特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

人生の夏、秋色の心:映画『ワン・デイ』

例の『エネルギー・環境に関する選択』のパブリックコメント、締め切りが近づいてきました。この年になって夏休みの宿題に追われるとは思わなかった(笑)。でも書くぞ〜。

この件で経団連会長の米倉弘昌脱原発のシナリオに食って掛かったそうです。原発がなければ経済成長は難しいとのこと。経団連会長、「脱原発依存」明記に猛反発 再生戦略 :日本経済新聞
色んな意見があってよいと思うけれど、理屈としてどういうことなんでしょう。今後 労働力人口が減っていくに従い日本の経済成長は鈍化していくのだし、電気やエネルギーをガバガバ使うような成長産業が出てくることも考えにくい(笑)。

一方 同じ日にフクシマの原子炉を作った世界最大の企業GEのCEO、ジェフリー・イメルトは『原発を経済的に正当化するのは難しい』と述べています。今後シェールガスは益々コストが下がる、原発は安全対策などで益々コストが上がる、からだそうです。
●7月31日の日経
米GEのCEO、原発「正当化難しい」 英紙に語る :日本経済新聞
●8月6日の日経続報
[FT]「原発は高くつく」 GEトップの発言は本当か (写真=AP) :日本経済新聞

言うまでもなくGEは見込みがない事業からすばやく撤退して経営資源を有効活用することで世界一になった企業です。その彼らが原発という事業は経済的に見込みがない、と判断しています。別にGEが良心的な企業という話ではありません。彼らはカネのためならハドソン川に大量の汚染水を垂れ流すのも厭わないことでも有名です(笑)。

経団連の米倉が原発にこだわるのは、カネの計算もできない根っからのアホなのか(笑)、余程の原発利権があるか(笑)、どっちかだってことでしょう。
                                           
例のエネルギー選択肢の原案(http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/27th/27-1-2.pdf)には脱原発のシナリオを選択した場合について、ちゃんと こう書いてあります(さすが官僚はアリバイ作りはうまい)。
製造業を中心とした産業構造から、医療・福祉、食料品製造、教育研究など人を中心とする産業構造への転換国内でものづくりを行い製品を輸出することを中心とした社会から、人に対するサービス社会への転換を図るチャンスである。』
原発の是非を考えるということは日本の将来をどう考えるか、ということです。日本の将来像として、どちらが見込みがあるんでしょう。答えは明確だと思うんだけど(笑)。

*相変わらず池田信夫EU委員会の試算を引いてきて原発が一番安いとか言ってるが池田信夫 blog : エネルギーの本当のコスト、2003年のその計算には事故と安全対策のコストが入ってねーだろ(笑)。


新宿で映画『ワン・デイ

大学卒業時に親友になった男女の23年にわたる恋と友情を毎年7月15日にスポットを当て、ロンドンとパリを舞台に描くロマンチックなラブ・ロマンス

普段だったらパスなんだけど、監督が秀作『17歳の肖像』のデンマーク人の女性監督ロネ・シェルフィグ、予告編で見たアン・ハサウェイが思いのほか可愛かった(笑)ので、劇場へ出撃です。
毎年7月15日の出来事だけを述べることでお話をすすめていくという語り口がとてもユニーク。語りすぎることもなく、二人の心境やその変化が伺われてとてもおもしろい。主人公は作家志望の文学少女。作品は売れずにメキシコ料理のウェイトレスで糊口をしのぐ毎日。男はTV司会者として若くして成功し、女の子ともやりたい放題。対照的な二人だが友人以上恋人未満の不思議な関係は続いていきます。
●素朴な文学少女役のアン・ハサウェイ

3年目か4年目の7月15日にイタリア旅行をした二人が夜のプールに飛び込むシーンは特に美しい。7月15日といえば真夏だが、人生の真夏である若い頃のエピソードは真夏の出来事として語られるのがふさわしいです。
前半はそんな、ロマンティックなラブストーリー。見ていて、かなり楽しいです。それが中盤から後半にかけて人生を考えさせるシリアスなドラマに変っていきます。
                                                                                      
この映画に出てくる男はみ〜んなダメ男ばかり。主人公の親友の男はハンサム君だがアルコールと女性に溺れるダメ男だし、主人公が暮らし始めるコメディアンの男もうじうじした性格でギャグの才能も今いち。
読売の映画評でこの監督は男を見る目が辛い、と言ってたけど、確かにそうかも。でも『十七歳の肖像』ではダメ男に頼らず生きていく主人公の姿がすがすがしさにつながってたし、ボクは男には厳しいのでぜんぜん気になりません(笑)。
アン・ハサウェイは可愛かった(笑)。今まで興味なかった人だけど、化粧ッ気のない垢抜けない役を演じるのはぴったり(笑)。キスして鼻の頭を赤くしてたのが、すごく可愛かったです(笑)。そのあと20代から40代後半までを演じるなかで、人生の重みみたいなものも良く表現していたと思います。垢抜けない文学少女が自分のキャリアを確立させ、何人かの男と出会いと別れを繰り返すなかで、内面のバランスが取れた良い顔になっていきます。『17歳の肖像』のキャリー・マリガンちゃんもそうだったが、この監督は女性の精神的に自立した姿を引き出すのがうまい。舞台はイギリスだが、服や街の写し方がなかなかお洒落でフランス映画を見ているような質感もあります。
●女優が本気を出すとこの通り(笑)。

この映画では、主人公がプールで一人、黙々と泳ぎ続けるシーンが何度も繰り返されます。何かの暗喩のようです。主人公が途中であっさりおっ死んじゃうのは意表をついた感じもします。観客席に多く居たシンプルなデートムーヴィーを期待していた観客は怒ったかもしれないけど(笑)。監督としては人生の不条理とそれに対する許しを表現したかったんだろうから、ボクは納得できます。そう、誰だって、いつかはあっさり死んでしまうかもしれないし。
                                               
むしろ、そのあとに残された男たちの後日談が心に染みます。成長した男たちが互いに許しあう姿も、男とその娘が緑の丘を登っていく様も美しかったです。秋の景色の中で描かれる心の色ケン・ローチの『麦の穂を揺らす風』みたいです。
前半はロマンティックな楽しいラブストーリー、後半は人生そのものを考えさせる。お洒落な画面で楽しませたり、アン・ハサウェイの可愛さも引き出したユニークな映画。『17歳の肖像』のビターな続編みたいな感じ。星3.5くらいかもしれないがなんとも言えない余韻がある映画でした 。