃなかった。:『メルトダウン』

大鹿靖明著『メルトダウン』。福島事故の発生から菅内閣の終焉までを描いたノンフィクション。

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故


文字通り『目からうろこ』のような事実が幾つも書かれていた。
・事前に津波の可能性は指摘されていたが、吉田所長も含めて東電はそれを無視して何の対策も採らなかった
・事故発生時 やはり東電は一部を残して現場から撤退しようとした。
・東電社長の清水は入院中に病室から自分のマンションの残債の繰上げ返済をしていた!
原子力安全委員会は『20キロ圏内の住民にヨウ素剤を投与する』指示を出したが、現地の保安院の役人は60キロ!以上はなれた県庁へ避難する準備に気をとられており、指示はそのまま放置された。
・1号機の爆発は人為的なオペレーションミスだったことは従来からネットで指摘されていたが、それだけでなく3号機の爆発も作業員の人為的な操作ミスが直接の原因となった
・当初 必死になって2号機を冷却しようとしていたが、実際 危機に瀕していたのは1号機であったことに誰も気がつかず、先に1号機が爆発した。
菅直人が原子炉への注水を止めたというニュースが一時期流れたが、それは菅に反発した東電、経済産業省がリークしたデマだった。
・浜岡の停止は原発維持を図るため、経済産業省が提起したことだった。

・一部で『更迭』と報じられた松永事務次官、細野資源エネルギー庁長官、寺坂原子力安全保安院長は実際は1000万程度の割り増しがついた総額6〜7000万の退職金を受け取った。
・G8での菅の演説原稿を『自然エネルギーの割合を2020年に20%にする』から『2020年代までに』と訂正した資源エネルギー庁の木村雅昭次長は後日 エルピーダインサイダー取引疑惑で逮捕された。

                          
                                               
こうやってまとまったものを読むと頭が整理されて、いい。書かれている内容もいちいち巻末にソースを挙げているから、信頼性も高いと思った。
印象に残るのはとにかく、政府、東電、経済産業省の人間の質の低さだ
東電の会長、勝俣も社長の清水も副社長の武藤も官邸に詰めていた武黒も責任回避と指示待ちに終始している。東電は撤退しようとした際 対策センター内で稟議を回したそうだ(笑)。その稟議を決済した上で清水が菅のところへ行ったという。激怒した菅に拒否された際、清水の返事は『あ、はい』だったそうだ。まるで他人事ではないか。病院に敵前逃亡した際のローン繰上返済だって、そういう神経だからできるんだろう。同時に菅が会長の勝俣に『ひとつのことばかりやってないで最低限2系統で平行して作業してほしい』と言うと、勝俣の返事は『はい、ありがとうございます』だったそうだ。こいつも、まるっきり他人事だ。
こんな会社、ハナから全くダメだ(笑)。ソ連や中国の国営企業だって、ここまで酷くないのではないか?
                                           
役人も事故収束の役にたたないばかりか、情報収集すら出来ない。おまけに原子力安全委員会斑目は肝心かなめの時は『う〜ん』と頭を抱えたまま。
どいつもこいつも木偶の棒ばかり』(元TBSの下村内閣審議官の証言)
その反面 原発維持の術策だけは長けていて、自分の省の権益を維持しようとする。経産省が海江田を操ってガス抜きのために浜岡を停止させるくだりにはある意味感心した。
                                           
政治家はそういう東電も役人もマネジメントできない。海江田は役人の操り人形だし、菅直人は技術的なことばかりこだわって全体には目が及ばない。

その結果 放置されたのは国民だ。
                                                   
目先のことだけには強い菅直人が強引に(超法規的に)政府と東電との統合対策本部を作って、初めて対策が機能し始める。東電の経営陣、経済産業省の役人、政治家は『無責任』の一語に尽きる。ここに出てくる首脳陣で原発事故を本当に収束させようとする気持ちがあったのは(能力は別にして)、菅直人とフクシマ第一の吉田所長の二人だけだったように思えた。


結局 原発の安全基準をどんなに厳しくしようが、防潮堤をいくら高く作ろうが、人間・組織をガラガラポンしなければ全く意味がない、ということが良くわかった。フクシマでは原子炉だけでなく、原発を扱う人間がメルトダウンしていたのだから。


誰の目から見ても需給状況も安全基準もずさんなままで、政治家や役人はとにかく原発を再稼動させたいようだが、いつか絶対 こいつらに一泡吹かせてやる。そう思わなきゃやってらんない。勿論 ボクにはたかだか一票しかない。けれど今 多くの人がそう思っているはずだ。