特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

おタクたちのノヴェンバー・ステップス:『ザ・ナショナル日本公演』

はっきり言って、今の総理大臣、野田ってとんでもない奴だと思う。
原発の再稼動も消費税10%も、国内で議論どころか説明もしないまま海外へ行くたびに放言してきてしまう。TPPもそのつもりなんだろうか。
自分のクライアントである国民には根拠すら示さない。こういう強圧的な、幼稚な手法はいかにも松下政経塾出身者らしい。そういう幼稚な政治家が小泉以来 与野党ともに、本当に目に付くようになった。
説明責任を果たせない政治家や官僚は簡単に言えば、民主主義の敵だ。賛成でも反対でも、『説明』はそれ以前の問題じゃないか。また、こんな簡単なことも指摘できない新聞もTV報道も存在価値なんか、ない。
そもそも腰が低い独裁者って目茶目茶たちが悪いではないか。え、○阪の態度がでかい独裁者はどうなんだって?(笑)




渋谷で、たった1日だけの『ザ・ナショナル(The National)日本公演』
公式サイト:The National

このロックバンドは日本では全く無名だが、近年ボクは非常に気に入っている。米英では評論家やミュージシャンに評価が高い、知る人ぞ知る存在だった。ところが2010年の最新作『High Violet』はアメリカのチャートで3位、イギリスで5位とブレイクしてしまったのには驚いた。

ハイ・ヴァイオレット

ハイ・ヴァイオレット

デビューして12年くらい経つ男性5人組のルックスが良いわけでもなければ、派手なアレンジがあるわけでもない。このバンドの2枚目のアルバム『薄汚い恋人たちの悲しい歌』(Sad Songs For Dirty Lovers)、3枚目『ワニ』(Alligator)、4枚目『ボクサー』(Boxer)、最新作の『鮮やかな紫色』と傑作ぞろいだが、どれも白と黒だけのモノクロの光景、まるで孤独な男が自分の日記を独白しているような世界が広がっている。

演奏は7時きっかりに始まった。
1曲目のタイトルはいきなり『悲哀』(Sorrow)(笑)。次は『誰かの亡霊』(Anyone's Ghost)。歌っている最中は観客と目を合わせず終始うつむき加減でマイクスタンドにしがみつくボーカリスト、マット・デヴェンドルフくん。最近珍しい3ピースのスーツが似合っているぜ(笑)。



だが、音は違う。演奏を1分くらい聴いただけで気合が伝わってくるくらい、ビシッとした音だ。
バスドラとタム・スネアだけの独特な配置の強靭なドラムとソリッドなベースのリズム隊(うまい)。それに音響系というかエコーとノイズを聞かせたギター、更にトロンボーン&トランペットが重なり、流麗なメロディを奏でる。ボーカルは独白のように淡々としているが、時折、文字通り狂ったようにぶち切れ、暴走する。


どこか他と違っている。ゆがんでいる
普通のロックバンドは一体となった演奏をしようとするが、『ザ・ナショナル』の演奏は各パートが分離されて、まるで、色々な色が重ねられた淡い水彩画のようなのだ。だけど音楽は激しい。今までのロックの概念から微妙にずれているのだ。音がくっきりと浮き出すミキシングもめちゃめちゃうまいのだろう。日本とは全然レベルが違うと思った。


11月の夜に響く奇妙で淡々とした、暗いが躍動的な音楽。それが心地よくて体が自然に動き出し、ステップを踏んでしまう。これが本当の『ノヴェンバー・ステップス』だ(笑)


5曲目くらいの『ボクはみんなが怖い』(笑)(Afraid Of Everyone)で会場の熱気がもう一段、レベルがあがる。CDよりはるかに攻撃的な演奏。 さらに以前のアルバムから『シークレットミーティング』、『薄汚いヴィクトリア』(Squalor Victoria)などが演奏される。さらに盛り上がったのは4枚目からの『虚構の帝国』(Fake Empire)。崩壊寸前の男女の冷たい真夜中の時間を歌ったこの曲は、映画『ザ・カンパニー・メン』(社畜)でも、リストラされたベン・アフレックが再就職が決まったと思ってぬか喜びするシーンで効果的に流されていた。そういう曲だ。


音楽の印象からしてこのバンドの人たちは絶対に観客に話しかけたりしないと思っていたが、実物はみんな気さくな兄ちゃんですごくフレンドリー。曲間のMCでも『(円高で)東京のサブウェイがめちゃめちゃ高くて参っちゃったよ』とぼやいたりする。
会場の1000人くらいの客の半分弱は外人。ここまで外人比率が高いのは初めてだ。若い人から年配まで満遍なく、男女比率も半々くらいなのも珍しい。普通アメリカ人はうるさいくらい野次やら口笛を飛ばすんだけど、その日はほとんどない。それどころか演奏に合わせて、暗い(笑)歌詞を真面目に歌っている奴が結構いる。そういう体験も初めて。



全部で20曲近くやっただろうか。
アンコールでは、学生時代に女性にふられた怒りをこん身から炸裂させる(笑)『ミスター・ノヴェンバー』。さらに『今日、ボクは目をつぶって、そして彼女を失う。』と淡々と繰り返すのが印象的な『今日という日について』(About Today)。そのあとデヴェンドルフ君が会場にダイブしたあと、『恐ろしい愛』(Terrible Love)をスケール感たっぷりに演奏する。

最後はメンバー全員がステージ前面に出て、マイクを捨てて肉声でうたいだす。『High Violet』のラスト曲『ヴァンダーライルの泣き虫オタクたち』(Vanderlyle Crybaby Geeks)を観客と一緒に大合唱。日本人も外人もこんな歌詞をみんな一緒に、だ。
オタクたちに全部 説明してあげるよ』(I'll explain to the geeks)



内省と身体性が両立された音楽
こういうバンドがアメリカのような国から出てきて、マニアだけでなく普通っぽい人たちの間でも市民権を得つつあるのには本当に驚いた。世の中が変わりつつあるのを身を持って実感した。


これだけ充実した演奏はこの10年くらいで見たロックコンサートではベスト、だったかも。声を挙げ、手を振り上げて踊ってしまったのも久しぶりだ。

ボクは以前 フェディリコ・フェリーニの映画『道』を見て逆に元気になった(笑)という体験があるのだが、ひたすら暗いものを見ると逆に活力が湧いてくるみたいなことってないだろうか。
それと同じだ。体の中で何かが反応した。
すごいものを見てしまったのだ。