特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『知らなかった』ではなく『知ろうとしなかった』:映画『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』

 いつもいつものことながら週末が過ぎるのは早いです。
 今はもう、楽しかった夏休みが遠い昔のことのように思えます(泣)。

 週末の話題をいくつか。
 まず、土曜日に放送されたTBS『報道特集』、番組の時間の殆どを費やした統一教会特集は確かに力作でした。
 「自民党政調会長の萩生田は以前は月に1回は教会へ足を運ぶほど、統一教会と深いつながりをもっていたこと」、また「地方議会にシンパとなる議員を増やして『同性婚反対』や『選択的夫婦別姓を認めない』など個人に干渉する連中の政策を実現させようとする計画が進んでいること」を証拠を示しながら報じていました。

  政治家が『知らなかった』だの『今後は適切な関係をとる』だの言い訳しているのは、その政治家が如何に意識が低いか、つまり自分の利益のためには社会の利益を損なうような団体と手を結ぶことも厭わないことを示しています

 国民を守るどころか、霊感商法や家庭破壊の被害者なんか気にも止めていない。何よりも個人の自由や尊厳を守るという意識なんかない。自分の選挙の方が大事、という訳です。

 政治家も多くの国民も、『知らなかった』ではなく『知ろうとしなかった』のです。


 もう一つ。リナサワヤマという歌手がいます。この週末、彼女のことが話題になりました。
 新潟生まれロンドン育ち、両親の離婚で苦学しながらケンブリッジ大を出てファッションモデルになり、そこで貯めたお金で自力で歌手デビューしたという人。既にイギリスでは売れっ子で、キアヌ・リーブスの新作映画『ジョン・ウィック4』のヒロインに抜擢されています。
 ちなみに今 アメリカではmitsukiという日系女性の歌手がブレイクしていますが、mitsukiもリナサワヤマも椎名林檎の影響が感じられるのは面白いです。勿論 彼女たちの方が椎名林檎より遥かに恰好いいですが、女性へのエンパワーメントという意味では椎名林檎が果たした役割はあるのかもしれない。

 話題になったのは土曜日に行われたロックフェス、サマーソニックでの彼女のパフォーマンス。ラストの曲の前に舞台上からこう、呼びかけました。『G7で同性婚が認められないのは日本だけだ。日本という国が恥ずかしい。一緒に戦ってくれ。』と。

 それに対して『感動した』という声だけでなく、いつものアホどもの『音楽に政治を持ち込むな』という声(笑)、更に当日 外国人の出演者を揶揄するくだらないパフォーマンスをした日本のバンドへの憤りがネットに出ていました。ホルモンとかking guみたいなクソバンド、さっさと死ねばいいのに。

 いかにも日本的な光景、です。『(LGBTQも含めた)個人の自由や尊厳を守る』という意識に甚だ欠けているのが音楽界でも露わになっている。
 多くの日本人の意識は世界に取り残され、ガラパゴス化してしまっているということなのでしょう。
 これもまた『知らなかった』ではなく『知ろうとしない』。狭い殻に閉じこもって日本人は自分の責任、主体性を放棄し続けている訳です。
 

*これ、面白いです。どこまで影響があったかわからないけど連合の会長、芳野と統一教会の接点。


 と、いうことで、有楽町で映画『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言

www.universalpictures.jp

 元親衛隊、元女子青年団強制収容所周辺の住民、強制労働の現場など、ナチス支配下のドイツ・第三帝国を知る高齢者達にインタビューしたドキュメンタリー。ナチス政権下のドイツで幼少期を過ごし、ホロコーストを実際に知る最後の世代である彼らの証言を映し出す。監督は祖父母が強制収容所で殺されたユダヤ人、ルーク・ホランド

 通常、証言を集めたドキュメンタリーは戦争の被害者を扱ったものが多いと思います。特に日本ではそうです。時折 加害側の証言をする人もいますが、殆どが現在は悔悟の念を持っている。わざわざカメラの前で証言をするのですから、当然といえば当然です。

 このドキュメンタリーはそうではありません。ナチの戦争やユダヤ人虐殺を不可抗力だった、正当だったという人の証言も取り上げています。

●元親衛隊員

 彼らの言い分は様々です。一番多いのは『ユダヤ人虐殺など知らなかった』という弁解。他にも『我々は戦場で戦っていただけで、ユダヤ人虐殺には関与していない』というナチスの親衛隊員や『ナチスの政策は間違ってなかった。他の国に移住させればよかった。』と言い張るジジイもいます。

青年団

 責任を認めない者に対しては、監督は冷静に突っ込みを入れていく。
 話をしているうちに『知らなかった』というのは殆どが嘘であることが分かります。多くのドイツ人はユダヤ人迫害を知っていた。戦争前のユダヤ人への迫害は白昼堂々と組織的に行われていたし、一般住民もそれに加担するものもいた。男も女も、です。

●家から連行されるユダヤ人少年(実写!)

 ユダヤ人虐殺は極秘にされていた、と良く言われますが、証言を聞く限り、収容所周辺の住民や出入りの業者はそこで何が行われているか、良く知っていた。様々な物資が消費される収容所や軍事施設を建設するユダヤ人の強制労働の現場は地元経済を潤す一大産業だったからです。まったく知らなかった、なんてありえない。
 ドイツ人はユダヤ人の迫害や虐殺を薄々は知っていた。もしくは見ぬふりをしていた、または知ろうとはしなかった

 今 『統一教会のことを知らなかった』と大勢の政治家が言っています。安倍晋三杉田水脈のような生来の嘘つきを除けば、多くの政治家は知ろうとはしなかっただけではないでしょうか。国民もそう。
 この映画で描かれていることは現在の我々と繋がっている。 

 虐殺があったとする証言者が現代の若者たちと討論をするシーンがあります。『ユダヤ人虐殺は恥だ』という証言者に対して、『いつまで我々は恥ずかしいと思わなければならないのか』と反論する若者が出てきます。『ドイツでも日本でもアホの発想はよく似ている』とは思いましたが、その若者はカメラの前で顔を隠している。一方 カメラの前で顔を出している他の若者たちは黙っている。
 過去のドイツと現在のドイツでも同じことが起きているのが、こういうシーンからでもよく判ります。

 この人たちの証言をどうやって撮ったのだろう。証言をする人の殆どは一般の人たちです。ユダヤ人虐殺を隠したりナチを肯定していても頭がおかしい、という感じではありません。一般の人が如何に簡単に社会の雰囲気に流されていくか、ということを実感させられます。

 淡々とした証言が続くドキュメンタリーです。ですが、全然退屈しません。時折 反論はするにしても、監督は加害者にも自由に証言させています。ユダヤ人迫害を一方的に断罪するのではなく、この人たちは何故そういう行動をしたのか、そして、今何を考えているのかを浮き彫りにする作品になっています。
 冷静な描写に徹しようとする監督の内心は複雑だったと思いますが、あくまでも過去ではなく『今』の物語になっているから、観客にとっても切実感がまるで違うものになっている。

 日本も同じですが、戦争体験者は高齢になり証言を聞く機会も段々と少なくなってきています。この作品は、その貴重な証言を加害側も含めて自然に引き出しているから、説得力もインパクトも大きい。面白かったし、大変優れたドキュメンタリーだと思いました。


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