特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

与謝野馨は監獄の夢を見るか?:映画『インサイド・ジョブ』

eireneさんの5/27のブログhttp://d.hatena.ne.jp/eirene/searchdiary?word=%2A%5B%CA%FC%BC%CD%C7%BD%5Dで知った日本共産党の都議団の放射線調査では、東京23区のほぼ半分が年間1ミリシーベルトを超えているそうだ。
とうとう、やっちまったなあと言う感じ。今日 ドイツは原発廃止を決めたそうだが、日本はここまで酷い目にあっても学ぶことができないのだろうか。


ちょっと前の週刊ダイヤモンドノーベル経済学賞学者のクルーグマンが『リーマンショック福島原発の事故は起こるべくして起きた、という点で全く同じ』と喝破していた。その慧眼には感心したのだが、この映画を見て改めてそう思った。


新宿で映画インサイド・ジョブ』水のトラブル日記 insidejob
http://www.toyokeizai.net/life/hobby/detail/AC/a7cd304380552032a0ab95367e25775c/page/1/
2008年に起きた世界的な金融危機(所謂リーマンショック)を描いたドキュメンタリー。
投資銀行、保険会社、格付け会社ハーバード大などの御用学者、政治家、政府の規制当局、みんなグルだった、そんな話だ。アカデミーの長編ドキュメンタリー部門受賞作品。

金融危機が起きた背景と実態について、関係者のインタビューと米議会での証言フィルムを中心に構成されている。監督は博士号を持つというチャールズ・ファガーソン、ナレーターはハーバード大出身のマッド・デイモン。
映画の流れはこんな感じ

80年代のレーガン政権で始まった規制緩和によってデリバティブ証券化など何でもカネに換算する金融商品が開発されていく

同時に投資銀行などの金融機関が肥大化・寡占化し、その資金力で社会に対して大きな影響力をもつようになる。

ブッシュ(ドラ息子のほう)時代に始まったサブプライムローンの危険性、また金融機関の経営者の法外な報酬はかねてから指摘されてきたが、金融業界はロビーイストや御用学者を動員して、それを規制しようとする声を封じてしまう。

金融機関はサブプライムローンなどを証券化したCDSなどますます高リスク・高リターンの商売に走る。

政府は『経済状況は安全だ』と繰り返していたが、金融危機は起きる。救済するために税金1000億ドルが投入されるが、そのうち140億ドルはゴールドマン・サックスが受け取る。また税金で救済された金融機関の経営者は多額なボーナスを受け取り続けた。

金融危機の結果 世界で5000万人以上の人が貧困層に落ち込む。

生き残った投資銀行はますます規模が大きくなり寡占化は更に進む。オバマ政権になっても経営者の法外な報酬に対する規制すらできない。なぜならオバマが任命した経済顧問やFRB議長は皆 金融機関の出身者だから。



淡々とした語り口だが、金融危機の原因とその結末を、この映画は雄弁に語りかける。
特徴的な事柄がいくつかある。

『安全デマを垂れ流す政府や格付会社』投資銀行ベア・スターンがつぶれても財務長官ポールソンは『心配ない』と言い続けたし、いざ危機が起きると『百年に1度』と言い訳する。またS&Pなどの格付会社はリーマンが潰れる直前までそれらの会社に優良ランクをつけていた。

『巨大すぎて潰せない金融機関』→例えば世界最大の保険会社AIGは税金で救済された。

『金や地位で抱き込まれたマスコミや有名大学の学者』→例えばブッシュの経済顧問だったコロンビア大のグレン・ハバードは規制緩和を支持する論文一本で業界団体から1000万円受け取っていた。

モラルハザード状態の独占企業』→例えばリーマンやゴールドマンの社員の間には会社の経費での買春やコカインがはこびっていた。

『ツケは危機を引き起こした人間ではなく、市井の人間に回ってくる』アメリカでは多くの人が自分の家を追い出され、テントでの避難生活を強いられている。


そう、ここで述べられている事柄はまるで、今回の原発事故と瓜二つなのだ。危機の原因はリーマンショックであればサブプライム原発事故であったら注水の中断とか津波対策と言ったセコイ話ではない。
金融危機にしろ、原発事故にしろ、原因の本質は、企業による市場の独占にある、とボクは思う。資本主義では企業がいったん市場を独占してしまえば、それをけん制できるものは殆ど、ない。ゴールドマン・サックスしかり、東京電力しかり、競争に殆どさらされない独占・寡占企業にはマスコミや世論、法律だって左右できるだけのカネがある。



映画が始まる直前、客席に経済財政担当大臣の与謝野馨日本原子力発電の元社員)が入ってきた。ちょっと、びっくり。
従来から財政再建至上主義、財務省の手先のような発言を繰り返したり、最近では脳みそがメルトダウンしたかのような『原発事故は神様の仕業』と発言するなど、一部では『日本の貧乏神』(笑)とも言われている男だが、こういう映画をわざわざ見にくるのだけは立派だと思った。わずかに秘書一人と奥さんらしい老婦人を連れて映画館に入ってくる地味な姿を見ると、夜の銀座でピアノ演奏を披露したりするという、この男は趣味だけは悪くないというのは本当らしい。

だけど(笑)。
この映画は『金融危機は金融機関の経営者、御用学者、金融当局がグルになった内部犯行(インサイド・ジョブ)。こいつらは監獄に入れるしかない』という話なんだよね。
日本の金融当局を担当する与謝野馨の、この映画に対する感想を是非 聞きたいものだ。


PS.ジャーナリストの上杉隆が紹介していたサイト。放射能について正しく学ぼう チームココ
放射能に関する、政府がばら撒いた安全デマに本当のことを加筆したパワーポイントは秀逸だ。食べ物に関する規制のいい加減さもこれを見て、大変良く理解できた。