特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

スティーブ・ジョブス氏と映画『電人ザボーガー』

先週亡くなったスティーブ・ジョブス氏への賛辞が世界中に溢れている。
だが、ごく一部では異論を述べる人も居る。70年代 垂直統合型の巨大企業IBMに反旗を翻すように、一般大衆のための情報機器『パーソナル・コンピュータ』を開発した、ある意味 かっての革命の闘士が、40年後には巨大企業の独裁者に成り下がった、と。
昔 IBMの社是『THINK』(なんて偉そうなんだ!)に対する、アップルの社是『THINK DIFFERENT』には少し感動した。 iPODには夢中になったし、何よりも大企業の官僚型システムより個人的な感性を優先させたそのやり方には驚きを覚えた。この人はマネジメントのやり方において、個人ができることの可能性を拡げてみせたというのは確かだと思う。

だが、今やアップルの時価総額エクソンを抜いてアメリカ最大の企業だし、ジョブス氏の独裁的な経営手法や流通や製造元への強引な圧力などには批判があっても当然だろう。何と言ってもアップルが、児童労働や過酷な労働条件で自殺者がバンバン出ているEMS企業(台湾のフォックス・コム)にi Phoneの製造を委託しているのは言い訳ができることではない
かっては世の中の不正義や不条理に憤りを抱いた革命家や社会改良家が歳を経るにつれて変わってしまうのは良くあることだ。けど人間なんだから、それを単純に責めるのも間違いだと思うし(誰だってそうだ)、むしろ、チェ・ゲバラみたいな人は例外なのだろう。ま、前大阪府知事みたいに最初から存在そのものが間違いみたいな輩もあるが(ヒトラーみたいで気持ち悪いからやたらとTVに写すんじゃねーよ)。



新宿で映画『電人ザボーガー
zaborgar.com
70年代、つまり38年前の、どちらかと言えばマイナーな特撮TV番組をリメイクした井口昇監督の作品。
かって登場した低予算の怪人・悪役を現在のCGを使って当時と同じ『セコさ』や『貧乏臭さ』が再現されている(笑)。思い切り垢抜けないデザインの主人公とロボットもそのまんまだし、軽トラックに顔をつけただけの怪獣が再現されていたり、ピンポン玉を眼の玉にかぶせただけの怪人が出てきたり、する。
だが、そういう部分を残しつつもアクションは現在の技術でブラッシュ・アップされているし、キャストは豪華だ。静かだけどおどろおどろしい柄本明(悪の組織のボス)、相変わらず飄々としているが存在感だけはやたらにある板尾創路(中年期の主人公)、笑顔が不気味に可愛い刑事役の渡辺浩之、皆 はまっている。特に悪のサイボーグ役の山崎真美嬢は凄く良い。太陽のように表情が明るいこの人は良い脚本さえあれば、素晴らしいコメディエンヌになるとボクは思っているのだけど。

TVシリーズに興味なかったボクにも原作への尊敬と愛情がひしひしと伝わってくる。エンドロールではかってのTVシリーズが流され、映画のネタ明かしまでされるのだ。



だけど、この映画の魅力はそれだけではない。
2011年版『電人ザボーガー』のもう一つの魅力は新たに書き下ろされた後半のプロットにある。
映画の前半では悪と戦う青年期の主人公が描かれる。警備を任された与党の悪徳政治家に嫌悪を覚えつつ、主人公は熱く(笑)悪の組織と戦い続ける。
後半はその25年後、その悪徳政治家の運転手に成り下がった主人公がクビにされるところから始まる。
総理大臣になった悪徳政治家は日本中に原発を作り、それを利用し核武装する。大多数の日本人は明日をも知れぬまま、不安に怯えながら生きている。かっては正義を、自分の力で世の中を良くする事を信じていた主人公。25年後の彼は失業して住むところもなく再就職もままならない中年のおっさんだ。ベルボトムジーンズを履いて、糖尿で腰痛を抱えた彼が、再び悪の組織が暴れ始めたとき、どうするのか。


上映後、客席からは盛大な拍手が湧き起こる。そういう体験は『サイタマノラッパー』以来。
電人ザボーガー』は金儲けではなく『愛情』を優先させている。原作のTVシリーズへの愛情、今現在の作品への愛情、時には過ちを犯しながら歳をとっていく人間への愛情、2011年のボクらが抱える惨めな現実への愛情。
何もかもがカネに換算されてしまう今の時代に、大の大人がこういうアホな映画を本気になってやってるということ自体が感動的、映画的なのだ。客席からの拍手はそれに対するエールなのだろう。*アホな映画って、この場合 褒め言葉だ。
●着ぐるみに入って舞台挨拶するプロデューサー


スティーブ・ジョブスがこの映画を見たら一体 どう思うだろうか。多分 あまりのくだらなさに笑っちゃうんだろうな(笑)。
なんせクライマックスで東京を破壊して阿鼻叫喚の世界にするのは携帯を手にした巨大女子高生なんだから(笑)