特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

トンカツとコーポラティズム、映画『ザ・イースト』

あんまり食べもののことはブログの話題にしませんが、ボクは食べることが大好きです。
これは久々に出かけた大森の「丸一」のひれかつ。かつの大きさは大小選べますが、小でこの大きさ(170G)。噛むと肉汁がじゅわーと溢れてきます。とんかつは色々なお店があるけれど、目黒や上野なんかにある有名店よりボクは、このお店のほうが美味しいと思っています。

                                                   
ここは殆どガード下みたいなところで何十年もやっている、あんまり綺麗なお店ではありません。いつも行列が出来ていて、しかも昼は1時閉店で夜は7時閉店(笑)と営業時間が極端に短いので、せっかく訪れても入れないこともしばしばです。でも、それでも通ってしまうのは家族経営のすっごく気持ちが良いお店だからです。2代目の息子がでかい肉の塊をじっくり揚げて、姑がガス釜でご飯を炊いて木のおひつで蒸らし、飾り気がなくて腰が低い奥さんが運ぶ。漬物は着色料のかけらもない自家製で、豚汁は野菜がたっぷり。それに揚げ手の息子さんも奥さんもみんな、人の眼を見て話す。

美味しいお店って、なんだかんだ言って家族経営、オーナー経営が多いです。やっぱりサラリーマンとは気合が違うって行ったら言いすぎでしょう。経営を長く続けていこうとしたら利益に走るのではなく、適価に良い料理を提供し続けていくことが結局は長続きにつながることが、家族経営をやっている人の多くは判っていると思います。
                                                                            
それとは対照的に、上場している大企業は4半期決算とか短期的利益に追いかけられるから、カネが目的のあくどい経営になるんでしょう。熱狂的なプラモデルファンのエコノミストリチャード・クー氏は野村グループに勤めているにもかかわらず、プラモメーカーの田宮模型の社長に「(株式を上場したら大儲けができるけれど)自分が作りたい製品を作れなくなるから株式上場なんかしないほうがいいです」とアドバイスしたそうですが(笑)、この言葉は現代の市場の一面の本質を付いています。
残念ながら市場を完全否定することはできません。この美味しいトンカツだって市場の働きがなければ食べることはできないです。だからと言って市場や企業が好き勝手やるのが皆の幸せに繋がるかといったら大間違い。そこいら中の食べものがチェーン店の高くてまずいファーストフードばっかりになったらどうするんだよ!

製薬会社や煙草会社などの大企業が政府に影響を及ぼしたり、世の中を好き勝手に操っている現象はコーポラティズムと呼ばれています。巨大な力を持つ企業と市民がいかに共存していくか、が21世紀の全世界的な課題だとボクは思っています。そのためにはTPPどころか色んな規制も必要になるでしょう。だが、それ以前に一人ひとりがカネやマスコミに振り回されないこと、そのためには自分が本当にやりたいことや食いたいものは何か、を真剣に考えることが必要じゃないでしょうか。と、熱々のトンカツを頬張りながら思いました(笑)。ボクは美味しいものが食べたいんだよ!




新宿で映画『ザ・イース映画『ザ・イースト』オフィシャルサイト

                                          
主人公は優秀な元FBIの女性捜査官。今は大企業のセキュリティに関するコンサルタント会社で働いている。その会社の仕事は大企業に対する消費者運動や抗議、テロから契約企業を守ること。折りしも企業に対する過激な抗議活動を行ってきた謎の活動グループ『ザ・イースト』が向こう6ヶ月以内に3つの悪徳企業に抗議のテロを仕掛けると予告する。彼女は『ザ・イースト』の中に入りこんで潜入捜査を行うことを命じられる。彼女は謎のグループの中に入り込んで、ターゲットの企業を探りだすことができるのか。
                                                                    
そういうお話。勿論フィクションですが、実際に企業に対する過激な抗議を行う活動グループはグリーンピースみたいな合法的なものから始まって、シー・シェパードやら、その他怪しいものやら様々なものが存在しています。また、それに対抗する民間セキュリティ会社も実際に存在しているそうです。ボクは詳しくないですが、チェイニー元副大統領の悪名高いハリバートンなんか、それに近い業務をやっているのではないでしょうか。イラクに派遣された自衛隊(カメラに映らないようにしながら)実はアメリカの民間セキュリティ会社の要員にずっと守ってもらっていたそうですし。
                                                                         
メンバーの名前や顔すらわからない『イースト』を探すため主人公は反体制的な若者が集まるグループに入り浸る生活を始めます。夫にはドバイへの出張と偽って。彼女は貨物列車に無賃乗車する旅で警官に殴られた男をかばったことから、森の中で共同生活をするグループの仲間になります。それが『イースト』だった
●主人公はホームレスに混じって無賃乗車の旅に出る。


主人公の捜査官を演じたブリット・マーリング嬢は中々可愛いし、表情には意志の強さが感じられます。主役として画面を満たすだけの迫力と魅力があります。彼女はこの映画の脚本とプロデュースもやっているそうです。リベラルな演技派が勢ぞろいしたロバート・レッドフォードの昨年の映画『ランナウェイ 逃亡者』にも出ていましたから、これから良く出てくる人になるかも。

                                                                   
監督は無名の人だが、共同プロデュースは超大物のリドリー&トニーのスコット兄弟。あと『ローラーガールズ・ダイヤリー』、『スーパー!』などで渋い映画で活躍するエレン・ペイジちゃんがイーストのメンバー役で登場。童顔で鼻ペチャでかわいいんだけど実はサイコって役はお似合いです。
●ブリット・マーリングとエレン・ペイジちゃん(左)

                                                   
ここで描かれるイーストの面々は環境保護という信念のために、まだ食べられるのに捨てられた食品を常食したり、宗教めいた儀式をしたり不気味なところもあります。だが、その行動には在る意味、筋が通っています。『イースト』の最初のターゲットは副作用が懸念されている薬を販売しようとしている世界的な製薬会社。『イースト』の面々は会社のパーティに忍び込んで、シャンパンに混ぜたその薬を会社の幹部たちに飲ませようとします。環境テロと言っても、副作用が懸念されている薬を販売するのといったいどちらがテロなのか。それでも主人公は犯行寸前にそのことを知り、自分の会社の上司に連絡します。それを聴いた上司の返事がいい。『その会社はうちの契約企業じゃない。放っておきなさい
こういう上司や、こういう体質の企業って実際大ありでしょ(笑)。
環境テロリストの面々。カルトっぽくて怪しい

                             
行動を共にするうちに主人公は段々と『イースト』の面々の影響を受けていきます。環境テロリストたちもまともではないが、自分の勤務先もクライアントも、自分の生活もまともではない、と感じるようになったからです。そこいら辺の葛藤の描写を描くシーンでNYのロックバンド『ザ・ナショナル』の『About Today』が流れるのも渋い演出です。やがて最後のターゲットが明らかになる。そしてイーストは彼女のことを全て知っていた。果たして彼女の選択は?


この映画は純然たるフィクションですが、あまりにもリアルでフィクションと言う感じはしません。映画に出てくるような大企業もコンサル会社も実際に存在しているからです。これらの大企業の力で今や政府も政治家も押さえ込まれているけれど、そのことすらボクらには判らなくなってきます。もはや頼れるのは個人の良心だけなのか。観客にそんなことを考えさせながら映画は終わります。
脚本は多少粗があると思うけど良く練られてもいるし、主人公は魅力的で感情移入が出来ます。『ザ・イースト』は問題作かもしれないが、社会派サスペンスとしてかなり、面白かったです。