特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『燃ゆる女の肖像』

 今朝の東京も氷点下になりました。今日は冬至。一年で一番日照時間が短い日です。
 夏の間はあれほど疎ましかった陽の光が、今はその温かさが愛おしい。人間なんていい加減なものです(笑)。
 今年もあと10日かー。
冬至の朝


 街を歩いていると相変わらず閉店ラッシュです。
 青山の目抜き通り、246の交差点にあるカフェも

 創業24年の有名イタリアンも閉店していたのには驚きました。

 先週 ここのシェフが朝日新聞に出ていたばかりです。
www.asahi.com


 このペースじゃ、いずれまともな食事をすることすら難しくなるんじゃないか、と思えるほどです。
慶應の学食まで潰れかけているそうです。ま、あんまり美味しくはないんだけどな―
www.jiji.com



 それにしても、確かに渋谷や新宿など街の人出はあまり減ってないですね。若い人は気にしている人も少ないかもしれない。大人の店、街だけが減っているのかも。
news.yahoo.co.jp

 それでも、相変わらず政府は無為無策。そもそも政治家自体が宴会やってるし、たるんでる。

this.kiji.is


 挙句の果てにはまだ、GO TOとかオリンピックとかの妄想を繰り広げてる。どちらも今日のニュースです↓。前線の兵士が飢え死にしているのに後方で芸者遊びをやってた、インパール作戦牟田口廉也と大して変わらない。

 もはや菅を辞めさせることが最大の感染対策、経済対策かもしれません。


 と、いうことで、六本木で映画『燃ゆる女の肖像

gaga.ne.jp

 舞台は18世紀、フランスのブルターニュ地方。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、海辺に住む貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)のお見合いのための肖像画を依頼される。しかし、エロイーズは見ず知らずの相手と結婚することを拒んでおり、肖像画を描かれることも拒否していた。マリアンヌは画家であることを隠して、エロイーズに近づき、密かに肖像画を描こうとするが- - -

 19年のカンヌ映画祭脚本賞クィア・パルム賞(LGBTをテーマにした優秀作品への賞)を受賞した作品です。
 肖像画を描くという地味なテーマなのでスルー予定でした。が、日経の映画評で5つ星など高評価が並んでいるので見に行った次第。上野千鶴子まで推薦コメントを出している(笑)。
 監督はフランス人女性監督セリーヌ・シアマ、監督作は見たことありませんが、本当に素晴らしかった2018年の超傑作社会派人形劇『ボクの名前はズッキーニ』の脚本を書いた人だそうです。それはすごい。

ぼくの名前はズッキーニ(字幕版)

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  • 発売日: 2018/08/29
  • メディア: Prime Video
spyboy.hatenablog.com


 18世紀のブルターニュ地方の孤島が舞台です。肖像画家のマリアンヌが貴族の古ぼけた館にやってくる。
肖像画家のマリアンヌ。この時代 数少ない職業婦人です。

 待っていたのは貴族の妻。娘、エロイーズをミラノの大金持ちと結婚させるための肖像画(当時は写真がないので)を描いて欲しいと言うのです。
●貴族の娘、エロイーズ。見ず知らずのオヤジと結婚するなんて拒否しています。見合い写真代わりの肖像画もお断り。

 マリアンヌは自分が肖像画家であることを隠して、散歩相手としてエロイーズに接近します。彼女には見ず知らずの男との結婚を嫌って自殺した姉が居ました。エロイーズ自身も結婚を望んでいません。だから肖像画を描かれることを断固として拒否しています。

 静かな、静かな作品です。荒涼としたブルターニュ半島の自然と古い貴族の邸宅。主な登場人物もマリアンヌ、エロイーズ、若い女中とほぼ女性だけ。キーとなる2か所を除いては音楽も殆ど流れない。

 淡々とした作品ですが、何故か引き付けられる。画面から目を離せない。これは何なんだろう。マリアンヌとエロイーズを演じる女優さんの演技と描かれたキャラクター、荒涼としているけれど美しい自然が端正で魅力的な映像で描かれている。
 この日は運悪くポップコーンを抱えた隣席のバカ女がゴソゴソうるさくて辟易してたんですが、退屈したらしく途中で出ていきました。良かった(笑)。芸術が判らない無教養な奴はこの映画を見る資格はありません。ざまあみろ(笑)。

 マリアンヌもエロイーズも若い女中も自立した人間として描かれている。同性愛をテーマにした作品ですが、全然関係ない、普遍的な人間の存在を描いたドラマです。

 だから描かれている人物が非常に魅力的に見える。
 当時は数少ない職業婦人であるマリアンヌ、深窓の令嬢であるエロイーズ、精神的には優劣ははっきりしているように見えますが、そうではない。二人の力関係は対等です。どちらも意志の強さと欠点を持っている人間です。

 今よりも差別が激しかった18世紀を描くドラマですが、女性たちを取り巻く不平等さの描き方の巧みさには舌を巻きます。エロイーズが結婚を拒否するのもそうだし、マリアンヌが父の名前で肖像画を発表するのもそうだし、若い女中が妊娠し女性たちが堕胎を手伝うシーンもそうです。

 男は殆ど出て来ないからこそ、社会の構造のいびつさが浮き彫りになっている。

 美しい画面でドラマは進んでいきますが、何といっても、お祭りのシーンのすばらしさ。ブルターニュアイルランドと同じようにケルト人の土地です。そこで流れるブルターニュ民謡がエキゾティックであるだけでなく、観客の感情そのものを揺さぶります。この緊張感は感動的でした。

 エロイーズが無言のまま涙を流し続けるドラマのエンディング。最後のロングショット。このオチ?も本当に素晴らしい。

 端正な文芸作品でもあり、現代に通じる女性差別を告発する作品でもあり、プロットがよく錬られたエンターテイメント作品でもあります。
 美しい映像とよく錬られた脚本、演出、演技、どれをとっても素晴らしいです。年末に凄い映画が来ました。これぞ映画、という直球ど真ん中、お手本のような映画です。これは一見に如かず。完成度だけだったら、今年のベスト1かもしれません。

【公式】映画『燃ゆる女の肖像』本予告 12/4公開