特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

がたがた言わず、黙ってやればいいんだよ。:映画『ドライブ』


新宿で映画『ドライブ』。
映画『ドライヴ』公式サイト|第64回カンヌ国際映画祭 監督賞受賞|主演:ライアン・ゴズリング
春のライアン・ゴズリング祭り第2弾、しかも共演はキャリー・マリガン。 本編が始まって直ぐ、画面に映るのは真っ黒なバックにピンクの手書き文字のクレジット。一見クラシックなようで、モダンさも感じられる。その感触はこの映画そのものでした。

ライアン・ゴズリング演じる主人公は昼間はカースタントマン兼 自動車修理工場勤務。夜は副業で『逃し屋』をやっている。卓抜したドライブテクニックと抜け道の知識で強盗などの犯罪者を逃してやる仕事だ。彼のモットーは『犯罪者を待つのは5分だけ』、『自分は銃をもたない』。孤独に暮らしていた彼はアパートの隣室に住む子連れの人妻(キャリー・マリガン)と知り合う。刑務所帰りの彼女の夫はギャングに強盗を強要されており、家族も危険に晒されている。主人公は彼女を助けるために強盗を手伝うことを決意する。

         

ストーリーは最近珍しいクラシックな筋立てで、昔の白黒映画や日本の任侠モノとかも思い出します。

だけど、独特な映画です。まず、主人公には名前がない言葉も殆ど喋らない。 思いを寄せる美しい人妻にさえ言葉を交わすこともあまり無い。 主人公と人妻、殆ど表情だけで感情が表現される。この映画には最低限の言葉しかありません。あるのは独特な色彩、音楽、役者たち。
                            

過半を占める夜のシーンではひたすら青さが強調されます。その中で彼の瞳だけが光っている。ボクはこんな映像は見たことが無いです。画面の中で時折 暖色が挿入されます。鮮やかな黄色や赤色。それは人妻の服、血。鮮やかなコントラストが強調される。青と赤、この二つが交わることは最後までありません。
                                                    

音楽がまた、いい。80年代後半っぽい退廃的なエレクトロな音で統一されています。冒頭 エフェクトをかけてボーカルをノイズみたいにした曲が流れた瞬間でボクはもうノックアウトされてしまった。救いの無い大都会にぴったり。そこに時々思い出したように肉声が混じる、特に殺しの場面に。すばらしい。
                                                    

配役も適役ぞろい。ライアン・ゴズリングはダメ男のイメージしか無いので(笑)、素手でギャングをぶっ殺したりするのは違和感があったけど、優しいけれど沈うつな表情は孤独なドライバーにぴったりです。この主人公のキャラクター、一見頼りなげな草食系兄ちゃんがハードボイルドな純愛に突っ走る姿には、ヒロイズムすら感じてしまう。
キャリー・マリガンの演技も相変わらずいい。好き(はーと)(笑)。殆ど台詞を発しなかった彼女が黙ったまま主人公に張り手するシーンは、この映画の中の感情の頂点です。彼女が持つイノセンスな感じが、この映画のなかのビターな世界にまさにもう一つのコントラストを作っています。
●マリガンちゃんの雄弁な表情

他の登場人物も外観からして全員やばい(笑)。うさんくさそうな顔と役柄がぴったりマッチしている。特にユダヤ人ギャング役のロン・パールマンと言う人はゴリラのような顔を見た瞬間から、コイツはどう考えても悪人だろうという悪相。よく、こんな役者さんがいたなあ、と思いました。もちろんラスボスは思いもかけないような、穏やかで繊細そうな人物だけど。
●顔に迫力がありすぎるロン・パールマン

                                       

ボクは暴力シーン大嫌いだが、この映画のそれは納得できます。抑制されているかのように淡々と話が進む中で、ごくごく例外的に徹底的な血なまぐささが挿入される。思わず目をそむけてしまいますが、必然性があるから無視することはできない。まるで現実の世界のようだ。 名前の無い男が無言で夜の闇を疾走する。先日の『ヘルプ』とは対照的に、おとぎ話のような筋立てなのに説得力があります。
                                     
                                  
この映画を撮ったのはニコラス・ウィンディング・レフンというデンマークの人。すごい。 タランティーノみたいという話もあるが、もっと骨太で実存的。はるかに良いです。
映画『ドライブ』はクラシックでアバンギャルド、ハードボイルドでロマンティックな傑作だと思います。人によって好き嫌いがある作品かもしれないが、ボクはこの映画大好き。 どっかのバカ都知事みたいに口だけでなく、やるときはただ、黙ってやればいいんだよ。
●ロマンティック&ヴァイオレンス