特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

小泉純一郎の脱原発と映画『トゥ・ザ・ワンダー』

相変わらず『あまちゃん』を見ながらにやにやする毎日。夏ばっぱの若い頃の役に映画『春との旅』の徳永えりちゃんが出てきたり、GMTのメンバー(沖縄の子)に映画『ホテル・ハイビスカス』の主役だった蔵下穂波ちゃんが出ているのを見ると嬉しくてたまらない。『この子いいなあ』と思っていた子がバンバン出ている。
それでも最近まで、音楽の大友良英と同様、『あまちゃん』の監督が大傑作『その街のこども』の井上剛だったことにずっと気がつかなかった。過度な説明をせずに余韻を残していく演出はなるほど、という感じ。そういえば、昨年の『カーネーション』の脚本も『その街のこども』の渡辺あやだったし、NHKのドラマ恐るべし。

その街のこども 劇場版 [DVD]

その街のこども 劇場版 [DVD]

その街のこども』も『あまちゃん』も震災をテーマにしたドラマだということは共通している。どちらも絆とか薄っぺらい言葉とは全く関係のないこと、人間が理不尽なことに直面した際 どう感じ、どう生きていこうとするのか、そういうことを表現しようとしているのだろう。『あまちゃん』の録画を見てゲラゲラ笑いながら、勝手にボクは思っている。


                                                   
ボクは小泉純一郎という政治家は全く評価していない。急激な緊縮予算で日本を不況に叩き込み、無責任な規制緩和で富の格差を広げる一方、アメリカの要求に応じて郵政民営化に血道を挙げたポピュリズム政治家という印象しかない。実際 こいつが意図していた通り郵政民営化が進んでいたら、リーマンショック郵貯が大損害を受けていたかもしれない

                                                  
先日 彼は経団連の連中とフィンランド原発廃棄物処理施設『オンカロ』を見学に行ったそうだ。そのあと、彼はこんな発言をしたという。http://mainichi.jp/opinion/news/20130826ddm003070155000c.html

『(オンカロの保存期間は)10万年だよ。300年後に考える(見直す)っていうんだけど、みんな死んでるよ。日本の場合、そもそも捨て場所がない。原発ゼロしかないよ
今ゼロという方針を打ち出さないと将来ゼロにするのは難しいんだよ。野党はみんな原発ゼロに賛成だ。総理が決断すりゃできる。あとは知恵者が知恵を出す
昭和の戦争だって、満州中国東北部)から撤退すればいいのに、できなかった。『原発を失ったら経済成長できない』と経済界は言うけど、そんなことないね。昔も『満州は日本の生命線』と言ったけど、満州を失ったって日本は発展したじゃないか
必要は発明の母って言うだろ? 敗戦、石油ショック東日本大震災。ピンチはチャンス。自然を資源にする循環型社会を、日本がつくりゃいい


現役を引退すると頭が冴えてくるのかどうかは知らないけど(笑)、こういうのがリーダーの発想だと思う。事実を冷静に見極め、ピンチの中にチャンスを見出す。これが、あの小泉か(笑)、と立派に見えてしまう。その分だけ今の与野党ともに政治家が劣化しているということだろうか。

                                                     
                                                     

テレンス・マリック監督の新作『トゥ・ザ・ワンダーこのURLのページは表示することが出来ませんでした。 IP分散サーバーならIQサーバー|クラスCの完全分散が月額139円~

モンサンミシェル、パリ、オクラホマをめぐりながら、壮大な映像美とともに描く愛の物語。モンサンミシェルで出会った男(ベン・アフレック)とシングルマザーの女(オルガ・キュリレンコ)。アメリカに渡った二人の愛の移ろうさまをモノローグと美しい映像でひたすら静かに描いていくもの。


出演はアカデミー賞を取ったばかりのベン・アフレック、ボンドガール出身で最近はチェルノブイリを描いた作品に出ているオルガ・キュリレンコミッドナイト・イン・パリに出ていたレイチェル・マクアダムス、神父役に『007 スカイフォール』のラスボス役をやっていたハビエル・バルデム

この監督らしく、いつもにもまして独特な映画。やたらと美しい自然の光景、お話を説明する気は全くない(笑)モノローグと構成。圧倒的な映像美のバックにはドヴォルザークチャイコフスキーが流れる。音響アドバイザーにダニエル・ラノワのクレジットというと、どういう音が流れているかわかってもらえるだろうか。この映画が提供するのは静謐で距離感のある、独特な音空間なのだ。結構混んでいる客席から途中で出ていった人も居たが(笑)、見ていて映画らしい映画だなあ〜と思った。
世界の大きさに比べたら人間の存在なんてどうでもいい、といいたげなテレンス・マリック監督の語り口は健在。絶対好き嫌いがあると思うが、厭世的な語り口はボクは相性がいい(笑)。あと今回の作品は映像の切りとり方が『ソシアリズム』などで見る最近のゴダールに似てると思った。
●ひたすら美しいオルガ・キュリレンコと、どうでもいい(笑)ベン・アフレック


                                                                              
前半に描かれる愛の歓喜、中盤からの波乱、終盤は愛の再生というあらすじはあるが、今回は通奏低音のように社会的な要素が入り込んでいる。アメリカの地方都市に起きている、家の差し押さえ、工場による環境汚染、絶望的なスラム街の状況、それらも圧倒的な映像美で観客に突きつけられる。環境汚染の実態を明るみにしようとする男(ベン・アフレック)も、スラム街を改善しようと苦悩する神父(ハビエル・バルデム)も世界の前ではごく小さな存在でしかない。
ひたすら美しいモンサンミシェルにしろ、荒涼としたオクラホマの地方都市にしろ、大平原にしろ、観客に突きつけられる映像はひたすら美しい。この監督の常套で、全体の7割くらいが午後おそく〜夕方の画像、陽の光の長さが強調された静謐な画像が圧倒的なスケールで展開される。長い、長い午後の光が画面いっぱいに溢れている。
ベン・アフレックも出ているが、この映画の主役は圧倒的にオルガ・キュリレンコ。表情だけで感情を雄弁に表現する演技もさておき、この人の肉体が徹底的に美しい。モンサンミシェルの薄いグレーな風景の中で墨を落としたようなダークな服をまとった肉体像。オクラホマの地方都市での文字通り均斉のとれた肉体(かといって脱いだりするシーンは殆どない)。存在感と美で観客を2時間説得し続ける。テレンス・マリック監督が描く息をのむような自然の美に対抗できるくらい、美しい人間像というのは驚きでしかなかった。ギリシャ彫刻より美しい、と言ったら褒め過ぎだろうか。
                                               
●浮気相手のレイチェル・マクアダムスの造形もひたすら美しい。

●存在感がありすぎるハビエル・バルデムが演じる、慈善活動に勤しむ神父は無力感に苛まれ続ける

                                                       
                                                 
非日常的、人間離れした美しい造形が画面に映りこむことで人間も大きな世界に調和し包まれていく。まるでバッハの世界のようで、ボクのように日常に疲れ切った観客もその中で、ようやく呼吸をすることができる。
過去の名作『天国の日々』にしろ、『シン・レッド・ライン』にしろ、テレンス・マリック監督の映画と言うと普通は3時間(笑)というイメージだが、今回の上映時間は2時間弱というのも良かった。
人によって好き嫌いはあるだろうけど、アメリカ人とは思えない、この静謐な美はボクは大好き。所詮 人間なんて、静謐な美に奉仕するためのものでしかない、というと言い過ぎだろうか。