特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『きっと、うまく行く』

この週末のニュースを見ていて思ったのは、同じ訪米でも中国の習近平にしろ、韓国の朴大統領にしろ、安倍とはずいぶん扱いが違う(笑)ということです。。晩さん会どころか共同記者会見すらなかった安倍に対して、晩さん会や記者会見どころか議会での演説をした朴やオバマと2日間みっちり会談した習近平と扱いが全く違います。その理由は国としての重要度だけでなく、安倍が基地外右翼とアメリカに思われているからでしょう(野田の訪米では晩さん会も記者会見もあった)。マスコミは安倍の『同盟関係がどうの』という見苦しい言い訳だけを流すだけでそういうことをまったく指摘しませんが、日本を取り巻く現実は安倍の言い訳とはずいぶん違うんじゃないでしょうか。


さて、あるシンクタンクによると、自民党憲法9条を変えようとする理由の一つは何と『少子高齢化対策で徴兵制を敷くため』だそうです。なんでも自衛隊の平均年齢は40歳 2011年現在で36歳(6/13訂正)と普通の会社よりやや若いくらいだが、他国の軍隊と比べて大幅に高いらしい。徴兵制でも敷かなければ、軍隊として成り立たなくなるそうです。確かに『自衛隊 高齢化』でググってみるとそういうデータがいっぱい出てきます。ちなみに同じ老先進国でも社会に移民を多く受け入れているイギリス軍の平均年齢は30歳だそうです。そりゃあ、ちょっと走っただけで息が切れるジジイやおっさんばっかりだったら戦争はできないです(笑)。
そのことだけ考えても自衛隊のお先は真っ暗(笑)なだけではなく、日本の将来は平和を守ることでしか成り立たたない のが良くわかります。石原慎太郎みたいに他国を挑発することで何か問題が解決すると思ったら大間違い。一部の大企業のためのアベノミクス生活保護バッシング、そして原発みたいに、『全体のためには一部の人々を犠牲にしてもいい』という考え方はもう時代遅れです。現実に下水溝から汲んだ食用油とかホルモン剤入りの粉ミルクなど訳の分からない汚染物質や交通事故だらけの上海や深圳あたりへ行くと、正直 人間の命の値段が違う社会がある、と感じることもあるけれど、日本では今生きている人間一人一人を大事にしなければ社会が成り立たない。もしかしたら少子高齢化って道義的には良いことなのかも(笑)。


                                                
インド映画『きっと、うまくいく』(原題3 Idiots)
インド史上最大のヒット、スピルバーグが絶賛して3回見た、など一部で話題の作品。東京では単館上映で始まったものの、上映館が大幅拡大。と言っても、上映時間2時間50分ということであんまり期待しないで見に行ったんですが- - -

お話はエリート校、インド工科大学の寮で同室になった親友3人の物語。3バカトリオの大学時代と10年後の彼らのエピソードがシンクロして展開されます。
●文字通りの3バカ大将

                                               
この映画を見ていて、まず感じられるのは少子高齢化なんて夢にも考えたことがないようなインド社会の発展する勢いです。3人の出身家庭の階層は貧困層、中間層、超富裕層(終盤 ネタばれがあるが)と様々ですが、優秀な学生は工学部へ入るというのがいかにも理系頭脳が強いと言われているインドらしいと思ったりもします。
貧困層に生まれても勉強さえ出来ればエリート校に入って、社会の階段を上ることが出来る。そういうところが今のインドに勢いをもたらしているんでしょう。劇中『生まれてくる子供が男の子だったらエンジニア、女の子だったら医者』という台詞がありますが、誰でも良い教育を受ければよい暮らしが出来るというのが社会の暗黙の前提になっているんです。
東大に入るのが金持ちばかり、政治家は2世、3世ばかりという今の日本とはずいぶん違っています。かっては日本でも『末は博士か大臣か』と言う言葉があったが、今は死語になってしまいました。ま、博士も大臣も今や尊敬どころか軽蔑の対象ですが(笑)。
だけどインドの階層流動性も良いことだけではないようです。国内の競争だけでも激烈なのに加えて海外から留学生も受け入れているから更に厳しい。工科大学からマイクロソフトやコンサルなど外資系企業に就職して高給取りに、というのが優秀な学生たちの目指すコースで、グローバル競争を前提にしているところが日本とはまるで違う。映画の中でも、教科書丸暗記の猛勉強を批判したりプレッシャーで自殺する青年のエピソードが出てきますが、この映画はグローバル競争の暗部も見据えています。

                                                                                         
この作品は日本の高度成長期に作られたクレージーキャッツの映画を思い出させます。3バカトリオのいたずら、時々挿入される豪華絢爛なミュージカルシーンだけでなく、配役もそういう感じです。この映画の主人公3人のキャラクターは主役は楽観主義者の植木等、脇にのんきな谷啓、もう一人、小心で真面目な感じの石橋エータロー桜井センリと言った感じで、さらに堅物なヒロインのキャラは浜美枝演じるお嬢さん、悪役の学長は上司役のハナ肇に外観までそっくり(笑)。見ているときはそうでもなかったが、今 感想を書いていると、どうしてここまで似ているんだろう(笑)と思ってしまいます。
                                                                                                                        

だけど、この映画は高度成長期ならではのコメディ、と単純に言い切ってしまえるような作品ではありません。この映画を見ていて実に楽しかったのは多くの良い映画がそうであるように、その中に流れている精神に共感できるからです。
3人のおばかさんは最初は他の学生と同じように外資系企業に就職して高給取りになることを目指しています。だけど、紆余曲折を経て、最後には自分なりに違う生き方を志向する様になります。だから、ラストシーンで描かれる(経済成長とは縁遠そうな)インド北部の青空は他の映画で見たことがないくらい、澄み切って見えるんです。この映画の主人公たちは高度成長のリバイバルは目指さないでしょう。未だに輸出企業頼みしか策がないアホノミクスとは対照的です(笑)。
                                     
●お約束のミュージカルシーンもばっちり。豪華なセット、にぎやかな踊り、見ていて純粋に楽しい


                                                                     
導入部からラストまでお話のテンポの良さは3時間近い上映時間を長く感じさせません。ぎりぎりまで突っ込むギャグも面白いし、豪華なミュージカルシーンはやっぱり楽しい。描写は丁寧だし、プロットも良く練られています。
それでも、ときおり出てくる主人公の口癖『きっと、うまくいく』(All Is Well)がまさかクライマックスの伏線になっているとは思わなかったです。やられた〜と言う感じで、文字通り 涙腺が大決壊して画面が見えなくなって困りました。
思い切り笑って、思い切り泣ける傑作。文字通り おなかを抱えて笑ったのは久しぶりだった。今年見た37本の映画では『アルバート氏の人生』と並んでトップ級。素晴らしい映画でした。スピルバーグじゃないけど、もう一回見に行きたくてたまらないです。

       

                                                         
*あ、今週金曜の官邸前抗議は勤務先のゴミ宴会に行かなくてはならないので欠席します。社会人になって何年経っても、会社で酒飲むことほどくだらないものはない、って感覚は変わらないなあ(泣)。