特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

スローなうなぎにしてくれ。:スローシティ 世界の均質化と闘うイタリアの小さな町

猪瀬直樹がまた、奇妙なことを言っている。
日本の標準時を2時間前倒ししたらどうか』と言うのだ。『米ニューヨーク市場が終わる時にアジア最大の東京市場が開くようにして、外資系金融機関のアジア拠点を香港やシンガポールから日本に呼び戻す狙いだ』という。猪瀬都知事「標準時2時間前倒しを」 :日本経済新聞


そんなに金融が大事なら、わざわざ国中の標準時間を変えなくても、株式市場の営業時間を2時間早めればいいだけなのだが(笑)。猪瀬得意のスタンドプレーでこういうことを言っているのだろうけど、救いがたい頭の悪さだ。いいよなあ、呑気で(笑)。


TPPにしろ、いわゆるグローバリズムの危険性を懸念する意見はそれなりに聞こえてくるけれど、じゃあどうするんだ、という話はあまり聞こえてこない。
この10〜20年くらい、日本全国 どこの町の景色もだんだん似てきていないだろうか。商店街の空き店舗、ロードサイドのファーストフードにパチンコ屋やチェーン店、つぶれていく映画館。特に北関東あたりの新幹線の駅前の景色はどこもそっくりのように感じる。たまに訪れるだけのよそ者が言うことだけど、どこもかしこも劣化したミニ東京ばかり作ってどうするんだろう(東京のほうがまだ個人経営の個性ある店が残っている)。旧城下町のような歴史があるような街はそれほどでもないけど、日本中 どんどん同じような顔をした街が広がっていると思う。

そういうことを考えながら読んだのがこの本。『スローシティ 世界の均質化と闘うイタリアの小さな町 (光文社新書)』。

スローシティ 世界の均質化と闘うイタリアの小さな町 (光文社新書)

スローシティ 世界の均質化と闘うイタリアの小さな町 (光文社新書)

結論から言うと、この本は滅茶苦茶面白かった。良い本です。
イタリアでは今、いくつかの小さな町が『スローシティ』という運動を始めている。かって『スローフード』という概念を日本に紹介した著者が、それらの街を紹介したもの。まず『スローフード』とはこういうものだそうだ。
運動が生まれたのは1986年。創始者はイタリア北西部にある小都市ブラ(Bra)でジャーナリストとして活動していたがカルロ・ペトリーニ(Carlo Petrini)氏。きっかけは、マクドナルドによるスペイン広場(ローマ)への出店計画に抗議するキャンペーン。何千万人ものローマ市民が、“スパゲッティーを食べ”て、抗議デモを行ったのがきっかけとなり、スローフード運動が始まった。同運動ではファストフードを「グローバル化を象徴する存在」「地域の食文化を脅かす存在」として捉え、そのアンチテーゼとしてスローフードという造語を生み出した。この運動が地域文化の見直しという大きな流れを作った。現在世界35カ国以上に約7万人の会員を持つ組織へと成長。文字通り「ファーストフード(=味のグローバル化+食べるプロセスの簡略化)」に対抗する運動で、地域で取れた物を地域に昔からある料理方法で調理し、ゆっくりと味わって食べることを人々に呼びかけている。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090821/175702/?ST=career&P=1
EICネット[スローシティ Citta Slow]

                                             
かってスローフードの概念を知ったとき、食べ物大好きなボクはこれだ!と思いましたね。食べものを切り口に世の中全体を変えていこうという考え方だもん。 実際スローフード運動を始めた人たちもイタリア共産党の流れの人たちが多いらしい。この本の中にも『ゲイでカソリックで左翼』という村長さんも出てくる。
日本でもスローフード運動は始まっているようだが、当初から運動がいくつもに分裂していたり(得意だよな)、今ある団体もボクにはちょっと敷居が高く感じてしまうので二の足を踏んでしまう(集団で集まったりすること自体イヤなのだ)。

一方 スローシティーはこんな感じ。
 「スローシティ」は、イタリアの小都市、オルヴィエト市、キアンティ市、ブラ市、ポスティアノ市など、スローフードに力を入れる街が、「質」「多様性」「感性」「楽しみ」といったスローフードの理念をまちづくりにまで広げようと1999年に結成した小都市が発信する率先運動である。グローバリゼーションがもたらす標準化、効率化によって失われている街の個性や固有の文化、生活のリズムを守る、または再び呼び起こす、という考えがこの運動の根本にある。同運動の実体は、世界各国の小都市をネットワーク化した協会組織である。参加資格は人口5万人以下の都市であること、州の首都でないこと、スローフードの加盟都市であること などだ。現在イタリアをはじめ、スイス、クロアチア、ドイツなどから約100の自治体が会に加盟しており、他のヨーロッパの国々、アメリカ合衆国、日本などからも参加の問い合わせがあるという。
スローシティに加盟するには以下の様な基準をクリアすることが必要だという。
  


環境保全
・市民に便利な街のインフラ
・都市計画
・地域産物の利用流通促進
・観光・保養客へのもてなし
・市民の意識
・景観の質 など


http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090821/175702/?ST=career&P=2
EICネット[スローシティ Citta Slow]


                                                
この本で紹介されたどの街も過疎化や高齢化に悩んでいる。それを抜け出すために彼らがやっていることは、自分たちで自分たちの産業を興す、ということだ。
その土地ならではのワイン、生ハム、チーズ、景観、人々の暮らしやすさ、そういうものを武器に彼らは生き残ろうとしている。例えばトスカーナ地方は今でこそ美しい田舎として世界中の憧れだが、かっては過疎に悩む田舎だったそうだ。70年代後半からスーパータスカンと呼ばれるグローバルな味覚を取り入れた高品質の地酒ワインが造られるようになり、そこから土地の活性化が始まったという。自分たちの強みを守りつつ、良いところは外部から取り入れているのだ。

                                    
ただ、それを成功させているのは『本物へのこだわり』だ。ワインにしろ、生ハムにしろ、本物の味を守ることでしか、グローバリズムが提供する安価な『商品』とは差別化できないからだ。だが大勢の人が食うためには大資本を取り入れることも必要だし、そこいら辺はジレンマもある。ただ大資本と言っても限度がある。例えばスーパータスカンを作っているのは大資本と言っても貴族などファミリービジネスのレベルだが、ネスレのようなグローバル企業がハムつくりに進出してくれば話は違ってくる。そこいら辺は人々の間でしっかり線引きがされているのだろう。
それには消費者の側だって『本物へのこだわり』がなくてはならない。ファーストフードや似非グルメが跋扈する日本の現状を見ているとボクはかなり懐疑的だが、少なくとも日本の食い物は材料にしろ、レストランにしろ世界でも指折りにうまいことは間違いない。そこに希望はあるはずだ。*それでも最近のレストランはミシュランに載るような店でも平気でレトルトを使っている例も多いそうだ。

                                                    
                                                    
スローシティ運動をやっている彼らは大企業を地元に誘致しようとか、原発がなければ地元の振興はできない、なんてことは言わない。開沼博なんかも含め、そういうことを言っている奴らはよくそんな他力本願なことが言えるなあ、と思う。それとは対照的にスローシティの人たちは自分たちの手で、自分たちの強みを生かすことでなんとか生き残ろうとしている。
人口5万人の街じゃやっていけないと我先に他の町と合併している日本の有様なんて、彼らには理解できないだろう。そこいらじゅうどこへ行っても駅前は同じ街並み、同じチェーン店なんて信じられないに違いない。まして、ゆるキャラだかなんだか知らないが、東京の広告代理店に大金を払って日本中でわけのわからないキャラクターを作って大人がはしゃいでいるのなんか、文字通りキチガイ沙汰だ。自分たちの街の強みや個性を放棄したらグローバリズムのカネと規模の論理に巻き込まれるしかないからだ。
                                             
こういうサバイバルの方法もある。サバイバルの鍵は普段の生活の中にある。平易に読めて、記述も客観的で、大変勇気が出る一冊。



この前 一度行ってみたかった創業200余年という神田のうなぎ屋へ行ってみた。ビルの谷間にある木造の一軒家。下足番はショートカットの若い衆。大きな声で人の目を見て話す。最近 こういうさわやかな感じの男の子も珍しくなった。部屋に入ると窓からは手入れの行き届いた庭が見える。座敷には端午の節句の5月らしい、男の子の掛け軸がかかっている。食べ物屋で写真をとるのはボクは好きではないけど、個室だから、つい撮ってしまった。


 

                
うざくには絶妙な具合の三杯酢がかかっているし、味噌汁は文字通り東京の下町らしい濃厚な出汁が引いてある。メインのうな重が出てくるまでたっぷり1時間以上。文字通りスロー(笑)。休みの日にしか行けないよな。だけど、この店 日曜は休みなんだよ(笑)。スローなものは不便でもある(笑)。その分だけ雰囲気が良い。

 
                         
出てきたうなぎは脂ギトギトでもないし、某有名店のように不自然に柔らかくもない。適度な脂と川魚の香りがする。きちんとした食べ物を食べたなあと思った、土曜日の昼だった。

                                                                                                          
PS.今週金曜は国会前抗議はお休みだそうです。日曜に大規模集会があるので。
★0602 反原発☆国会大包囲