特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『大格差』と『人類の終末』(笑)

特定秘密保護法が施行された今週、それにふさわしい日本人ジョークから。

                                                                                                  
今週金曜は翌日のデモの準備で官邸前抗議はお休みだそうです。代わりにいつもとちょっと違った話を書こうと思います。『人類の終末』と言ってもネットに良くある、わけの判らない陰謀論じゃないです(笑)。
 
                                                          

安倍晋三のアホが失業率が下がったとか胸を張っているが、その実態は非正規の職が増えて正規の職が減った、というだけの話だ。国民の経済や生活が改善されたという話では全くない

景気が回復傾向になっても失業率や求人の質が改善されない、この『ジョブレス・リカバリ』という現象は日本だけでなく、アメリカでも、EUでも起きている。元は英語だもん(笑)。相対的に賃金が高いホワイトカラーや製造業など中産階級の職が減り、いわゆる『マック・ジョブ』と言われる小売業やサービス業など賃金が安い職・非正規社員が増えていく。弱肉強食を助長するアベノミクスに加速されて日本で起きている現象はまさにこういうことだ。分厚い中間層を、というのは色んな国で言われていることけれど、現実にはなかなか実現しない。
その原因はなんだろうか。
新自由主義の陰謀(笑)や安倍晋三がアホだから、そういう側面は確かにある。だが先進各国で起こっている現象を考えると『それだけではないんじゃないか』とも思えてならない。
                                                                                                          
そんな時に読んだのが今 話題になっているこの本、『大格差』。著者は2011年に「世界に最も影響を与える経済学者の1人」(英エコノミスト誌)に選ばれたタイラー・コーエン。
アベノミクスを擁護している早稲田の若田部が解説しているこの本自体はそんなに面白くない。コンピュータ・チェスの話が長すぎ。図書館で十分。

大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか

大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか

内容はこんな感じ
近年のアメリカ社会での中流階級の崩壊、賃金の低下はコンピュータの発達によるものが大きい。タイピストのようにコンピュータにより無くなる職種もあるし、オフィスや工場ではITによる省力化・効率化が進み、中流階級の賃金を払える雇用は減少している。一方 コンピュータの活用により莫大な富を生む職種や企業も生まれている。
今後ますますコンピュータが進化していく。現在の富の偏在は1%と99%と言われているが、将来はコンピュータを活用して生産性を向上させる人間とそうでない人間の間で世の中の格差は更に広がっていく。その割合は15%と85%くらいか。だが貧しい85%の側は往々にして保守主義ナショナリズムに走りやすい。また先進国では決して生活ができないわけでもなく、高齢化も進んでいく。だから85%の側が革命などの社会変革に立ち上がったりすることは望み薄だ。したがって今後、資本主義の格差は固定化していくだろう
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以前『コンピュータが人間の職を奪っている』という『機械との競争』というMITの研究員が書いた本が話題になったももクロちゃんは機械仕掛けの夢を見るか?:『機械との競争』(RACE AGAINST THE MACHINE) - 特別な1日(Una Giornata Particolare)
●自由闊達なこっちは面白かった。
機械との競争

機械との競争

『大格差』はそれを未来予測という点で社会的な観点から広げた感じだ。ちなみに著者は保守主義を自認しており、穏健な共和党支持という感じだ(笑)。それはどうでもいいけど、現状を考えても機械が雇用に与える影響というものは否定できないように思える。

                                                         
ITが人間の仕事を代替するのは日本でも当てはまるし、人口減で今後もっと拍車をかけるだろう。ITで代替されたのはタイピストや工場の現場だけでない。鉄道の改札も、回転寿司も、証券会社の営業も、銀行のATMだってそうだ。また全国に広がるシャッター商店街、その原因はモータリゼーションや規制に守られた商店主たちの努力不足だけでなく(日曜休みで平日6時閉店じゃムリだ)、大きな理由は大規模店舗やコンビニ、ネット通販との競争だ。大規模店舗やコンビニ、ネット通販はIT技術なしには存在しえない。書店やCD店などは直接的にネットに代替されているし、今後の物販店は辺鄙な土地に立地する店か大規模店、マニアックな店でないかぎり、一般論としては存続が難しいのではないか。
ホワイトカラーもそうだ。企業では管理職はバンバン減って、担当分野はどんどん広がっている。報告や打ち合わせはメールやテレビ会議。スピードアップと効率化で人はどんどん減っていく。
今 ドイツは国が音頭を取って、シーメンスダイムラーボッシュなどの超大企業とインダストリー4.0という産学官の活動を進めている。工場の機械を全てコンピュータネットワークで結び現場から人を大幅削減、ドイツ国内の産業競争力を強化するそうだ。12月11日のNHK9時のニュースでも取り上げられていたが、肝心のポイントには触れられなかった。表向きはエネルギー消費削減やリードタイム短縮などのメリットが謳われているが、人件費削減が大きな狙いだ。
●インダストリー4.0の概念図。蒸気などの機械化→電力化→自動化に続く、ネットワークによる第4次産業革命という考え方らしい。

ドイツの「第4次産業革命」 つながる工場が社会問題解決 :日本経済新聞

    

                                                                                 
この前 東大で人工知能を研究している松尾豊という准教授の講演を聞いてきた。
http://www.utnp.org/cat23/yutakamatsuo/20141004.html

ボクは全く門外漢だが、かなり驚くような話だった。彼によると、あと数十年で人間並み、もしくは人間を超える能力を持つ人工知能を作ることができる、と言うのだ。SFやアニメではありふれた話だが、現実にはコンピュータは情報を早く処理することはできても、能力は人間には及びもつかない。マシンスペックの向上で2000年代にチェスやクイズ番組で人間に勝つことはできるようになったが、限られた世界だった。コンピュータに世の中の事象をデータ化して入力化するところがネックになっていたからだ。事実アメリカでは80年代から世の中の事象全てをコンピュータに入力するcycプロジェクトというものが始まっているが、30年経ってもまだ終わらないそうだ。
ところが2010年代から人間の脳神経を模したニューロンネットワークをコンピュータで作れるようになって事情が変わったコンピュータが自分で学習する『機械学習』と、表現すること(概念を自分で作ること)『表現学習』をできるようになって、能力が飛躍的に上がっているというのだ。これをディープ・ラーニングというそうだ。夢物語が一気に現実性を帯びるようになったのだ。

確かに機械が自分で学習すればデータ入力は関係ないし、コンピュータが自分で概念を作るようになれば、文字通り人間と同じように考える、ということになる。後者は言語学者ソシュールが言うところのシニフィエではなく、シニフィアン(表現されるべきもの)を獲得した、ということだそうだ。この概念は昔から良くわからなかったがやっと意味が分かった(笑)。人工知能はコンピュータというより、言語学や哲学の話、要は人間とは何か、という話だった。

事実 2012年にグーグルのスーパーコンピューターYouTubeの莫大な画像の中から自分で『猫』という概念を発見したという。
猫を認識できるGoogleの巨大頭脳|WIRED.jp
Google、大規模人工ニューロンネットワークを用いた研究成果を紹介 | 日経 xTECH(クロステック)


松尾氏によると、こんなペースで人工知能が人間の仕事を代替していくと言う。
2020年ころ:自動車の自動運転や物流や農業の自動化
2030年ころ:自動翻訳や海外向けの電子取引
2035年ころ:教師や秘書業務、ホワイトカラー支援

今 グーグルが自動車の自動運転をテストしているが、恐らくタクシーやトラックの運転手という職業も将来はなくなるに違いない。大手コンサルのBCGによるとコンピュータによる自動運転には以下の効果があると言われている。
北米を例に見てみると、その影響は膨大でかつ広範囲に及ぶ。安全性の向上により事故は90%回避され、事故死は99%削減される。よりスムーズな運転により燃費が40%向上する。柔軟な運転、車間の連携により渋滞が55億時間削減される。道路のより有効な利用により車線キャパシティーが80%削減できる。さらに従来運転に使われていた750億時間がほかのことに使えるようになる。これらの経済効果の総和は1.3兆ドル(約152兆円)、北米GDPの8%にも相当する バラ色の自動車時代、到来への条件 (3ページ目):日経ビジネスオンライン
                                                       
これらの製品を開発する企業はおそらく教育済みの人工知能ブラックボックス化して売り出すので、経済的には一部の企業の独占状態が進むと言う。今のIT産業だって既にそうだ。そのグーグルやフェイスブック百度などは人工知能に今からガンガン投資している。そして2045年ころには人工知能が自分で自分を上回る人工知能を開発する様になるのではないか、という。もちろんその頃には人工知能は人間の知能なんか遥かに凌駕するだろう。
                                   
講演の会場からは『将来 機械に人間が征服されるのでは?』という質問すら出た。真面目な話だ。松尾氏によると、征服欲求をプログラミングすることはかなり難しい、とのことだったが、自己保存本能ならできるかもしれない。そうなってくると文字通り 機械が人間を支配する映画『ターミネーター』の世界になりかねない。最近 ホーキング博士が『人工知能の開発は人類の終末を招きかねない』という警告が報じられている。人工知能が自分で自分を作り出せるようになったら、その可能性は笑い事ではない。ボクが人工知能だったら、アホばっかりの人類なんかさっさと抹殺するかも(笑)。
ホーキング博士の警告:人工知能の開発は人類の終末を導きかねない
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141203-00000035-jij_afp-sctch

*著名起業家のイーロン・マスク氏(スペースX社)の発言『人工知能は悪魔を生み出す』(一応、これは12/11NHKの9時のニュースでも流れた)
「人類はAIによって悪魔を呼び出そうとしている」:E・マスク氏、再び懸念を表明 - CNET Japan
                                                                                                                                                                         
ボクが2045年まで生きているかどうかはわからないが、そんな先の話ではない。オックスフォード大の調査によると、20年後 アメリカの雇用の50%は機械によって代替される、という。
*オックスフォード大の調査報告。20年後アメリカの職業の50%が無くなる?(最後の記事が最もわかりやすいです)
50%が失業? ITの進化で20年後に消えてしまう職業一覧
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141109-00040925-gendaibiz-bus_all
これからの20年で現在のアメリカの雇用の50%以上がコンピューターに代替される – Social Design News


最後まで人間の仕事として残るのはセラピスト、それに火事などの緊急事態対応の指揮官だそうだ。要するに定型的な仕事は機械に代替されていくのだろう。
●話題作りでもあるだろうが、来年からネスレソフトバンクのロボット『ペッパー』を店頭に置いて顧客と会話をしながら、コーヒーマシンの販促をやらせるという。              
ネスレ日本、販促にヒト型ロボ コーヒーマシン説明 :日本経済新聞

   
●来年発売のウインドウズ10は『機械学習』による秘書機能を搭載
「ウィンドウズ10」来秋に マイクロソフトCOO 「秘書機能」搭載 :日本経済新聞                                                                              
ただしコンピュータによるメリットも大きい。情報伝達のスピードアップや情報共有は益々容易になるだろう。機械をうまく活用することで人間の仕事のスピードや精度は上がる。人間は機械を利用することで賢くなれるという面は確かにある。また、定型的な仕事を機械に任せて、人間はもっとクリエイティヴな仕事に専念できる可能性もある。前述の『大格差』や『機械との競争』でも、人間の教育を充実させることで機械のメリットを生かして共存していくことを提唱している。だが人間が全員、機械を活用してクリエイティブなことをできるわけではない。それに85%と15%と言うけれど、難しいことは判らないし判りたくもない、自分は機械に代替されても良い、と思っている人は案外多いのではないか。ボクも他人のことは言えない。セラピストにでもなるか!そもそも選挙を棄権して自分は奴隷でも良いと思っている奴(笑)が半分くらいは居るのだから、自ら進んで機械に代替されてしまう人は結構いると思う。


                                  
このことは新自由主義の陰謀(笑)ということだけで片づけられないだろう。確かにITを活用するには資本がある方が有利だが、資本は絶対条件でも必要条件でもない。現にアップルもグーグルもマイクロソフトフェイスブックもアマゾンもソフトバンクも、ベンチャーから成り上がった企業だ。

世の中に超大企業に有利なルールは明らかに存在するし、彼らの政治家や役所への影響力はバカにできない。だが格差の原因をそれだけに帰してしまうのも違うと思う。技術も大きな問題だ。新しい技術を否定するのは産業革命期のラッダイト運動の昔からあることだが、これほど世の中に広まり、皆が利便性を享受しているIT技術の否定は物理的にムリだ。メリットよりリスクのほうが遥かに大きい原発のような技術とは違う。

                                             
少なくとも今後 教育はますます重要になってくる。教育と言っても安倍晋三の大好きな道徳や国歌ではなく(笑)、国家や常識、道徳などに捉われない自由な発想や概念を育てる教育だ。そうして人間の付加価値を高めていくしかない。コンピュータには理解できない(ざまあみろ!笑)スローフードやスローシティ、里山資本主義のような概念を作っていくことも有効だと思う。
あと独占企業の問題も大きくなってくる。企業の市場独占を防ぐための概念や法整備は急務だろう。独禁法を作ったローズヴェルトは偉かったのだ。


人間を超える人口知能にしろ、独占企業の支配にしろ、あんまり明るい話ではない(笑)。イタリアの極左学者(笑)アントニオ・ネグリ流に言うと、これから世の中は国民国家、大企業、市民(マルチチュード?)がお互いテクノロジーを利用しながらの3つ巴かもしれない。そのような流れの中で、自分がどうやって生き残っていったら良いかボクは危機感を感じる。今後も変わらないでいる分野は何か。今後なくなっていく分野は何か。そういうものを見極めて、生き残る分野へ自分の能力・労力を振り向けていなければ、職業を失ったり社会に抛り捨てられるかも。人脈とかコネとか財産を持っている人、それに死ぬほど地頭が良い人はそんなことは気にしないでいいだろうけど、残念ながらボクの場合はそうではない(笑)。ポジティヴな人、野心満々の人はチャ〜ンス!と腕まくりするかもしれないが、特に野心もなく、嫌々仕事をしている身としては(笑)このような事態は、空恐ろしい。

                                         
世の中の変化は為政者や大企業の陰謀(笑)だけでなく、様々な要素によって引き起こされていく。こういう話を聞くと暗鬱にもなってしまうけど、世の中の変化のスピードを考えたら、そんなヒマすらないだろう世の中の流れの中で良い要素を探しながら、何とか生き残っていくしかない、か(嘆息)。