特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

無人の桜並木と『不愉快な現実』

今日の夜7時のNHKニュースでフクシマの避難区域で満開になった桜並木が写っていた。美しく咲き誇る桜。だけど辺りは人っ子一人いない。いや、防護服を着た人が何人か歩いていた。『死の町』どころか、まるでSF映画に出てくる滅亡後の世界みたいだ。こういう光景を作り出してしまったことの意味を一人ひとりがよく考えなければいけないと思う。
    
素晴らしかった映画『ドライブ』のことを書こうと思ってたんだけど、予定を変えて本の感想。
不愉快な現実

不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

著者の孫崎享氏は元外交官、具体的には元イラン大使、元防衛大教授。日本を取り巻く国際情勢に加えて、『現実的に』どう対応していったら良いか考えたものだ。 内容はこ〜んな感じ。

1.中国は将来 米国並みの超大国になる
2.アメリカは常に自分の利益を優先する。
3.日本には中国との紛争を軍事的に解決する手段はない。
4.日本はアメリカだけにべったりではなく、ECや東アジア全体を含めた色んな国との相互依存関係を目指すべきだ。


この人が以前出した『日米同盟の正体』と主旨は同じだけど、ごくまっとうな意見に思える。イデオロギーを抜きにした現実的なお話だ。

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)

                                              
日本を上回る人口高齢化の問題はあるにしろ、中国が将来 超大国になっていくのは自明の理だし、自分の利益を優先するのはアメリカだけでなく、どこの国だって一緒だ。太平洋戦争にしろ、経済摩擦にしろ、政治家が先を読めない日本だけは?だけど(笑)。
著者はアーミテージ元国務副長官の著書を引用して『仮に尖閣で日中の軍事紛争が起きても、(侵略ではなく)係争中の土地にはアメリカは何もしない』と指摘している。何かアメリカに利益がない限り、それは当然だろう。今やアメリカの貿易金額は日本より中国の方が大きいのだから、中国だって大事なのだ。日米構造協議にしろ、郵政民営化にしろ、勿論 安保条約にしろ、アメリカだって自国の利益を優先させるのは当たり前のことだ。
   
かといって、日本が自国の軍事力でなんとかできるか。狭い土地に人口も原発(笑)も密集している日本でいくら軍備を強化しても防衛しきれるわけない(笑)。ミサイル防衛システムの精度なんて『いわしの頭(おまじない)程度』といわれているそうだが、大都市に一発でもミサイルが着弾したら、それでジ・エンドじゃん。
                               
著者の結論は『不愉快かもしれないが、まず現実を直視して冷静にものごとを考えるべきだ。日本のとる道はアメリカ一辺倒や軍事力頼みではなく、アメリカ、EC、それに中国も含めた近隣の東アジアの国と経済、文化、外交などの複数の手段で平和的に結びついて相互依存的な関係を作っていくのがよい』、というものだ。 最近はそうでもないようだが(笑)、かっては政治家、官僚、企業人にもこういう まともな人が案外 多くいたからこそ戦後の繁栄があったんだと思う。
                                 

この本の白眉は国際紛争に関する、このマトリックス


他者に対する関心・知識が低いときに対立、紛争が発生する、というこのマトリックスはボクらの日常生活にも当てはまる真理ではないだろうか。他者のことを知っていれば相手を慮れるし、知らなければこそ相手に差別とか不当な扱いをしたりする。無知・無関心というのは恐ろしいものだ。自分でもちょっと反省した。

                             

さて、ここでどうしても思い起こしてしまうのはここ数日の某都知事の発言だ(思い出したくも無いが)。東京都が尖閣諸島を買上げて、一体何の意味があるのか、またそのあと現実にどうするのか、さっぱり理解できない。領土問題なんて100年、200年の話なんだから現状の棚上げで万々歳なんだよ。もちろん、これは石原慎太郎のいつもの手口、単なる人気取りで、あとのことは無責任にほっぽりだすのは最初から目に見えている。だいぶ前から買い取り話を進めていたそうだから、当初予定していた新党の宣伝にでも使うつもりだったのだろうか。公金を流用して私利私欲に使うのは、三流画家の息子の件でもそうだったように、この男の常套手段だ。
だいたい、こんなことを発言して何か日本に実利があるのだろうか。中国だって面子があるから、あちらでも強硬論が台頭するに決まっている。台湾の人もむかつくだろう。
経済面でも国民感情面でも生じるのは双方のデメリットだけだ。 商売にも差し障るし、毎度毎度の馬鹿な政治家の放言で中国に転勤している人は困ってるぞ、マジで。
                         

自分の人気取りのために、みんなの利益を毀損させる。そういうのって何ていうんだっけ?
ボクは嫌いだが、石原慎太郎の大好きな言葉があるだろう。『国賊』って言うんだよ。こんな奴に投票した東京都民も責任大だ。ボクは一度たりともこんな奴に投票したことはないけれど、ホント情けないわ。
これこそ『不愉快な現実』だ(泣)。