特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『東芝の行く末』と映画『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』

今日は1日、台風のように風が強かったです。ただの風じゃなく花粉交じりですから、呼吸が苦しい。アニメ『風の谷のナウシカ』では環境破壊の結果、マスクなしでは呼吸ができない未来のことが描かれていましたが、現実が物語に追いついてきたのかもしれません。
●今朝は近所の紅い梅が満開でした。


さて、今朝も東芝がテキサスの原発建設から撤退すると言うニュースが流れてきました東芝、米テキサスの原発計画撤退 巨額損失で継続困難 :日本経済新聞。今更という感じです。


先週14日の東芝の決算発表延期は大きなニュースになりました。日本有数の大企業が決算すらできなかった(笑)。米の原発子会社WHの志賀会長、ロデリック社長が社内で情報隠ぺいを図っていたことが内部通報されたからだそうです。嘘つきは東電も東芝も同じ。 しかも何度も何度も、です。


当初は20%の売却にとどめると言っていた半導体部門も全面売却を含めて検討する、そうです。そうなると時間的に3月末の債務超過脱却は免れず、東証1部から2部への降格見通しも報じられていますhttp://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2984381.html社債の格付けもBへと最低ランクにまで転落R&I、東芝を「B」に3段階格下げ 格下げ方向のモニター継続 :日本経済新聞。これで実質的に社債は発行できないですよね。17日には原発仲間(笑)のIHIからWHの株を約190億も押し付けられる始末です(笑)東芝、IHIからWH株を189億円で買い取りへ :日本経済新聞
                            
そもそも半導体を20%だけ売ろうと言うなんて相手にとってはメリットが薄い、ムリのある話です。かといって半導体を全て売ってしまえば当面の債務超過のリスクは消えますが、それ以降の利益を稼ぐ事業がなくなってしまいます。貧すれば鈍す、を絵にかいたような光景です。

                                                        

TVではそこまで報じられませんが、ニュースを丹念に見ると東芝にはまだまだ隠れたリスクがあることが判っています。メジャーな公開情報だけで少なくとも3つのリスクがあるんです。
1つ目は先週 日経ビジネスが報じた建設中の中国の原発の完成遅れ。今回のアメリカでの損失と全く同じで、中国でもスケジュールが既に3年遅れています。このコストはこれからどんどん増える。東芝内部資料で判明、中国でも原発建設3年遅れ:日経ビジネスオンライン

2つ目アメリカの原発事業の損害が更に広がるリスクです。証券会社は先週 東芝の記者会見後のリポートで以下のように指摘しています。
建設中の原発は全体の進捗率が 30%程度に留まっており、期限内に作業を完了させることは非常に困難であり、更なるコスト増のリスクを払拭できない
ログイン | NIKKO Research Direct

3つ目東芝アメリカからシェールガスを高値で引き取る契約を結んでしまっていること。2013年に東芝は建設中の米原発の電気を買ってもらう代わりにアメリカのシェールガスを毎年220万トン輸入する契約を結びましたウランと原発一体販売応用?東芝シェール輸入劇の裏側 | inside Enterprise | ダイヤモンド・オンライン。ところが、その契約は価格変動リスクを全て日本側が負うもので、従来からその不利が指摘されていました。ジェトロの指摘 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/fc843e7b89028b45/20150158.pdf#search=%27%E6%9D%B1%E8%8A%9D+%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%AB+%E4%BE%A1%E6%A0%BC%27

で、案の上(笑) 今は2013年当時より原油価格が下がって、『シェールガスの引き取り手がない』そうです東芝、不正の土壌は“国との蜜月”か | inside Enterprise | ダイヤモンド・オンライン東芝シェールガスの引取りは2019年から始まります。期間は20年間。日経によると損失は最大1兆円弱と言われています(笑)。その分の損失は来年の決算から発生します東芝の米LNG事業、東電・中部電系が販売支援 :日本経済新聞

                                     
つまり半導体を売って今回の債務超過を乗り切ったとしても、東芝にはこれだけのリスクがあります。『本体には大して儲からないインフラ事業しか残らない』『中国で建設中の原発のコスト増リスク』アメリカで建設中の原発のコスト増リスク』『2019年からのシェールガスの引き取りリスク』
新聞・TVではそんなことを言いませんが、東芝はこの3月を乗り切っても絶体絶命のピンチがまだまだ続くのです。世の中に絶対ということはありませんが、普通に考えれば、もうゲームセットだと思いますよ(笑)。



これらは全て原発によって引き起こされました。幾ら東芝の経営者がウルトラ・バカ揃いだったとはいえ、日本最大級の企業でも原発なんて維持できないってことですよね。
それにしても東電や東芝が事実を直視せず、自分に都合がよい希望的観測ばかりあてにしたり虚偽情報を流していたのは、まさに昔の日本軍そっくりです。防衛相の稲田が『スーダンに戦闘はない』とか国会で言ってるのも同じです。
日本の巨大組織、日本軍も東電も東芝も自助努力では改革できなかったいつも外圧頼みの日本という国自体、国民自体も自助努力では変わることができないのではないか、時々そう思います。


                         
ということで、渋谷で映画『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男映画『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』公式サイト 2017年2月4日(土)全国順次公開

舞台は南北戦争。金持ちがのさばる南部で自由と平等を求めて、リンカーン奴隷解放宣言よりも早くミシシッピ州ジョーンズ郡に白人と黒人が平等に生きる「ジョーンズ自由州」を設立した実在の白人男性ニュートン・ナイトの生涯と闘いを描く


ダラス・バイヤーズ・クラブ』でアカデミー主演男優賞を取ったマシュー・マコノヒーの主演作です。監督は『シービスケット』、『デイブ』(脚本)のゲイリー・ロス

映画が始まると、『この映画は実話です』というクレジットが出ます。で、その後 南北戦争の激しい戦闘シーンが始まります。戦争の愚かさがモロに伝わってくる、非常にリアルな場面が続きます。実はこの映画、見る前はキワモノかと思っていたんですが、大真面目に史実を再現した作品でした。実際 埋もれていた史実を掘り起こすため、監督はハーバード大の研究員になり、10年もの調査を行ったそうです。

                            
前線で衛生兵として働く主人公のもとへ、まだ少年だった甥が訪ねてきます。南軍に農園の収穫物を取り上げられ、徴兵されて戦場へ送られてきたと言うのです。南軍では金持ちは徴兵免除されますが、一般の市民はむりやり徴兵されてしまいます。怯える少年を勇気づけるニュートンでしたが、次の日 少年はあっさり戦死してしまいます。
●主人公(左)と甥。甥は銃の撃ち方も知らない、まだ少年です。


かねてから金持ちを優遇する南軍の現状に苛立っていたニュートンは、甥の遺体を故郷に届けるために南軍を脱走します。脱走者は死刑です。郷里で農民から農作物を略奪する南軍と衝突して追われる身になった彼は隠れ家の湿原で逃亡奴隷たちと出会い、交流を深めます。そして貧しい白人と黒人が力を合わせて武器を取り、南軍と闘うのです。
●見つかれば死刑になる脱走兵の彼ですが、貧しい者や女性に対する南軍の横暴に我慢が出来ず、自ら銃を執って戦いを始めます。

          
      
お話は史実を忠実に反映しているそうですが、現在の社会情勢を色濃く映しています。映画が始まって直ぐ金持ちのための戦争を貧乏人が闘わされるという兵士たちの台詞がありますが、これはイラク戦争でも散々言われたことです。今も昔も戦争の本質ってそうじゃないでしょうか?!政治家は愛国心とか差別を煽って、戦場で命を落とすのは貧乏人や庶民。一部の例外を除いて政治家や金持ちは安全なところでのうのうとしている。この理不尽さに対する主人公と制作側の怒りは、この映画の最初から最後までしっかりと貫かれています。
あと白人と黒人の描かれ方。こういう作品は概して、賢い白人が黒人を導くような描かれ方をするものが多いですが、この映画は全然そんなことありません。主人公は黒人奴隷の女性に息子の病気を治してもらったり、親友として黒人に接したり、両者が対等な形で描かれています。押し付けがましさがないんです。
●日本にだって、こういう差別バカがいるんだから、この映画は他人事でもないし、昔の話でもないです!でも これは↓さすがにバカ過ぎて、思わず吹き出しちゃいましたけど(笑)。

                                   
主人公は寡黙です。金持ちたちの理不尽さに対して、彼は直接行動で対抗します。頼る者は自分だけ。自分の力で何でもやる。如何にも南部の男らしく、彼はリバタリアン自由至上主義者)なんです。リバタリアンの彼は男も女も白人も黒人も差別しません。
●脱走奴隷のモーゼズ(左)は主人公の生涯の友となります。

                          
ダラス・バイヤーズクラブ』の主人公にも良く似た南部男を演じるマシュー・マコノヒー、超カッコいいです。寡黙な主人公の感情を眼力で表現しています。眼を見ているだけで彼の激しい怒りが雄弁に伝わってくる。度重なる南軍の理不尽さに堪忍袋の緒が切れた彼は人種や性で差別するバカ白人の農場を焼き払います。ギリギリまで人を殺すことに躊躇していた彼ですが、最後にはとうとうクズどもをぶち殺していきます。もう、かっこいい!
そんな彼の姿を見て、男も女も白人も黒人も立ち上がり、銃を取り、自由を求めて戦い始めます。感動して泣いちゃいましたよ。リアルな描写を主体にした映画に場違いな感想ですが、農場を焼かれ夫たちを縛り首にされた未亡人たちがバカ白人どもをぶち殺すシーンは実に痛快でした。スターウォーズの3作目でクマちゃんたちが帝国軍をやっつけて以来(笑)、数十年ぶりに戦闘シーンで本気で感激しました。
●服も武器も不揃いな、貧しいものたちの軍隊です。

スターウォーズのクマちゃん。

*こちらはうちのクマちゃん(笑)


500人ほどの勢力になった彼らは南軍を街から叩き出して、ミシシッピー州南東部にジョーンズ自由州という半独立国を作ります。その決まりごとがいいです。


主人公は左翼でも何でもありません。自分のことは自分で決めるというリバタリアンです。現代の政治ではリバタリアンというのはどちらかというと右寄りに見られがちですが、真のリバタリアンというのはこういうものだと思います。自由が最も大事。他人や政府の言いなりにはならない。誰かに搾取されない。侵略戦争などしない自分の自由を尊重するから、他人の自由も尊重する。
                                          
前半は文字通り、血沸き肉躍るシーンの連続でしたが、後半は趣が変わります。南北戦争北軍の勝利に終わり、主人公たちは、いったんは自由を手にします。奴隷制度は廃止されましたが、結局 南部にはかっての支配者階級が復権します。連中はジム・クロウ法や年季奉公制度などの地域法や抜け道を作り、南部では人種差別が続いていくのです。

今度は主人公は黒人たちと一緒に命がけで政治にかかわっていきます。肌の色や貧富に関係なく投票する権利を行使しよう。様々な妨害を乗り越えて、銃を抱えて投票所に入っていく主人公たちの姿は後半の見せ場です。しかし白人たちは不正選挙やクー・クラックス・クランの暴力で、恐怖による支配を進めます。一緒に戦った主人公の親友もクー・クラックス・クランのリンチで、性器を切り取られた姿で縛り首にされてしまいます(解説で知ったのですが、それがクー・クラックス・クランの常とう手段だそうです)(怒)
●主人公と仲間たちは今度は投票と言う、もう一つの戦いを始めます。

      
                                                                    
黒人女性と結婚した主人公も危険にさらされます。今年のアカデミー賞に白人と黒人の結婚を描いた『ラビング』という映画がノミネートされていますが、南部では白人と黒人の結婚は60年代まで禁じられていました。しかし、彼は自分で開拓した土地を離れることを拒否し、自分の信念を貫きとおします。肌の色なんか関係ない、という信念は80年後、彼の子孫にまで受け継がれます。
●黒人女性と愛をはぐくんでいた主人公を、かって彼を見捨てた前妻(左)が頼ってきます。四の五の言わず、主人公は生活に困っている前妻にも救いの手を差し伸べます。

             
結局 南部で黒人が選挙権を手にするのは1960年代の公民権運動を待たなければなりません。夕闇に1人、銃を抱えたまま、自宅のベランダでたたずむ主人公の姿が深い苦悩を物語ります。



自分の信念を貫きとおした男の物語。寡黙な南部のリバタリアンの男を演じるマシュー・マコノヒーはまさに適役でした。80年後の彼の子孫を絡めた脚本も感動的ではあったんですが、唐突でちょっとおさまりが悪かったかもしれません。でも、滅茶苦茶良い映画です。
主題歌が南部で活動するカントリー歌手、ルシンダ・ウィリアムス姉御というところも判ってるなーと思いました。日本の演歌みたいな古臭い価値観が跋扈するカントリー音楽の世界で自立する女性のことをずっと歌い続けてきた、大好きな人です。

                           
権力や大勢に屈しない独立独歩の主人公の姿は魅力的でした。重厚な文芸大作という感じではないですが、歴史に埋もれていた主人公の姿を骨太に描き出すと言う点では大成功しているんじゃないでしょうか。何よりも感情移入しまくりの作品でした。もう、ボクは大好きです、この映画。