特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

自分の人生を取り戻す物語:『ハスラーズ』

 狭い空間に客を閉じ込めて今日まで感染者を400人超まで拡大させたことで、『感染拡大の震源地となる恐れ』、『中国・武漢に次ぐ、世界で2番目に大きいコロナウイルスの集中場所だ』など日本政府が世界中から非難を浴びている客船『ダイヤモンド・プリンセス』。
www.asahi.com

 この船はいわくつきだそうですね。三菱重工長崎造船所で建造中に大火災を起こして納品が遅れ、三菱ジェットの開発遅れと原発の賠償訴訟と共に、三菱重工の経営が傾いた原因の一つとなった船です。まさに祟られている(笑)。
●CNNではトップニュース

 ボクの勤務先の中国の人は現地の親から『中国はもう峠を越したけど、日本はこれからが危ないから帰ってこい』と言われています(笑)。事実 BBCではもう、日本はアウトブレイクと報じられるようになりました。


 現在の日本の感染者は400人超、そのうち350人以上は客船の人ですから、これはもう、安倍晋三の責任と言ってよい。
 共同通信世論調査では内閣支持率が41%と1月の前回調査から8.3ポイント下落、これは森友問題を巡る文書改ざん発表後の18年3月の調査で9.4ポイント急落して以来の大幅下落だそうです。

 それでも41%も支持している人がいるというのが驚きです。そりゃ、野党は頼りないかもしれませんが、安倍晋三よりはまだマシでしょう。新型肺炎も経済もやばいけど、日本人の呑気さが一番やばいんじゃないですか。オリンピックなんかさっさとやめろって。



 ということで、六本木で映画『ハスラー
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hustlers-movie.jp

 ディスティニー(コンスタンス・ウー)は自分を育ててくれた祖母の面倒をみるため、NYの高級ストリップクラブで働き始める。そこにはウォ―ル街の証券会社に勤める金持ち客が出入りする店だった。当初は戸惑うディスティニーだったが、店で絶大な人気を誇る先輩のラモーナ(ジェニファー・ロペス)とコンビを組むようになると大金を稼げるようになる。ところが1年後リーマン・ショックが発生、ストリッパーたちの多くは失業してしまう。経済危機を起こしながら引き続き裕福な生活を送っているウォ―ル街の連中に憤りを感じたラモーナやディスティニーは、連中から金をふんだくることを企むが


 リーマン・ショック後 ストリッパーがウォール街の連中をカモにしたという実話を映画化した作品。ウィル・フェレル、アダム・マッケイというアカデミー受賞作『マネーショート』を作った二人が製作、シンガーソングライター兼監督のローリーン・スカファリアという人が監督を担当しています。アメリカでは興収100億円以上の大ヒットだそうです。

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 ウィル・フェレルは『俺たちシリーズ』で有名な売れっ子コメディアン・プロデューサー、アダム・マッケイは金融(マネー・ショート)や政治(バイス)など難しい題材をお笑いで告発する作風のボクの大好きな映画監督・プロデューサーです。これは絶対見に行かなくてはいけない。

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 映画が始まるとすぐ、ジャネット・ジャクソンのヒット曲『コントロール』が流れます。この曲はこういうモノローグから始まる。

これは自分のコントロールを取り戻すための物語- - -

 この歌は芸能一家に育ったジャネット・ジャクソンが家族(ジャクソン・ファミリー)、特に父親から自分の音楽的・人格的自由,つまり自分の人生そのものを取り戻すことをうたったものですが、映画の内容とまさに一致しています。

 主人公のディスティニーは学費を払えず大学を退学、親代わりに育ててくれた祖母を養うため、NYのストリップクラブ『MOVE』で働き始めます。そこはウォ―ル街の証券会社の連中がたむろする高級店です。
●ディスティニー(コンスタンス・ウー)(右)は生活のためにストリップクラブ勤めを始めます。

 彼女たちによるとウオール街の客層は3種類。
 まず、不正をしない連中。この人たちは金がない。次に不正なのか合法なのかグレーゾーンで仕事をしている連中。そして最も金があるのが泥棒のような手段で金を稼いでいる証券会社の役員クラス。人目につかない専用の入り口から店に入り、専用の個室で乱痴気騒ぎをやっています。態度は尊大かつ傲慢で要求も厳しいが、一晩で100万円以上使う客もいます。

 折しもブッシュ政権が推進した住宅政策でサブプライムローンの販売は金融業界は活況を呈しています。証券会社は不良な物件の権利を細分化して優良物件に混ぜ、証券として売りつけたのです。
 バブル状態の店の雰囲気に馴染めないディスティニーは、なかなかチップを稼げません。店で絶大な人気を誇る先輩ストリッパーのラモーナに憧れるディスティニーは、彼女のアドヴァイスを受けないがら客のあしらい方を覚え、やがて大金を稼ぐようになります。
●途方に暮れるディスティニーに、売れっ子ストリッパーのラモーナ(ジェニファー・ロペス)(右)が救いの手を差し伸べます。

 ボクはストリップもダンスもゴージャスな毛皮のドレスも興味ないですが、今年で50歳というジェニファー・ロペスのポールダンスにはびっくりします。

 この映画、客席は女性ばかりでした。ストリッパーではあるけれど客に媚びないジェニファー・ロペスの堂々とした姿、ゴージャスなファッションに憧れる人は多いのでしょう。この映画での彼女はそれだけでなく、繊細な演技も見せてます。とにかくカッコいい。
 また、その他大勢のストリッパー同士の連帯、男なんかクソくらえというところが描かれているのも美しい。

 ディスティニーもラモーナも大金を稼ぐようになります。ディスティニーは借金を返し、売り飛ばされるはずだった自宅を取り戻します。シングルマザーのラモーナは子供の学費を払うことが出来る。
 女性たちは高層アパートのペントハウスで大パーティ。ちょっとくらいは贅沢をしたいけれど、それ以前に家族と家に住み、子供に学校へ行かせたい、彼女たちが望んだのは人間らしい暮らしをしたいということだけなんです。


 と、ここまでが前半部。

 そこでリーマンショックが起き、店には閑古鳥が鳴くようになります。街では多くの人が失業したり、家を失いました。『MOVE』のストリッパーたちも失業。代わりに低賃金で働くロシア人のストリッパーたちが踊るようになります。
 しかし、金融危機を引き起こしたウォ―ル街の連中、下っ端はクビになりましたが上層部は誰も責任をとらない。牢屋にも入りません。かってのように目立つようなことはしませんが、高額ボーナスも変わらず、相変わらず豪勢な暮らしをしています。

 シングルマザーになったディスティニーは子供を抱えて再就職もままなりません。ゴージャスな毛皮のドレスから、ストリートファッションになったラモーナは金融危機を起こした連中が誰も罰せられないことに激しい憤りを覚えています。

 二人はかっての上得意たちを呼び出してストリップクラブで酒を飲ませて意識もうろうとさせて、クレジットカードで高額請求して金をふんだくる事を思いつきます。ストリップクラブだったら高額請求が来ても、家庭や職場の関係上 表立っては文句を言えないからです。二人の狙いは当たりますが。

 ディスティニー役のコンスタンス・ウーは台湾系。アジア系の主人公で初めて全米NO1になった『クレイジー・リッチ』で主役を張っていた人です。

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その時も思ったんですが、自律した一人の女性の強さと可憐さが両立していて、実に素晴らしい。ボクはジェニファー・ロペスの10000倍、好き。

 お話は金融危機を引き起こしたウォール街への怒りに満ちています。連中はストリップクラブの女性たちをモノ扱いしてるのも気分悪い。そもそも大勢の人が家や仕事を失い、人生を狂わされたのに、誰も責任を取っていない。大統領選でのバーニー・サンダースやエリザベス・ウォ―レンなどの台頭はその怒りを今も大勢の人が抱えているからです。

 このお話は実話がベースですが、実際 リーマンショック前のウォ―ル街では社長や役員など幹部クラスが会社にストリッパーやコールガールを呼び込んだり、麻薬パーティーをやったりしながら、サブプライムローン証券化商品の無理なセールスをやってたことがわかっています。

 ディスティニーやラモーナたちがやっていたことは違法だし、時にはひどいこともやった。映画ではちゃんと負の側面も描いている。それでもウォール街の連中に比べれば、ほんの僅かなお金を還流させていたに過ぎないディスティニーやラモーナたちは捕まってしまうのに連中は今も罰を受けない理不尽さ。この苦い対比こそが、この映画の肝だと思います。

 それに、この映画、とにかくセンスがいい。彼女たちの行動のバックで流れるボブ・シーガーの名曲『ナイト・ムーヴス』の使い方は文字通りしびれました。もちろん店名の’’MOVE’’に掛かっているわけです。ローリーン・スカファリアという女性監督はこれから注目です。

Night Moves

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  • アーティスト:Bob Seger
  • 出版社/メーカー: Capitol
  • 発売日: 1999/12/07
  • メディア: CD

 最後のラモーナのセリフがこの映画の世界を総括しています。

あの頃はこの国全体がストリップクラブみたいだった。そこには2種類の人間しかいない。(ウォ―ル街の連中のように)金をばら撒く人間と(ラモーナたちのように)金のために踊らざるを得ない人間と

 そう、この作品は女性のエンパワーメントを描いているだけでなく、システムから自分の人生のコントロールを取り戻そうとすることについての物語です。ゴージャスで、センスが良くて、苦さと怒りに満ちていながらも、それでも希望を提示して見せる。大した映画です。

映画『ハスラーズ』大ヒット上映中!

映画『ハスラーズ』インタビュー映像:コンスタンス・ウー&ジェニファー・ロペス/2月7日(金)全国公開💋