特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『巨大モンブラン』と『オードリー・タン氏の講演』

 もう10月、今年も4分の3が終わってしまいました。
 ちょっと前までクソ暑かったのが、郵便ポストやメールボックスに、おせちやら、クリスマスケーキやら、ボジョレーヌーボーやら、最近は季節順に関係なく案内が送られてきます。まるで雲霞の群れが攻め寄せてくるみたい(笑)。

 これからインフルとコロナのW流行の可能性もあるし、そもそも年末にかけて失業が増えて景気は更に悪くなるだろうから、あんまり呑気なことも言ってられないでしょう。今年はそんな秋


 と、言いつつ 呑気な話から(笑)。
 この前、1年前に渋谷にできた東急の商業ビル『スクランブル・スクエア』に初めて入ってみました。紅白でPerfumeがここの屋上展望台から中継してましたけど、ボクが入ったのは1Fだけ。展望台とか興味ないもん。人が居ないならいいですが。
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 何とかヒルズや何とかタワーなど新しいものが出来ても、ボクは数年は経たないと行かないことにしています。商業施設なんか楽しいと思わないし、何よりも人混みが大嫌いだからです。通りがかったり、どうしても用がない限りは行く訳がない。
スカイツリーもそろそろどうなんでしょうか(笑)。そう考えれば1Fだけとは言え、今回スクランブル・スクエアに行ったのは早かった(笑)。ほぼ毎週 ビルの前を通り過ぎてはいたのですが。

 こういうところは基本的に人に金を使わせようとする資本主義の悪の巣窟です(笑)。連中の罠に引っかからないよう身構えているのですが、これ↓には騙されてしまった(笑)。

moriyoshida.fr

 このモンブラン、普通より一回りか二回りくらい大きい。直径7,8センチくらいあるでしょうか。店頭では文字通り山みたいに見えました。このデカさが騙されたポイント(笑)。普段だったら太るのを考えて躊躇するのですが、今は毎日16キロ徒歩通勤をしているので多少は大丈夫、という気持ちがあるので、つい、手を伸ばしてしまいました。

 食べてみたら、甘くなくて美味しい。知らないフランス菓子屋だけど使われているのはおそらく和栗でしょう、フランスの栗のような濃厚な味はないけれど、ボクはこっちの方が好き。クリームもちょうど良い脂肪分で結構おいしかった。リピートしちゃうかも。
 栗もブドウも梨もキノコも、美味しいものが多い秋は危険な季節です(泣)。


 さて、先週 台湾のIT担当大臣オードリー・タン氏の講演をリモートで聞きました。アメリカのコンピュータ屋さん主催だったのですが、結構感動したので、内容を皆さんとシェアします。


 台湾でのコロナ対策の体験を元に、デジタルをどう使ったのか、そして社会に変革を起こしていくにはどうしたらよいか、を語ったものです。お話しの順番は判りやすいようにアレンジしてあります。

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●ITとデジタルは異なる
 私はデジタル担当大臣だが、IT担当大臣ではない。IT担当は他にいる。ITとデジタルは全く違うもの。
 『ITはコンピュータとの対話』であり、『デジタルは社会との対話』である
 デジタルの世界には言語や物理的制約を超え、複数の考え方・多様性が共存している。例えば言葉が異なっても自動翻訳で充分克服できる。
 デジタルは社会にFAST/FAIR/FUNをもたらすための道具である。

●FAST/FAIR/FUN
 デジタルでFAST(速さ)が実現されるのは皆さんお分かりだと思う。
 FAIR(公平さ)の部分ではとにかく、国民に情報を丁寧に説明し、意見を吸い上げた。
 もともと台湾にはREDDITという賛否を投票できるデジタルプラットフォーム(政府と関係ない民間企業のネット掲示板)があった。コロナでは一部、厳しい規制を行ったけれど、実行する際は賛否の投票で決めるようにした。

 例えば 家に待機するよう要請された感染者が範囲外に出るとアプリで連絡するデジタルフェンスというアプリを導入したが、待機すれば毎日33ドル支給する代わりに、待機を守らなければ罰金1000ドルという仕組みだった。厳しいように見えるが理由をきちんと説明したし、賛否を確認しても殆ど反対はなかった。
 またマスクの在庫をネット上で可視化し、公平に分配されていることが誰にでも目で見えるようにした。それがFAIRということだ。

 意見を聞くという点では、台湾はコロナが入ってきて直ぐ台湾中央感染症指揮センター(CECC)を立ち上げたが、そこには直ぐつながるフリーダイヤルを設置して意見や提案を積極的に受けるようにした。

 例えば小学生の男の子から『家にピンクのマスクしかなくて、それを学校に着けていったら虐められた』という電話があった。
 どうしたか。CECCでは毎日記者会見を行っていたが、翌日 大臣がピンクのマスクをして記者会見に臨んだ。いじめはすぐ無くなった(笑)。

 また初期はマスクが不足した時期があったが、フリーダイヤルに『炊飯器で使用済みマスクを消毒したらどうか』という提案があった。CECCでは早速 実験して効果を確認、効果が認められたので直ぐ、記者会見してそれを広めた。

 台湾政府は国民を信じているから包み隠さず国民に事情を説明し、意見も取り入れる。だから国民も政府を信じていると思う。

 
 FUN(面白さ)には大きな力がある。
 台湾でもフェイクニュース、デマが流布されることがあった。即席麺が無くなるというデマが流布された際、直ぐ首相が即席麺が大量に積まれた倉庫の前で写真を撮った。それをTwitterで流す際『野菜を忘れずに』と一声添えてTweetしたらバカ受けして、各地の首長が同じように写真を撮って『ご当地名物を忘れずに』とTweetする『祭り』状態になった。おかげであっという間に即席麺が無くなると言うデマは消えてなくなった。
 Humor Over Rumor(ユーモアはデマに勝つ)と思う。

●改革を起こしていくために
 まず、多くの国民がテクノロジーのバックにある科学を理解してくれたのが大きかった。CECCは『人口の4分の3がマスクをして手を洗えば、コロナは広がらない』ということを3か月間 毎日放送した。国民はそれを理解し、命令されなくてもマスクをし、前述の炊飯器のような改善アイデアが出てきた。
 トップダウンによる命令では改革は出来ないと思う。

●デザイン・シンキングの重要性
 現実を変えていくには、立場が異なる人々の間での共通価値を見つけ、解決策を作る必要がある。競争(ゼロサムゲーム)ではなく、WIN/WINの解決策を作る事。それがデザインシンキングの考え方。今回の危機を乗り越えるにあたってはデザインシンキングが大いに役に立った。

●人材の育成
 デジタル時代には人材の育成を行わなければならないが、台湾政府では『若者に大人を指導させている』(リバース・メンタリング)。35歳以上の大臣には全員 若者の指導役を付けて、デジタルの使い方を教育している。
 私(タン氏)も35を超えているので、若い指導者が一人ついている。この前も昔 自分が開発したインスタの機能の使い方を彼に教えてもらった(笑)。
 大人はお金や人脈、経験など資源やパワーを持っている。若者は方向性(理想)を判っている両者が組み合わさっていけば社会は変えていけるはずだ。

●今後の台湾
 今回 台湾はデジタルでコロナ危機を克服し世界と繋がることが出来ることを示した。チェコからは国のNO2の国会議長が来たし、アメリカの厚生長官は台湾の防疫対策を調査しに来た。ウィルスだけでなく、地球温暖化ガス、フェイクニュース(インフォデミック)など、現在 世界に広がる様々な危機に対してもFast/Fair/Funの3Fで世界がつながっていけば対抗できると思う。

●人間の輪の拡大
 人間は限られた人数しか関係を維持できないと言う習性があり、それは『ダンバー数』と呼ばれている。一般的には150人くらいと言われている。これ自体は人間の能力の限界なので仕方がない
 しかし#ハッシュタグを介してデジタルの世界で情報共有すれば、遥かに多くの人と繋がることができる。省庁や会社など縦割りの組織は自然と乗り超えられていく。
 そこで様々な立場の人がクロス・カッティング・チーム(業務横断的組織)を作っていけば、よりクリエイティブなものが生み出せるはずである。国でも大企業でもそうだろう。それを私はエンタープライズ・ソーシャル(企業ソーシャル)と呼んでいる。

●2030年の資本主義
 そうやって人々がつながっていけば、企業も短期的な利益を追求するのではなく、次世代に対して良い経営判断をする動きが広まっていくし、現実にそうなりつつある。エンタープライズ・ソーシャル(企業ソーシャル)から、ソーシャル・エンタープライズ(ソーシャル企業)が生まれつつある。
 将来的には企業などの経済セクターと、NPO自治体などの社会セクターは一体化するのではないか。
 2030年はFun/Fair/Solidarity(連帯)の時代かもしれない。

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 さすがIQ138というか(笑)、ただのコンピュータ・オタクとは全然違いました。たった30分でしたが、視野は広く内容は濃い。
 台湾の当局者の立場で話していますから、これだけで全てを鵜呑みにするわけにはいきません。例えば彼は改革はボトムアップで、と言ってましたけど、大阪の雨合羽やイソジン、自粛警察が良い例で、今の日本のような衆愚状態だったらボトムアップの改革は難しいんじゃないでしょうか。人々の間に科学を定着させるどころか、事実を直視して自分の頭で考えるという行為自体が日本ではハードル高い。


 が、タン氏は頭が良いだけでなく、きちんとした哲学がある。デジタルのための社会ではなく、社会に奉仕するためにデジタルがある、と。そして人々の力を信じて、デジタルで人々の力を集めれば困難な問題も解決できるという信念がある(いかにも米西海岸的ですが)。Fast/Fair/Funという原則は判りやすいですよね。また『ピンクのマスク』の話や『ユーモアはデマに勝つ』話は、感動的でした。


 なにより『台湾政府は国民を信じているから包み隠さず国民に事情を説明し、意見も取り入れる。だから国民も政府を信じている』は日本とはあまりにも違いすぎます。正反対と言っても良い。
 羨ましい話ですが、台湾がこうなるまで、わずか4年しか経ってない、ということは忘れてはならないと思います。

 台湾の民進党政権は2000年に政権交代に成功しましたが、政権運営に失敗して8年に下野、それから14年に市民・学生たちが国会を占拠した『ひまわり運動』があり、その後16年に再度 政権を取った。それから僅か4年です。
 市民・学生たちの力が大きかったことと同時に、人材不足だった過去の失敗を生かしている。タン氏もそうやって起用された。
 民主党政権の失敗を経験した日本も大いに学ぶべきでしょう。


 ボクは、デジタルが人々の格差を拡大させてしまうリスクはかなり大きい、と思ってますが、世の中を良くする可能性もある。例えばSNSにはデマやフェイクが広がるマイナス面もありますが、人々がデモや抗議のために集まることを容易にする面もある。デジタルの可能性を捨てるのは自殺行為です。

 菅のデジタル化推進を立民の枝野が批判してましたが、それだけでなく、自民党に欠けている要素、デジタルを使って如何にFairやFunを作り出していくかをリベラルの側はもっと考えなくてはいけないんじゃないでしょうか。そうすれば自ずから道は開ける
 特に『ユーモアはデマに勝つ』はリベラルは良く学ばなければいけないと思います。


 将来的に、企業などの経済セクターと社会セクターは一体化するのでは?とタン氏は言ってました。一体化するかどうかは別にして、経済と社会の距離はどんどん近くなっていくとは思います。

 ボクは企業というものは一切信用しませんが(笑)、共産党や一部のリベラルの様に世の中の悪の全てが大企業のせい(笑)、にしてしまうのは、論理的にも現実的にも間違っている。

 例え大企業でも社会にちゃんとした価値を提供することで存在する企業だって多いわけです。トランプや自然破壊と正面から戦うぞ(笑)というパタゴニアみたいな企業じゃなくても、普通のサービス業やメーカー、商店やレストランが提供する製品やサービスなしでは我々は生きられない。そもそも雇用の問題だってある。

 また人々は企業が提供する価値の良さを見極めて、正当な対価を払わなければ、社会全体がおかしくなってしまう。安い方が良いに決まってますが、消費者が価格しか見なければ、品質偽装や産地の環境破壊などを引き起こして、消費者は自分で自分の首を絞めることになります。


 一方 世の中に貢献してない企業もある。広告代理店やパソナなどの中抜きや度の過ぎた宣伝、金融業のマネーゲーム貸し剥がし、それに一部企業の環境破壊や低賃金、むやみやたらな人員解雇は世の中に害悪を垂れ流している。まともな放送をしないTV局だってそうでしょう。
 人々はそこを見極めて独禁法や税制を使って、連中に規制をかけるなり、潰すなりをしないから、電通のような悪徳企業がのさばる。

 菅が言うように必要な規制緩和もあるでしょうが、規制を強化すべきこともいくらでもあるでしょう。人材派遣の中抜きなんてバンバン規制しろって。


 『ソーシャル企業』とタン氏が言うほど、ボクは企業に対して楽観的にはなれません。けど環境問題にしろ、エネルギーにしろ、少子高齢化にしろ、もはや今の世の中は政府だけで問題を解決することはできません。民間の知恵や活力を生かすことは皆で考えていかなければならない。じゃなきゃ、ムリ(笑)。

 今の日本の政府や社会はFASTでないだけでなく、FAIRでもFUNでもありません。タン氏が言うように『デジタルは社会との対話』である以上 結局 我々次第
 タン氏の講演は示唆に富む、価値あるお話でした。


 今週の金曜官邸前抗議は中止だそうです。無理しないで長く続けていけばいいと思います。

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