特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『ムーンライダーズ LIVE 2022』と映画『デリシュ』

 先週土曜のTBS『報道特集』、『岸・安倍3代と旧統一教会』というのは面白いトピックでした。
 特に安倍晋太郎との関係。単に信介の後を継いだからと思っていたのですが、晋太郎は選挙に1回落選してから自ら統一教会との関係を強めていった。清和会の数を増やすことにも懸命になった。
 その様子を見ていた晋太郎の妻、洋子は息子の晋三に『あまり統一教会と関係を持つな』と言っていたそうです。

 この日はレギュラーとして金平キャスター最後の出演でした。
 金平氏が『これからもより長く、より深く取材を続けていく』と挨拶したあと(筑紫哲也氏の遺品のクリップボードを使い続けているそうです)、膳場氏が『志を変えずに番組を続けていく』と言っていました。一安心と言えば一安心ですが、ここまで言うのはやはり、上層部から何らかの圧力はあったのだろう、とは思いました。

 企業だろうが役所だろうが、共産党だろうが統一教会だろうが(笑)、どんな組織でも組織の論理があります。現場には何らかの圧力はあるものです。
 そこで如何に個人が良心を発揮するかが、その人の存在価値です。TBSの執行役員にまでなった金平氏はさぞ社内の風当たりが強い筈です。自分だけでなく部下や後輩もいるから、単純に上層部と喧嘩すればよいと言うわけではない。それでも彼が志を失わず仕事をし続けているのには、同じようにサラリーマンであるボクも勇気づけられます。
 
●バッタモンの国葬の方が高いなんて、これも酷い話です。


 さて、土曜日は台風の大雨と雷の中、ムーンライダーズのコンサートへ行ってきました。

 今回は3月の45周年記念コンサートに続いて、同月に発売された11年ぶりの新譜(笑)「It's the moooonriders」の発売記念ライブです。

●この日のティーザー
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 CDが3月に発売されたのにライブが9月になったのはギターの白井良明氏が入院していたからです。キーボードの岡田徹氏は現在入院中でこの日はお休み。なんと言っても平均年齢が70歳近い日本最古のロックバンドですから、いつまでステージが見られるか判りません。

 昔は何年も活動しないことがあるのは普通だった彼らが近年活発に活動しているのは、自分たちに残された時間を意識しているに違いありません。この1,2年は年に何回もステージをやってますが、数年おきにしかやらなかった過去のことを思えば全く信じられない。ボクも見られるうちは全部見よう、と思っています。

●彼らの写真が使われているタワーレコードのポスター『老齢ロックの夜明け』(笑)

 当然のことながら、演奏は新譜が中心です。このCDは音作りなど異常に力が入った力作でしたが、圧倒的な名曲がなかったのが残念でした。しかし、実際に演奏を聴くと、『こんなに良い曲だったんだ』と思えるようなものばかりで改めて感心しました。

 2重、3重にひねくれた曲調と演奏はいつものライダーズです。普通 発売記念というとCDに忠実に演奏するものですが、既に編成自体がブラスを入れてCDとは変わっているし、アレンジも変えてくる(笑)。それが新鮮です。過去の名曲は幾らでもあるのですが、新譜中心でもまったくダレない。

 今回の新譜では『初めて政治という言葉を使った』(リーダーの鈴木慶一氏)。今までは『ずっと政治的なワードを使わずに政治を歌ってきた』バンドでしたから、驚きでした。この人たちの目から見ても今の世の中には危機感があるんだ、と思いました。

 この日やった過去の曲は亡くなった橿淵哲郎氏や療養中の岡田徹氏の曲が中心。感心するのは過去の曲をやっても、テンポを落としたりしないこと。ライダーズは日本で最初にシンセサイザーやコンピューターを演奏に使ったバンドの一つですが、今はバイオリンやギターによる人力で、機械が演奏していたフレーズを同じスピードで弾いている。
 最近はステージでコンピューターを使わないバンドなんか殆どないと思いますが、今のライダーズは逆に全く使わない。結成45周年を経ても現在進行形のバンドです。

 この日のセットリストは以下の通り。最近はネットに上げてくれる人が居るから助かります。

 休みなし、2時間20分あまりのステージは

 と歌われる『私は愚民』で終わりました。が、ステージの緞帳が降り、照明がついて、客が会場を出て行き始めても、緞帳の裏で彼らはインプロヴィゼーションの演奏を続けていました。いかにも彼ららしい捻くれようです。さすが(笑)。

 緞帳の裏の『火の用心』のポスターが可笑しい。

 中央の女性はCDにも参加していた歌手のDAOKO(全然知りませんでしたが、18年の紅白に出たそうです)。ライダースの面々との足の長さの違いに愕然とした(笑)。彼女は『父親がライダースの曲を聴いていた』と言っていました(笑)。

 日本最古のロックバンド(笑)にも拘わらず、ムーンライダーズは新しいことをやり続けている。いつも発見があります。これもまた、歳の取り方のお手本です。
 また12月にもステージがあるそうで、ぜひ行きたいです。

●帰り道の駒沢公園。台風が通り過ぎたばかりで、誰も人が居なくて美しかった。


 と、いうことで、有楽町で映画『デリシュ

舞台はフランス革命前夜のフランス。公爵の料理人を務めるマンスロン(グレゴリー・ガドゥボワ)は、公爵(バンジャマン・ラヴェルネ)主催の食事会で、当時の貴族はあまり口にしなかったジャガイモとトリュフを使った創作料理を出したことで不興を買い、解雇されてしまう。息子(ロレンツォ・ルフェーブル)を連れて実家へ戻ったマンスロンのもとに、謎の女性、ルイーズ(イザベル・カレ)という人物が料理を学びたいとやってくるが。
delicieux.ayapro.ne.jp

 舞台はフランス革命前夜の1789年。貴族たちはお抱えの料理人が作った美食を楽しむ一方、多くの庶民は食うや食わずの時代でした。
●公爵の料理人、マンスロン(左)

 
 当時は新しい調理法などもっての外。古くから伝わる決まった料理を出すだけだったそうです。公爵の料理人だったマンスロンはそれに飽き足らず、貴族たちの宴会にジャガイモとトリュフを使った創作料理を紛れ込ませます。

●公爵(右)と聖職者

 美味しいと喜ぶ貴族たちに呼ばれたマンスロンが『ジャガイモと黒トリュフ』を使ったと説明をすると、貴族たちは激怒、マンスロンは解雇されてしまいます。
●これがその料理。『デリシュ』

 当時は鳥や木の上になる果物など、土からなるべく離れたところにある材料が高級とされていて、土の中に出来るものは高貴な貴族が食べるようなものではない、とされていたそうです(笑)。現代はトリュフが超高級食材になっているなんて、当時の人には考えられないでしょう。
 

 マンスロンは憤りと落胆を胸にしながら、故郷の村へ帰ります。そこに謎の女性、ルイーズが『料理を教えてくれ、弟子にしてくれ』と押しかけてきます。頑として断ったマンスロンでしたが文字通り、梃子でも動かないルイーズの強引さに負け、マンスロンは料理を教えることを承諾します。
●ルイーズ(左)とマンスロン

 当時は旅程の途中 馬の水や飼葉の世話をする中継所で人間向けにスープを出すような場所はあったけれど、外食を楽しむという習慣はありませんでした。庶民も貴族も同じ場所で食事をするレストランと言う概念もない。中継所を営むマンスロンの実家もスープしか出していませんでしたが、ルイーズに鼓舞されたマンスロンは紆余曲折の末、そこで料理を出すことにします。

 その評判は公爵の耳にも入ります。マンスロンがいなくなったあと、美食に飢えていた公爵はマンスロンの始めた店『デリシュ』を訪れることにします。しかし何やらルイーズにはたくらみがありそうでした。

 この映画、画面が美しい。室内の光と影、画面の構図、料理、事物も光も影も非常に美しく配置されています。印象派の絵画を見ているようです。

 お話も良く、練られている。痛快な最後のオチも含めて、誰が見ても楽しめる物語になっています。
 公爵は『料理は芸術であり、それを理解するには知性がなくてはならない。庶民には料理の味なんか判らない。』と主張します。芸術全般に当てはまる話ですが、ある意味正しい。
 だがジャガイモや黒トリュフは下劣、なんて言ってるような貴族たちの偏見もおかしい。貴族たちの狭いサークルの中で芸術がとどまっていては進化はない。

 料理人の使命は食べた人を幸せにすること。身分にかかわらず色々な人が一つの場所で一緒に料理を味わってこそ、真の美味しさが感じられるのではないか
 背景にはフランス革命があることも相まって、映画はこんな問題意識を問い続けます。


 ところどころに見られる描写、ジャガイモを食べたフランス貴族が『俺たちはドイツ人じゃねー』と激怒したり、料理を個人別に別々のお皿で出すのが当時は『ロシア風』(田舎風)だったり、相手が既婚だろうが何だろうが愛人を作り放題とか、今と全く異なる習慣、風習は面白い。

 フランスは18世紀にもなって外食の習慣がなかったというのも驚きです。水滸伝などに出てくるように中国なんか、その数百年も前から皆が飲食店で外食をしていたじゃないですか。やっぱり当時のヨーロッパの文化レベルはそんなものだった。映画は時代考証はきっちりやっているそうですが、目を丸くしました。

●公爵は愛人(既婚者)をとっかえひっかえで美食に誘っています。

 あと描かれている料理が美味しそうなこと。

 当時はオーブンなんかないけど、暖炉でパイの包み焼きなんか作っていたんですね(笑)。パンを始め、何でも完全手作り。

 

 材料のトリュフや鶏は森にとりに行けば取り放題、ワインは樽で仕入れる、というのも何と豊かなことか。

 貴族だけかもしれませんが当時の食生活はある意味、今より遥かに豊かだったかもしれない。


 『民主主義と芸術』という現代にも通じる問題意識を持ちながら、ちゃんとしたエンターテイメントに仕上がっています。評判が高いだけあって、単にグルメ映画と片付けるには勿体ない、良くできた映画でした。


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