デイヴィッド・ハルバースタムの新作&遺作(残念)、『朝鮮戦争』(America And The Korean War)。
- 作者: ディヴィッド・ハルバースタム,山田耕介,山田侑平
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/10/14
- メディア: 単行本
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特に印象に残ったのがアメリカ軍内の意思決定のひどさだ。太平洋戦争での、日米開戦から始まってカミカゼや戦後に至るまで、狂信的というかキ○ガイそのものの日本軍などと比べると、アメリカ軍は合理的な意思決定が行われている集団のような印象を持っていた。ところが北朝鮮や中国軍への侮りで壊滅寸前にまで追い込まれたことや、マッカーサーに対する異論を許さないことで組織が文字通り腐っていき無能な指揮官の跳梁や補給品不足が発生したことなど、当時のアメリカ軍は実際はひどいものだったようだ(それを数ヶ月で建て直したリッジウェイという人のマネジメント能力もすごい)。挙句の果てにどうにもならなくなって原爆を使わせろ(マッカーサー)、っていうんだから、どうにもならない。
あとアメリカ政界の保守派へのチャイナ・ロビーの食い込みの深さ。ルーズヴェルト以来 保守派が政権から遠のいていた反動とも相まって、意思決定が思い切り歪められている。当時の世論にしろ、マッカーシズムにしろ、作られたものであったことが良くわかる。こういうのは事情を知っていないと本当に判断を誤りかねない。実際にこういうことに巻き添え食って何十万人も死んでいるのだ。実際の場における意思決定の酷さは、イラク戦争でもそうだったのだろうし、今の日本に置き換えてもそうなんだろう。自分に置き換えても、まあ、他人事じゃない(笑)。
果たして世の中そういうもの、なのだろうか?個人にできることは自分がバカな指導者層の巻き添えをいかに食わないようにするか、しかないのだろうか?
そういう意味で惜しむらくはこの本、北でも南でも朝鮮の一般住民のインタビューが殆どない、のは画竜点睛を欠いている。だがここで描かれた意思決定の錯誤が積み重なって歴史が進んでいく様は以前 意思決定の講義で先生から薦められた、第1次世界大戦を描いた傑作ノンフィクション、バーバラ・W・タックマンの『八月の砲声』に似ている。だが、ハルバースタムのほうが遥かに面白い。実際の生存者へのインタビューが主として組み立てられているので臨場感にあふれているからだろう。
上下巻あわせて900ページの大作だったが、読み終わるのが残念に思えるような圧倒的な面白さだった。