特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

燃えて、萌える復讐劇:映画『ジャンゴ 繋がれざる者』

前回も書いたが『主権回復』式典ってひどいなあ。どんなに酷い話でも多少は理(ことわり)があるとおもうのだが、沖縄を切り捨てた4月28日が主権回復式典、まったく意味がわからないもんなあ。いや、沖縄は切り捨てますよ、という日本政府の正直な本音を表していると言えなくもない。
                                              
4月27日の朝日朝刊で『未完のファシズム』を書いた政治思想史の片山杜秀氏が良いことを言っていた。
この式典は『おれたちは日本人という連帯感をくすぐる安っぽい国民統合の仕掛け』だという。『安倍政権の特質を一言でいうと『安上がり』。国民の面倒は見ない。でも文句を言わせないための安上がりな仕掛けをたくさん作っておこうというのが安倍政権の改憲路線』
以前のようにお金をばらまけないのなら、とりあえず精神で統合を図るしかありません。日の丸、君が代靖国神社、主権回復の日、国民栄誉賞。辛い人ほど持っている連帯したいという感情を糾合し文句を言わせないようにする。』、『政権を礼賛している右寄りの人たちは自分たちも切り捨てられる側にいることに気づいていないし、沖縄の心にだけ言及して日米安保に言及しない左の人たちは批判のポイントを間違っている。』

結論として彼は、高度資本主義国家の末路として、国民国家が崩壊の過程にあるからこその主権の強調だろう。とする。

この式典自体はセコかったし(笑)、日本という国家の行く末なんか興味ないけれど、このままいくとひどいことになるんではないか。これも前回書いたユニクロの柳井の発言『年収100万と1億円に分化していく』はある意味 正直だと思う。彼らはそういう社会を望んでいるんだよ。そのためには事実を直視してそういう大企業や政治家に乗せられないこと、現実的な自衛策として自分の付加価値を高めていくことなんだろう(付加価値なんて嫌な言葉だが)。

●『持たざる国』日本は精神論や天皇崇拝を利用して、安上がりにファシズムを構築しようとして失敗したとする。ちなみに著者は俳優の平田昭彦氏(ゴジラの芹沢博士役、レインボーマンミスターK役)のファンだそうです(笑)。

未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命 (新潮選書)

未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命 (新潮選書)

                                                                                               
                                                
行くべきか行かないべきか1ヶ月迷って、見に行ったのはクエンティン・タランティーノ監督の新作『ジャンゴ 繋がれざる者

タランティーノっておタク的な要素は共感できるんだけれど、実際に映画を見るとボクはのれないことが多い。前作の『イングロリアス・バスターズ』も弱虫ユダヤ人で構成されるアメリカ軍特殊部隊がナチスを情け容赦なくぶっ殺す、という構想自体は良かった。だが引用とかディテールにこだわりすぎていて、プロットとか映画の全体的な面白さが軽視されているように感じてしまうのだ。今回は黒人が白人に復讐する西部劇、ということで血生臭いシーンが多そうだったので(R15)、余計に気が進まなかった。

お話は、アメリカ南部に暮らす黒人奴隷ジャンゴがドイツ人の賞金稼ぎの力を借りて、農園に奴隷に売られてしまった妻を取り戻しにいく、そんな感じ。
                                                                                         
実際 見たらめちゃめちゃ良かった。燃えた、萌えた〜。役者、音楽、演出、この3つが滅茶苦茶いいのだ。 奴隷制度を正面から描いた映画はアメリカでも少ないそうだが、画面で見ると改めてひどいなあと思う。エンターテイメントのなかで見ていても滅茶苦茶な制度だということがよくわかる。老若男女を問わず人間を人間扱いしない制度が当時は正当化されていたのだ。

●ジャンゴとクリストフ・ヴァルツ奴隷制とは対照的に、この二人の関係性は対等であることが強調される。

                                        
そういうアメリカの黒歴史を描くエンターテイメントを役者さんはみんな楽しんでやっている感じだった。主役のジェイミー・フォックスやアカデミー助演賞を取ったクリストフ・ヴァルツは勿論、ディカプリオくんの極悪非道な農場主役もはまっていたと思う。奴隷デスマッチ観戦が趣味なんだから。サミュエル・L・ジョンソンの悪徳執事役も笑った〜。あと『マイアミ・ヴァイス』や『刑事ナッシュ・ブリッジス』のドン・ジョンソンまで出てきて尊大な農場主役を生き生きと演じてた。
●ディカプリオ演じる極悪非道な農園主。彼が手にするハンマーは何に使うのでしょう?

そのドン・ジョンソンが率いるクー・クラックス・クラン(正確にはその前身)が徹底的にマヌケに描かれていたところはゲラゲラ笑わせてもらいました。顔を隠すために例のマスクを被ったのは良いが、前が見える、見えないで大喧嘩を始めるのだ。その喧嘩の相手役がデブでおたく役ばかりのジョナ・ヒル(『マネーボール』に出てたおでぶちゃん)っていうのも最高で、タランティーノはマッチョな価値観の白人に悪意を持って喧嘩を売ってるとしか思えない(笑)。
                                                                                                                                                               
そう、この映画では奴隷制度を敷いている白人側が徹底的にこき下ろされる。ジャンゴを助けるクリストフ・ヴァルツを除き、この映画に出てくる白人は文字通り知能が足りないバカばかりに描かれているタランティーノ自身もバカ白人役の一人として出演して、ダイナマイトであっさり吹っ飛ばされている(笑)。
最近は新大久保あたりで頭の悪い引きこもりくんたちがヘイトスピーチをやってるらしいが、だいたい皮膚の色、性別、国籍、そんなもので人を差別をする奴なんかバカで、極悪で、クズだ。この映画で描かれた奴隷制度なんか酷いもんだけど、実際はもっと酷かったんだろう。差別は当時も今もなくなっていないのだ。だから、差別なんかする奴はバカ、そういう風に決め付けてしまっていいんだよ!人を殺すシーンが多いのは趣味が良いとはいえないが、それでもこれはファンタジーなんだ。前半 ラップ音楽がバックに流れる中で、ジャンゴが黒人を苛める白人カウボーイを鞭打つところなんか痛快で、客席で思わず拍手をしたくなった。 クライマックスで黒人音楽が流れる中、ジャンゴが農園のバカ・カウボーイ連中をぶっ殺していくところなんか、感動のあまり涙が出そうになっちゃったよ虫けらのように人をぶっ殺すシーンで涙が出そうになったのなんか、初めてだよ!

●黒人がこんなカウボーイの格好をしているだけで保守派は頭にくるだろう(笑)

                                                   
かような感じで、映画『ジャンゴ』は大変面白かった。話は冗長だし、バランスを欠いたところもあるけれど、良い意味でB級の面白い映画だった。タラちゃん、次は例えば、大日本帝国の軍隊に占領地の人たちが復讐する話とかどうだろうか(笑)。