特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

自分たちを取り戻す:映画『ボンジュール、アン』

与野党対決で注目されていた仙台市の市長選は野党共闘の候補が勝ちました。投票率を見ると44%と酷いもんですが、それでも前回より14ポイントも上がった数字だそうです。ちょっと投票率が上がれば世の中は全然変わるということですよね。


週末の世論調査 安倍内閣の支持率が更に低下しています。各社同様ですが、毎日の場合で支持率26%、不支持率はダブルスコア以上の56%です。大変結構です。支持率の低下が遅すぎるけど。
しじ
内閣支持率:続落26% 「総裁3選」62%否定 - 毎日新聞

内閣支持率39%に続落 「政権におごり」65% :日本経済新聞


冷静に考えれば稲田とか金田とか山本とかは大臣以前に国会議員にしちゃいけないようなレベルだと思います。稲田なんかただの嘘つきなんだから、社会人だって勤まらない。そんなバカに投票した福井のアホ選挙民も悪いんだけど、それを大臣に任命する奴も同罪です。勿論 籠池や加計などの国政の私物化は言うまでもありません。


結局 自分の人生、自分たちの社会は自分たちが声を出していかないとダメ、という当たり前のことが、こんなところにも示されていると思います。政治とか自分とは関係のないものに思いがちだけど、自分を取り戻すためには自分で意思表示をしていかなければならない、というごく普通の話なんでしょうね。



と、いうことで、六本木で映画『ボンジュール、アンbonjour-anne.jp - このウェブサイトは販売用です! - 映画 アニメ動画 ドラマ動画 映画動画 海外ドラマ リソースおよび情報

売れっ子の映画プロデューサー・マイケル(アレック・ボールドウィン)の妻で、子育ても一段落したアン(ダイアン・レイン)は、カンヌ映画祭が終わった後、夫の仕事仲間のフランス人、ジャック(アルノー・ヴィアール)の車でカンヌからパリに戻ることになる。半日で着くはずだったドライブは、ジャックが案内するレストランやオーベルジュプロヴァンスの美しい景色や観光地を楽しむ遠回りの旅になっていって、


まず、原題がいいです。『PARIS CAN WAIT』。人生、どんなに遠回りしても、パリは待っていてくれる。
ゴッドファーザー』などを撮ったコッポラ監督の妻であり映画プロデューサー、『ロスト・イン・トランスレーション』の映画監督ソフィア・コッポラの母でもある、エレノア・コッポラ80歳にして劇映画監督・脚本デビューを飾った作品です。プロデュースには旦那のコッポラ監督も加わっています。
●新宿を舞台にしたソフィア・コッポラのアカデミー脚本賞受賞作。この映画、本当に大好きです。

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お話しはカンヌの豪奢なホテルの一室から始まります。アレック・ボールドウィン演じる売れっ子の映画プロデューサーとダイアン・レイン演じる妻は出発の準備をしています。というか、夫の方は仕事の打ち合わせばかりで荷造りも奥さんのこともほっぱらかし。ホテルの外へ出ると若い女優志願の女性が寄ってくる。まんざらでもない調子でいちゃつく夫に、妻は呆れる顔もしません。この夫婦にとってはいつものことのようです。
●一見 お洒落で仲睦まじい熟年カップルですが。


最近は俳優というより、トランプをネタにコケにしまくるコメディアンとして大うけのアレック・ボールドウィン、こういうインチキ臭い役は天下一品です。さすがのトランプも彼には激怒してますからね。
●トランプ役は大人気みたいですね。


この映画の脚本は監督を務めたコッポラ監督の奥さん、エレノア氏が書いています。コッポラ監督の映画のプロデュースはエレノア氏が務めていましたが、彼女が居るにも拘わらず『地獄の黙示録』などコッポラ監督の撮影現場には若い愛人が公然と出入りしていたそうです。つまり、この映画は奥さんの体験談(笑)。
●仕事でカンヌからブルガリアへ向かう夫(左)と別れ、アンは夫のフランス人の友人ジャック(右)にパリに連れて行ってもらい、夫と落ち合うことになりました。


夫にほったらかしにされているアンはカンヌから次の目的地パリへ、夫の勧めで夫の友人兼仕事仲間のフランス人、ジャックと車で旅することになります。カンヌからパリまで、たった半日のプチ・トリップの予定でしたが、ジャックはフランス人。既婚者だろうがなんだろうが、女性にちょっかいを出す手間は惜しみません(笑)。半日の筈だったドライブは次第に南フランスをめぐる美食と名所めぐりの旅に変わっていきます。
●オープンカーの後部座席にはバラの花束が一杯(笑


映画ではプロヴァンスからパリに至る名所、美食の数々を非常に美しく描かれています。セザンヌの絵で見たセント・ヴィクトワール山が皮切りです。実写では初めて見ました。絵と一緒だ!(笑)と思って興奮しました。。写真でしか見たことがないローマ時代の水道橋も実写では初めて見た。橋の下は遊歩道になっているんですね。こんな調子です↓。
●観光地巡り映画としてもかなり楽しいです。


他にもプロヴァンスのラベンダー畑に、映画の始祖のリュミエールの博物館、マネの『草上の昼食』など名画の風景も実写で再現されます。
●名画を臆面もなく再現するなんて、いかにも田舎者のアメリカ人の感性ですけど、観ていて楽しくないわけがありません。


そういうもので喜ぶのは如何にも観光客然としたアメリカ人の感性ですけど、それは我々も一緒です(笑)。そして旅の最大の愉しみは、おいしい物を食べること!! これは洋の東西を問いません(笑)。
ジェラートを目いっぱい抱えるアン(笑)。観光客ならそうしますよね(笑)


ジャックは道中、様々なレストランやオーベルジュに立ち寄ります。美食で有名な街、リヨンにまで寄り道します。アンの夫と同じ映画業界にいる彼ですが、心の中には人生を楽しむことがより上位にあるのですね。
出てくる食べものも良くわかってるなーという感じです。レストランなども実際のお店だそうですけど、出てくる料理が本当においしそうです。ワイン選びもちゃんとしてるし、仔牛と子羊を合わせて食べるのは成程 と思いました。確かに仔牛も仔羊も旬は一緒。仔牛はミルクの味、子羊は草の味がします。うーん 食べたいなあ。画面を見ていたら、フランスで食べた仔牛とか子羊は日本とは味が全然違ったのを思い出しました。そんな具合で見ていて滅茶苦茶楽しい(笑)。
オーベルジュでドレスアップして美味しい食事をすれば、会話も弾みます


美味しい食べ物とワイン、知的で気の利いた会話。子育ても終わり、夫にも放っておかれている以上に、自分が何者かわからなくなっていたアンは楽しい旅の途中、自分自身にも目を向けるようになります。自分の感情を取り戻すんですね。ジャックはたびたび口説いてきますが、そこはアンも大人(笑)、軽く受け流します。ジャックも大人。無理押ししないスマートさ。そこは二人の知性がクッションになる。名所や名画、食べ物のうんちくを語りながら、会話を楽しむ。そんなやりとりは見ているだけで楽しいです。
●地中海沿岸の強い陽光、美しい水


知的でお洒落な大人二人の美食旅行ですが、時間がたつにつれ、お互いの実生活、そして真情が零れ落ちてきます。子育ても終わって、自分のアイデンティティをどこに求めたらよいか悩むアンの心中、それにフランシス・コッポラの身勝手さ&嫉妬深さやソフィア・コッポラのバカ娘ぶりが容赦なく描かれていて、それも楽しい。人生を楽しむ中年独身男、ジャックの泰然自若とした態度の裏の不安や自分の人生に対する迷いも、ちゃんと描かれています。ただの享楽的なチャラ男じゃないんです。
映画ではコッポラ監督の妻として今まで頭に来たことや意趣返しが描かれているわけですけど(笑)、80歳にもなるとそこは昇華されて普遍的なものになっている。一人の独立した女性像が描かれている。エレノア監督、中々やります。それをコッポラ旦那(笑)も実際にこの映画のプロデューサーとして支えています。過去の贖罪でしょうか(笑)。
●後半になるにつれてアンの表情がどんどん変わっていきます。顔のこわばりが溶けるように笑顔がほとばしるようになる。


ダイアン・レインというと大根役者という印象があったのですが、赤狩りでハリウッドを追放された脚本家を描いた昨年の傑作『トランボ』での主人公の妻役といい、今はとてもいい役者さんになっています。

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今回の50歳を過ぎた美魔女ぶりもすごいんですが、そこに可愛さ、茶目っ気が織り交ぜられています。ちょっと美しすぎるかもしれませんが、自分のアイデンティティに悩む一人の女性の姿が等身大に描き出されています。旅が進むにつれて、ファッションも表情もどんどん変わってくる。若い時 この人がコッポラ監督の映画に出ていたときより、遥かに魅力的です。そういう意味でも過去のリベンジなのかも(笑)。
●旅を続けるうちにアンはかって、自分が写真家になりたかったことを思いだします。


ジャック役のアルノー・ヴィアールという人はフランスの監督兼俳優だそうですけど、この人も適度な茶目っ気の中に知性と哀愁が感じられて、いい味を出していました。お似合いのカップルぶりでした。
●この表情!


深刻さを避けた、お気楽な小品ですけど、観光映画としても、美食映画としても、ロマンスになりそうでならない慎ましやかな恋愛映画としても、何よりも一人の女性を描く映画として優れています。一人の女性の人生の再生の物語と言ったら褒め過ぎですかね。美しい画面も破綻のない語り口も演出も安心して見ていられます。まさに拾い物で、地味な公開の割には映画館が満員になっているのは頷けました。アカデミー賞を取った旦那(コッポラ監督)や娘(ソフィア)より、全然いいと思うくらい。内容の楽しさと適度な深みで90分があっという間に過ぎる映画でした。プロヴァンス、行ってみたいなあ。