特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『80年代のムーンライダーズvol.1@六本木』と『今年の映画ベスト10』

 やっと冬休み。ホッとしています。
 今年もいよいよ押し迫ってきました。今回が今年 最後のエントリーです。
 思い返すと、あまり良い世の中ではありませんでした(笑)。戦争、経済、政治、どれも酷かった。世の中が衰退する過程を目の当たりにしている気がします。
 それでも日本が大きな災害や戦争に見舞われなくて良かったとは思いますが、他国で起きていることは他人事ではない、とも思いました。累卵之危という言葉を思い出します。

 個人的には家の引越しという15年ぶりの大きな出来事がありましたが、内面では『死』を意識した1年でした。頭をぶつけて死にかけたし、大好きなミュージシャンが亡くなりました。岡田徹ムーンライダーズ)、バート・バカラック、ロビー・ロバートソン(ザ・バンド)、他にもトニー・ベネット、ランディ・メイズナー(イーグルス)、シネイド・オコナー、高橋幸宏坂本龍一、パンタ、鮎川誠、枚挙に暇がありません。

 彼らは作品という生の証を残しました。何も残していないどころか、ロクでもないことしかやっていないボクは焦りを感じると同時に、もうちょっとは生きていたい、と改めて思いました。

 皆さんはどんな1年でしたか。つたない文章を1年間読んでくださってありがとうございました。どうか良いお年をお迎えください。


 さて、今週はムーンライダーズのライブを見に六本木へ行ってきました。

 

 ライダーズは結成46年の日本最古のロックバンド、平均年齢は70歳になっているはずです。今年もキーボードの岡田徹氏が亡くなりましたが、すでにメンバー6人のうち2人が亡くなっています。
 ボクが日本のバンドで気に入っているのはムーンライダーズだけです。とにかく見られるうちに見ておかないと、思っています。 

 今回は題して『80年代のムーンライダーズvol.1』。ライダーズが80年代に残した作品から選曲するライブです。

 

 80年代はYMOなどがブームになった余波で(笑)、ムーンライダーズも比較的売れた時期です。この日も鈴木慶一氏は『A面、B面とも化粧品会社のCMタイアップが入ってもシングルは全く売れなかった』(笑)と言ってましたが、作品が充実していたことは間違いない。ひねくれたものばかりだったのも間違いありませんが(笑)。

 80年代の作品をやると言っても、懐メロではありません。
 当時とはアレンジも全く変えています。時折インプロヴィゼーションを入れてくるなど新しいものになっている。
 昔のステージではCDのテンポの早いコンピュータの演奏を人力で再現するとか、ずっと客席に背を向けて顔を見せずに演奏するとか訳の分からないことをやってました(笑)。今は気負わずラフでリラックスした演奏だけど、より自由に先鋭的な音を出している。

 昔の曲をやっても全然古くないどころか、彼らが30代だった頃より、70代になった今の方がはるかにかっこいい。年下のボクにとってはまさに生きるお手本です。

 中盤にはいつもレアな曲をやりますが、この日は蛭子能収先生が作詞した『だるい人』が登場しました。『音頭』のリズムを使ったこの曲、ボクは記念すべき?このブログの第1回だるい人 - 特別な1日で取り上げたくらい影響を受けました。『突然 顔がだるくなる』なんて歌詞は、蛭子さん以外に誰が思いつくのでしょうか(笑)。


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 本編の最後はオリジナルでは『30歳以上は信じるな』とうたわれていた『Do'nt Trust Anyone Over 30』。今回の歌詞は『70歳以上は信じるな』、『私たちを信じるな』(Do'nt Trust Us)と変えられていました。ライダーズの真骨頂です。

 アンコールは鈴木慶一氏が『あまりにも多くの人が亡くなってしまい、今年はなかったことにしたいくらいだ』と述懐したあと、今年亡くなったライダーズの岡田徹氏作で高橋幸宏が良く歌っていた『9月の海はクラゲの海』、そして今年亡くなったパンタが歌っていた『くれない埠頭』。

 今年は3回もライダーズのライブを見ることができたのは幸せでした。昔はライブは数年に1回しかやらなかったし、10年代後半はドラマーのかしぶち哲郎氏が亡くなって5年間も活動休止していたから猶更です。
 70代前半だった頃のボブ・ディランを見に行った時 彼は殆ど座りっぱなしでオルガンを弾きながら歌ってました。ライダーズの面々は立ったまま2時間ぶっ続けで演奏してもびくともしない。
 彼らにはまだまだ、ボクの人生の伴走・伴奏をお願いしたいです。

●この日のセットリスト


 そして、今年の映画ベスト10。
 今年見た映画は70本弱くらいでしょうか。良い映画が沢山ありました。ベスト10は完成度より、自分の好みが反映されています。
 あと、12月も終盤になって公開された『PERFECT DAYS』は来年に廻します。もちろんベスト10には入りますが、良くも悪くも言いたいことが山ほどあるので(笑)。

1位:離れ離れになっても(1月)

 見た瞬間から今年のNO1に決まってました。70年代の『鉛の時代』(過激派と極右のテロが続いた時代)からポピュリズムに翻弄される現代までのイタリアの近現代史を描いた作品です。

 政治と経済と恋愛、国は違いますがボクも同じように生きてきた時代を描いた見事な脚本というだけでなく、主題歌がボクの人生を伴走してきてくれたクラウディオ・バリオーニですから、どうしても個人的に感情移入せざるを得ない。ボクにとっては奇跡のような映画でした。


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*今年のイタリア映画祭でムッチーノ監督が10年前に若い登場人物たちで似たような群像劇『もう一度キスを』を作っていたのを知りました。今作はその10年後の発展形でした。

2位:バービー(8月)

 男性優位主義とそれを内面化した女性、マテル社、新自由主義などに圧倒的な完成度で全方面にケンカを売りまくる傑作(笑)。こんなラディカルな映画を大資本で作って、しかも世界的には今年NO1の大ヒット、ですから恐れ入ります。サントラもビリー・アイリッシュの主題歌もサイコーです。

3位:鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎(11月)

 物語は悲しく、美しい。そして今に続く大日本帝国の戦争責任と家父長制を撃っています。これは凄い。見事な作品です。

4位:ザ・ホエール(4月)

 どんな人間にも救済は訪れるという信念の映画。マジで演技と言う域を超えた見事な演技。ブレンダン・フレイザーのアカデミー主演男優賞受賞は当然です。

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5位:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3(5月)

 とにかく、動物実験は絶対許せない。仲間を助ける話から始まり、やがて弱者を救い、自分をも救う物語です。感動で何度も泣きました。今年一番泣いた映画かも。ヒット曲満載のこのシリーズですが、エンディングでスプリングスティーンの’’Bad Lands''が3作で唯一、フルコーラスで流れます。そういう映画です。

6位:ランガスタラム(7月)

 前半のダンスはサイコー。インド映画らしい普通に面白いエンタメが、終盤は社会派の政治劇に変わります。ハイブロウなラストも凄い。カースト制度との闘いです。

7位:キラーズ オブ フラワームーン(10月)

 あまり好きなお話ではないですが、これだけ完成度が高いと評価せざるを得ません。3時間半が全然長くない。きっと今度のアカデミー賞は総舐めじゃないですか。ノンフィクションをもとにした見事な脚本、俳優さんたちの火花散る演技合戦、素晴らしい音楽はロビー・ロバートソンの遺作です。

8位:一秒先の彼(7月)

 台湾のオリジナルは素晴らしかったですが、宮藤官九郎の脚本でリメイクした今作も負けてないです。コメディタッチの雰囲気はほのぼのとしつつも、人生を肯定する強い信念が感じられます。岡田将生ら好演する俳優さん達だけでなく、コロナ禍で人がいない京都の空気がもう一つの主役です。今となっては奇跡の瞬間を捉えました。

9位:ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい(4月)

 ぬいぐるみとお喋りする大学サークル、という奇妙なお話だけど、真綿で首を絞められるような現代の同調圧力と闘っています。これもまた、京都を舞台にした青春映画の秀作です。

10位:怪物(6月)、ロスト・キング 500年越しの運命(9月)、ザ・クリエイター/創造者(10月)
 『怪物』は判りやすく面白いけれど、差別を糾弾する社会派、という万華鏡のような作品でした。教科書っぽいけど流石、是枝監督。何よりも夏の日差しが美しい。

 『ロスト・キング』は報われない者たちの賛歌。いい話ですが、実話というから驚きます。スティーブ・クーガン、カッコいい。

 『ザ・クリエイター』はギャレス・エドワーズ監督らしい、久々に面白いSFでした。ディズニーのような大資本がこれだけアメリカに対して批判的な映画を創るとは驚きです。お話だけでなく、アジア風味の映像が美しい。