特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

株式市場のフランス革命:映画『ダム・マネー ウォール街を狙え! 』

 週末は寒かった。昨日なんか昼間も驚くくらい、寒かった。
 それでも春は一歩一歩近づいてきています。北参道のイチゴミルクソフトも始まりました(笑)。

 

 今週も株高で始まりましたが、株高と言っても株の売買を商売にしているプロはともかく、わずかばかりしか持っていないボクのような素人はいつ売ったら良いかわからないんですよね(笑)。株が下がると年金資産も下がるし、企業の損益にも響く、強いては働く人の給料にも直結するから困ります。株なんか庶民の暮らしには関係ないけれど、周り回って影響が出てくる。

 かように、今の世の中の仕組みは難しい
 自民党が悪いとか、岸田が悪いとか、大企業が悪いと言ってるだけじゃ問題は解決しない。確かにアベノミクスは失敗だったし、自民党も岸田も悪いんだけど、じゃあ、その後 どうするんだっていう問題は別にある

 例えば歴史の教科書ではフランス革命絶対王政を倒し自由や平等を人々にもたらしたと教えますけど、現実は恐怖政治や戦争を引き起こした死屍累々の歴史でもあった。軍人以外の一般大衆が戦争に動員されるきっかけにもなった。残念ながら、万能の解決薬なんか世の中にないんですよね。


 と、いうことで、日比谷で映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!

 コロナに見舞われた2020年のアメリカ。ゲームソフトを販売する大手小売店、ゲームストップ社は業績は低迷、株価も下がり、倒産間近と見なされていた。実はゲームストップ社の株はウォール・ストリートのヘッジ・ファンドが空売りを仕掛けており、株価低迷はその影響だった。
 平凡な証券会社の社員のキース・ギル(ポール・ダノ)は「ローリング・キティ」という名前でYouTuberをやっていたが、同社の株が過小評価されているとインターネット掲示板で訴える。すると彼の主張に共感したアマチュア投資家たちがゲームストップ株を買い始め、2021年初頭に同社の株価は急騰。空売りによる利益を狙っていたヘッジファンドの富豪たちは大損害を被り、マスコミでも連日取り上げられるようになる。やがてギル達は下院に召喚される。

dumbmoney.jp

 2021年初頭、SNSを通じて結束したアマチュア投資家たちがアメリカのヘッジファンドに対抗した「ゲームストップ株騒動」を描いた実録ドラマです。
 『ソーシャル・ネットワーク』の原作者ベン・メズリックのノンフィクションを基に、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』などのクレイグ・ギレスピーが監督を務めています。
 主演は『フェイブルマンズ』や『ルビー・スパークス』のポール・ダノシェイリーン・ウッドリー、ボクの大好きなセス・ローゲンらが出演しています。

 どういう映画かを理解するには監督のこのメッセージを読んでもらうのが手っ取り早いです。


映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』公式サイト - 2024年2月2日公開

 舞台は2020年、コロナ禍が猛威を奮うアメリカ。証券会社に勤める、しがない会社員、キース・ギル(ポール・ダノ)は自宅の地下室でYouTubeで自分の持ち株を公開しながら株式相場についてコミカルに語っていました。猫のTシャツがトレードマークの彼のYouTuber名は『ローリング・キティ』。

 全米各地でゲーム店を営む企業、ゲームストップは業績が低迷しており、株価も一桁、5ドル程度にまで落ち込んでいました。確かにゲームソフトを店頭販売するなんて、時代遅れには見えます。
 そして、ヘッジファンドが同社の株を空売りを仕掛けていることも株価の低迷に拍車をかけています。昔からヘッジファンドは企業や債券に空売りを仕掛けて、時には企業を潰すことで莫大な富を得ています。

 例えばリベラルなことでも知られているヘッジ・ファンドの大物、ジョージ・ソロスが92年に100億ドルものポンドの空売りを仕掛けて、イングランド銀行に莫大な損失を与え、イギリスが変動相場制に移行したことは有名ですジョージ・ソロス|証券用語解説集|野村證券

 ローリング・キティは自身がゲームマニアでもあり、ゲームストップ社がヘッジファンドによって潰れかかっていることに憤って、ネットの掲示板で『ゲームストップ社は過小評価されている。個人投資家ヘッジファンドに対抗して同社の株を買い支えよう』と呼びかけます。

 おりしも、無料で株式の売買を行うことが可能なベンチャー証券会社、『ロビンフッド』社が登場します。奨学金という名の借金を抱えた大学生、シングルマザー、宅配の配達人、ゲームストップ社の店員などは『ヘッジファンドと戦おう』というギルの呼びかけに応じて、ロビンフッドのアプリを使って投資を始めます。

 数多くの個人投資家たちは同社の株を買い込み、ゲームストップ社の株価は上昇を始めます。

 このままでは同社の株価低迷に投資していたヘッジファンドには莫大な損失が生じます。ヘッジファンド側はギルのネット掲示板を停止させたりロビンフッド社に圧力をかけて、個人投資家たちを妨害しようとします。話はどんどん大きくなり、ローリングキティやヘッジファンド側は下院の公聴会に召喚されます。


 エンタメとしてはかなり面白いです。日本では個人資産は16%しか株や債券に回っていないそうですが、アメリカは50%以上が投資に回っている。だからギル達のような庶民の個人投資家が大勢いる、という前提は違いますが、それ以外は判りやすいお話です。

 最初はゲームストップの株はあっさり上がっていくので、お話としてはどうなることやら、と思っていたのですが、なかなか盛り上がりました。

 株価が上がっていくに従い、ギルをはじめとした個人投資家たちは、売り抜けるべきか、ヘッジファンドを潰すまで株を持ち続けるべきか悩みが出てくるのです。確かにこれは難しい。それがサスペンスになっているんです(笑)。

 お話に説得力があるのは、登場人物の造形が良いからです。
 貧しい暮らしに甘んじているギルやギルの奥さんの暮らし、

 大学教育を受けたのは家族の中でギルだけ、という労働者階級の家庭環境、それに看護婦をしながら子供を育てるシングルマザーや奨学金を抱えた大学生や宅配労働者などが丁寧に描かれます。コロナ禍の中でも彼らは低賃金で懸命に働いている。

 一方 ヘッジファンドの代表者たちはコロナを避けて、リゾート地の豪華な大邸宅に暮らしながら電話とPCで莫大な富を稼ぎ続けます。尊大な彼らはエッセンシャルワーカーの苦労などどこ吹く風、です。
映画の中で彼らのことを指して、『ランチで和牛を食べているような奴ら』という台詞があったのは笑いました。あんな不味くて身体に悪い物を大金出して食ってるのは、やっぱりバカ(笑)。

 ヘッジファンドの代表の一人をセス・ローゲンが繊細な演技で演じているところが、実に良いです。普段の彼は下ネタとマリファナにうつつを抜かすダメ男ばかり演じています。絶対にギルの側の人物です(笑)。

 ちなみに本当のギルとヘッジファンドの代表者の比較はこの通り。円内がポール・ダノセス・ローゲンです。

 結果として、ゲームストップの株は21年に8倍にもなり、空売りを仕掛けていた一部のヘッジファンドは閉鎖に追い込まれ、個人投資家たちが勝利をおさめます。『株式市場のフランス革命』と言われたそうです。ギルは700万円だった自分の資産を36億円にしました。


hedgefund-direct.co.jp

 それ以降 ヘッジファンド空売りは減り、連中は個人投資家の動向にも留意するようになった。この事件は昨年5月に起きたスイスの名門銀行クレディ・スイスの倒産の一因にもなったそうです。ヘッジファンドに資金を貸し付けていたからです。

 しかし現実には個人投資家たちと同じスタンスで投資して儲けたヘッジファンドもあるし、個人投資家たちは全員が儲けたわけではない。100ドル近くまで行ったゲームストップの株価は現在は10ドルそこそこにまで戻っています。つまり、損をした人も大勢いるわけです。
 映画ではそこにはほとんど触れていません。やはり株は株、損をする人もいれば得をする人もいます。そこに触れないのは少し抵抗がありました。観客が自分で補完しなくてはいけません(笑)。
 

 映画化しにくい題材をコミカルなエンタメに仕上げた手腕は称賛に値するでしょう。ダメ人間たちがヘッジファンドに逆襲していくお話は、ボクはかなり面白いと感じました。アメリカはウォール街、日本は政治家という違いはありますが、連中がやりたい放題なのは一緒です。

 でも、アメリカではメジャーなエンタメでも腐敗を正面から取り上げる作り手が居ます。それを受け入れる観客もいます

 果たして、日本はどうでしょうか。金融のことを取り上げた、こういう映画を作っても客は入らないんじゃないでしょうか。日本の場合 映画の作り手より、観客の方が重症のように、ボクには思えます。
 ということで、中々面白いエンタメでした。コロナ禍の貴重な記録でもあります。


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