特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

使用済み核燃料とスプリングスティーンの新譜『Wrecking Ball』

最近『なるほど』と思った話がある。核燃料サイクルの見直しについて、民主党の中で脱原発を主張している馬淵澄夫という議員が中心になってまとめた使用済み核燃料に関する提言だ。主旨はこう。
現在1万トン以上ある使用済み核燃料を、沖縄を除く全国の各都道府県で分散して保管の負担をシェアしたらどうか
原子力バックエンド問題勉強会 第一次提言 http://nuclear-backend.jp/teigen/120207teigen.pdf

日経ビジネスのインタビューで馬淵はその内容を噛み砕いて、こう言っている。
都道府県で保管負担をシェアするという案は現実的には大問題になるだろうけど、皆で負担を分かち合うという当たり前のことから考えなければ、原発や核サイクルの見直しも進まないのではないか』
●インタビュー前編  http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120314/229801/?P=1

『(アメリカは韓国の使用済み核燃料の再処理を許さないから)、このままでは韓国の使用済み核燃料を日本が再処理を受け持つなんてことになりかねない』とも言っている。
●インタビュー後編 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120319/229959/?P=1
       

公約を破って増税に血道をあげる民主党に今後投票することは金輪際ない、とボクは思うけれど、この中身には感心した。
昔 広瀬隆が『東京に原発を』と言ってたのに良く似ている(ボクは広瀬隆の言ってることはあんまり信用してないが)。自分の近くに使用済核燃料があるということになれば、誰だって原発のことを真剣に考える。本当に自分の暮らしに必要かどうか、自分で情報を集め、自分で考えるだろう。逆に言うと自分がやばいと思ってないからこそ、人間は良く考えずに『国益』とか『エネルギー安保』のような抽象論、大文字言葉を使ってしまう簡単に言うと、真剣に考えない(笑)。

そういうことを言うと、大地震が起こるといわれている関東地方で核燃料なんか保管したらどうなるんだ、というような話は出るだろう。だけど地震の問題は日本中どの地域でも大した違いはない。東京の経済はどうなるんだ、という話もある。でも東京でやばいものは六ヶ所村でもやばい筈だ、そこに人が住んでいる限りは。
1万トン以上も核のゴミがあるのも、今もそれが増え続けているのも、現実だ。ボクも含めて、誰もがそのことを我が身のものとしなければ、またフクシマの事故のようなことが起きると思う。
                         

ちなみに、提言の中で東京電力貸借対照表には使用済核燃料が『加工中核燃料』として7,290億が『資産』として計上されているのが触れられていた。びっくりした〜。現時点の東京電力純資産(自己資本)は9,790億核燃料サイクルを止めたら東京電力はほぼ債務超過だ。つまり脱原発にしろ、核燃料サイクル停止にしろ、東京電力を潰すことと同義、てことだ。だけど約20年、六ヶ所村もんじゅも全く稼動してないんだから、この『加工中核燃料』こそ『不良資産』って言うんじゃないの?監査した会計事務所もどうなってんだよ。カネボウライブドア、AIJどころじゃない、完全に粉飾決算じゃん。いまさらだけど、世の中はご都合主義で出来ているよなあ。




先週ブルース・スプリングスティーンの新譜『Wrecking Ball』 が発売された。アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリアなど14カ国でチャート1位になっている。

レッキング・ボール(初回生産限定盤)

レッキング・ボール(初回生産限定盤)

『レッキング・ボール』とは老朽化した建物をぶっ壊すための鉄球のことだそうだ。色々なレビューでは『もっとも怒りに満ちたアルバム』とか『もっとも政治的なアルバム』とか言われて論争も起きたりしているらしい。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120318-00000523-san-ent

最初のシングル『We Take Care Of Our Own』にはこんな一節がある
シカゴからニューオリンズまで、掘っ立て小屋からスーパードームまで、誰も何もしてくれなかった。騎兵隊は助けに来なかった。』、
スーパードームはハリケーンカトリーナで避難した人々が放置された場所だ。救援の手が差し伸べられないまま、死者まで出た、と記憶している。それは日本で起きている、今も多くの人が避難したままの原発事故と重なって見える。
だから、スプリングスティーンは何度も繰り返す。
星条旗がどこで翻っていようと、自分たちで自分のことをやる。
国なんか相手にしない
。おれたちは自分たちで支えあう。』

                                      
他の歌でも主人公は失業にあえでいたり、工場閉鎖でゴーストタウンになった町に住んでいたり、生活苦に苦しみ犯罪に走ろうとしたり、そういう人たちばかりだ。だからこういう一節が出てくる。
銀行家はぶくぶく太り、労働者はますますやせる。前にも起きた、これからもまた起きる 


この作品には古くはアイルランドのイモ飢饉(笑)、多くの死者を出した労働争議世界大恐慌、人種差別に抗議する公民権運動、多くの地域や雇用を破壊したグローバリゼーション、そしてウォール街占拠などの出来事が反映されている。大恐慌を描いた『怒りの葡萄』、労働運動で歌われた『フォークソング』、公民権運動で歌われた『ゴスペル』などの底流にあるものがこの作品の中にも、ある。この10年間で一番 伸び伸びと歌っているスプリングスティーンの声を聞くと、不条理や不平等に苦しめられた人間の歴史と文化と想いが、寄ってたかって彼の背中を後押ししているように思える。
                    

Wrecking Ball』は単なるポピュラー音楽でしかない。それでも懸命に聞いている人間を叱咤し、そして手をさし延べようとしている。今の日本で起きていることはアメリカで起きていることと大きな違いはない。だからこそ余計にそう、感じるのだと思う。



*3/9,NY,アポロシアターでのスプリングスティーンのスピーチ
『俺たちの使命は変わらない。俺たちは力をもたらすためにここにいる。何時間もぶっ通しで、不況をこてんぱんにするような演奏をするためにここにいるこの厳しい時代にみんなを笑顔にし、心臓を脈打たせ、力づけるためにここにいるんだ』。