特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉』と映画『ラビング 愛という名前のふたり』

今週はめっきり暖かくなりました。
近所の桜並木も満開です。普段は散歩なんかしませんが、毎年この時期だけはぷらぷら歩いてみたくなります。今年は咲くのが遅かった分、なんとなく桜の花がいとおしい(笑)。朝の桜は文字通り、生気にあふれている感じがしますが、夜に見る桜はどことなく妖艶な雰囲気が漂っています。桜が楽しめるのもあと数日ですが、慌ただしいこの時期のせめてもの心の慰めです。
●朝の桜。文字通り雪のよう、です。


散歩をしていたら、向こうからタレントの石塚という人が歩いてくるのを見かけました。あの『まいうー』の人です。近くに住んでいるのは知っていたのですが、実際に見たのは初めてです。トレーニングウェアを着て汗を拭きながら歩いていましたから、ジョギングでもしていたんでしょう。大食いばかりやっているTVのイメージとはずいぶん異なります。『あの人もただ 食べてるだけじゃないんだ』というのが、家人の感想です。確かに、ね(笑)。食べるのにも努力がいるんですね。
●夜の桜。朝とはまるで違う花の様です。



今週金曜はライブへいったので、官邸前抗議はボクはお休みです。今日からTV東京で始まる深夜ドラマ『SRサイタマノラッパー マイクの細道SR サイタマノラッパー~マイクの細道~:テレビ東京のクライマックスシーン(最終回?)の撮影を兼ねたライブ@クラブ・チッタ。ラップとかはあんまり興味ないんだけど、この映画の主人公、俳優さんが演じる架空のヒップホップグループ「sho-gung(ショーグン)」が大好きなんです。5年ぶりの再結成の今日は声と言うか、気合が凄かった。気合とはこういうものなのか、と正直 思いました。『誰でも出来る。俺でも出来る』と歌詞を変えて歌った1曲目で泣いちゃいました。自主制作で始めた過去の経緯をボクも見ていましたからね。この話を始めると止まらない。とりあえずTVドラマの端っこに出演?してきました(笑)! ただ、デモで鍛えているとは言え(笑)、ライブハウスへの往復も含め5時間立ちっぱなしというのも疲れた(笑)。


●ステージ風景。真中が最近はテレビのコメンテイターもやっているライムスター宇多丸



今週 報じられた、シリアで一般市民が化学兵器の攻撃を受けたニュースは文字通り目を覆いたくなるようなものでした。以前からシリアではもっとひどいことはいくらでもおこなわれていますが、瀕死の人が泡を吹いたり痙攣しているのをTV画像で見るとさすがにショックです。それに対して今日、アメリカが巡航ミサイルをぶっ放したのも驚きました。株も見る見るうちに下がっていった。これはまるっきり戦争です。常識で考えれば、狂っています。情報収集のためにボクが登録しているアメリカの反戦団体のメーリングリストからは、さっそく抗議集会の案内が送られてきました。


うん、戦争は良くない。いきなり他国へミサイルを撃ち込むのは良くない。でも、大事なことはシリアでの殺戮が少しでも減ることだと思うんです。
かってシリアが化学兵器を使ったとき、事前に警告していたにもかかわらずオバマ大統領が何も対抗策を講じなかったのは、そのあとに市民への虐殺が一層激しくなったことを考えても、彼の数少ない失策だったとボクは思います。今回のミサイルがアサドやロシアの暴挙へのけん制になるかどうか。ならないかもしれません。けん制になるかもしれません。それはまだわからない。役立たずの安倍晋三がさっそく『アメリカ支持』って言ってましたけど、結果のことも考えずに尻尾だけ振るのは相変らず間抜けすぎるだろって。


シリア軍の基地を狙ったとは言え、今回のアメリカの攻撃で市民に犠牲が出たのかはわかりません。被害を受けた方はお気の毒です。でもシリアやロシアの暴挙を防ぎ、これ以上の犠牲者を減らすことがよりマシな話じゃないでしょうか。結局 世の中は『平和を守れ』とか『九条守れ』といった単純なスローガンで反対するだけでは結果を得られないと思います。世の中 色々なことが起きます。簡単には割り切れないことも起こります。たとえ遠い国のことであっても、我々は自分たちの見識・判断力を日々試されていると思うのです。



最近 面白くてためになる良い本を読みました。いわゆる『大当たり』の本です。
『「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉』

現代の格差拡大や過度なグローバリズムは、英米流の株主資本主義(企業は株主のもの)という考え方が行きついた結果である。このままでは人々が幸せになることができないばかりか、経済発展も阻害する。企業は株主だけでなく、従業員、地域社会、消費者、仕入先、地球全体など公益のためのものである『公益資本主義』を広め、実践していくことで世の中すべての人を幸せにしていける。幸い日本企業は英米に比べれば、まだ社会の公益性は意識されている。そのベースを生かして日本は『公益資本主義』を広めていくことで世界に貢献していくべきではないか。

                       
著者の原丈人と言う人はアメリカで成功したベンチャーキャピタリスト。ベンチャーキャピタリストと言うのはベンチャー企業に出資して育成していく資本家。アメリカと言えどもベンチャー企業が上手く株式上場まで辿り着けるのは100の内10もないと思いますが、成功すれば莫大な富を得ることができます。企業の経営者や技術を見抜く目、先見の明が必要だし、企業経営に関する知識、何よりも熱情が必要です。ベンチャーキャピタリストと名がつく人は大勢いると思いますが、そういうものを兼ね備えた人は数少ないんじゃないでしょうか。
                                     
その稀有な例である原氏は従来から、企業は株主のものではなく公器であるという公益資本主義の考え方を唱えていました。2013年には安倍内閣内閣府参与と経済財政諮問会議の『目指すべき市場経済システムに関する専門調査会』の会長代理に起用されて、『(安倍が導入した)ROE重視のコーポレートガバナンスコードなどの英米流の資本主義なんかやめろ』、『(アベノミクスで)株と土地が値上がりしても国民は豊かにならない』と力説していた人です。誰が推薦したか知りませんが、こういう人を安倍晋三が起用したのは奇妙です。この人が『限界に達した英米流の資本主義に代わって、日本発の資本主義を発信しよう』と言っているのを官邸は勘違いしたと思います(笑)。

                           
この人のお父さんは横浜に原鉄道模型博物館原鉄道模型博物館を作った原信太郎。事務用品のコクヨのオーナー家の親せきで常務だった人です。しかし経済人というより、鉄道模型が本業と公言する(笑)、世界1の鉄道模型コレクターといわれています。この本でもいくつかエピソードが紹介されているんですが、とんでもない人でした。
戦争中の排他的な雰囲気の中で自分の鉄道模型のレイアウトをシャングリ・ラと名付けて世界平和を唱えたり、こんな戦争勝てるわけないと公言して特高にマークされ二等兵として徴兵されて大けがを負ったりしています。特高に拷問されて殺されるのを覚悟して常に白襦袢に白足袋を身に着け、生涯それで通したそうです。戦後も家の模型部屋だけでなく食卓や庭まで鉄道模型が走り回っていたり、90近くなっても機関車の床裏!(笑)の写真を撮るためだけに南アフリカへ一人で押しかけたり、とんでもないバカじじいです。まさに尊敬に値します(笑)。彼に育てられた著者も『外国語の時刻表を読めるようになったら海外へ行く資金を出してやる』とか滅茶苦茶な育てられ方をしています。この本で紹介されているエピソードは豪快そのもの、面白いです。感動しました。

スーパー鉄道模型 わが生涯道楽 (講談社+α新書)

スーパー鉄道模型 わが生涯道楽 (講談社+α新書)


その息子である著者は慶應を出て考古学を志しますが、発掘のためには莫大な資金が要ります。そのためにスタンフォード大のMBAに入って起業し、発掘の資金を貯めようとします。アメリカで光ファイバーのディスプレイで起業して成功し、彼はベンチャーキャピタリストに転じました。金儲けのためにベンチャーを始めたんじゃないんです。当人は『考古学を学んだからアメリカの拝金主義に洗脳されなかった』と言っています。


企業がリストラをすると株価があがる、そんな仕組みそのものが間違っている。』と著者は言います。英米の資本主義は株主中心の金融資本主義だと言うのです。会社は株主のもの、だから従業員や社会、地球環境などは関係なく、株価を上げるための経営がまかり通ります。企業の経営者もストックオプションの報酬がありますから、リストラして株価があがると莫大な報酬をうけます。例えばリーマンショックで経営危機に陥ったアメリカン航空。340億円の従業員の人件費カットを行いますが、それにより経営危機を脱した経営陣は200億円ものボーナスを受け取ったそうです。株主を重視する金融資本主義は株主と経営者が得をする仕組みなんです。

元来 日本は江戸時代から伝わる『三方良し』(売り手、買い手、世間の3つを考えた経営が良い)という言葉に象徴されるように多少は、企業は公のものという概念がありました。経営者と従業員の給与の差だって世界的に見ても圧倒的に小さい。ところが最近は英米のあとを追いかけて体質が変わってきています。粉飾決算を繰り返した東芝委員会設置会社として英米流の経営をいち早く取り入れていたのが良い例です。安倍が2014年に導入した上場企業に対する指針=コーポレートガバナンスコードなども英米流の金融資本主義的な思想に彩られています。


じゃ、徒に大企業をつぶしたり規制したらよいか、というとそうではありません新しい製品や技術を生み出すのは企業です。役人じゃありません。例えば四半期決算などで短期的利益が追及されるから、製薬業界でも新薬が生まれにくくなっていると著者は主張します。株主への配当が重視され、成果が出るまで長期間かかる研究開発投資が抑えられてしまうからです。製薬会社のボクの友人もまさに同じことを言っていました。飛行機などにも使われる東レ炭素繊維は研究開発に30年以上かかったことはよく知られています。今のアメリカでは成果が出ないものに30年も投資するなんてありえないでしょう。年金基金ヘッジファンドなどの株主が許さない。でも目先の短期的な利益に囚われず、長期的な利益を追求できるような資本主義の仕組みを作らなければ、新しい技術に投資は行われません。新技術への投資がなければ、新薬や新製品は生まれないのです。


どうしたらよいのでしょうか。具体的に、彼はこういう提言をしています。
・企業、特に上場企業は公器である。従業員、顧客、取引先、株主、地域社会、地球環境、すべてに配慮しなくてはならない。
・四半期決算なんかやめろ。
・5年以上の長期保有株主を優遇しろ。金融取引税の導入やコンピューターの高速取引などを規制して、マネーゲーム目的の短期保有の株主を排除しろ。
・勤労所得である所得税は減税して、不労所得である株などからのキャピタルゲインの課税を増税しろ
・株主に配当を出したら、それ以上の金額を従業員に支払うよう義務付けろ。
・経営者へのストックオプションは廃止
・新技術や新産業への投資は税制面で優遇しろ。
ROE株主資本利益率)を目標にするなんてやめろ(政府の審議会は2年前 企業に対してROE8%を目標にするように指標を出しました)

こんな感じです。企業で働いてない方はピンとこないかもしれませんが、ボクはどれもが納得できます。要するに、企業は株主のものではなく社会全体のものである。だから投資銀行や証券会社、ヘッジファンドのようにマネーゲーム不労所得を稼ぐ連中より、働く者に利益を配分するようにしろ。新技術や新産業を創出できるようにマネーゲームより中長期的な投資を社会で進めていこう、ということです。


そんなことを言っていると国際競争に負けてしまう、と思う方も居るかもしれません。著者は云います。
日本がこういうことを世界に先駆けて実施すれば、真面目に新製品や技術を開発したい企業や人材は世界中から日本にやってくる。雇用も税収もアップし、世の中を改善する新技術や新製品も生まれていく。英米が株主の事ばかり考える金融資本主義にとらわれている現在、日本には大きなチャンスである。日本は『タックスヘイブン』ならぬ『ものづくりヘイブン』を目指すべきではないか。


日本人の良いところは真面目にコツコツ、です。米英流の金融資本主義など追わずに、日本こそ中長期の利益を考える新しい資本主義のモデルになるべきではないか、という著者の主張は希望があるし、説得力があります。実際 著者は自分の財団やベンチャーキャピタルでこれを実践しているそうです。再配分や格差是正は大事だと思います。でも、それだけでは財源の問題で必ず行き詰ります
資本主義が限界に来ているのは事実だと思いますが、だからと言ってもう資本主義はおしまいだと言って思考停止してしまうのはバカ(笑)と思うんです。じゃあ、どうしたら良いのか、を考えなくちゃ。いつも引用しているR・ライシュ先生もそうですが、資本主義の仕組みをそのものを理解し、一歩一歩改良していくことが必要だ と思うのです。『公益資本主義』はそのための素晴らしいヒントに溢れている本だと思います。野党もこういうこと勉強しろよ、と思うのはボクだけでしょうか。

東芝半導体、日本企業の応札ゼロ(笑)。TVで日本サイコーとかバカな番組が放送されていますけど、実態はこの通り(笑)。今の日本は世界から買いたたかれる存在です。

東芝半導体、日本勢応札ゼロ 政府の支援に影響も :日本経済新聞





ということで、日比谷で映画『ラビング 愛という名前のふたり映画『ラビング 愛という名前のふたり』公式サイト

舞台は1958年。アメリカ バージニア州では異人種間の結婚は禁止されていた。幼馴染だった白人のリチャード(ジョエル・エドガートン)と黒人のミルドレッド(ルース・ネッガ)は恋人同士になり、妊娠をきっかけに異人種間の結婚が認められていた首都ワシントンで正式に婚姻届を出す。ところが結婚式を終え、バージニア州に戻った彼らは夜中に押し掛けた保安官に逮捕・投獄されてしまう- - -


『異人種間結婚の禁止は憲法違反』とする最高裁判決を勝ち取ったアメリカ南部の夫婦の実話にアカデミー賞俳優のコリン・ファースが惚れ込んで、自らプロデュースして映画化が実現した作品です。ラビングというのは実際のふたりの名字です。
●煉瓦積み職人のリチャード、中産階級育ちのミルドレッド、幼馴染の二人の牧歌的な恋愛です。


映画は黒人女性のミルドレッドが煉瓦積み職人のリチャードに『妊娠した』と告白するシーンから始まります。一瞬の沈黙、そのあとリチャードが彼女に礼を言い、そっと手を彼女の膝に置きます。ミルドレッドは安堵の笑顔を見せます。良いシーンです。
●夕刻の美しい光景

彼らが生まれ育った町では白人も黒人も同じように貧しく、同じ様に暮らしています。そこには目立った差別もない。白人も黒人も一緒に酒を飲み、男女が付き合ったりしています。リチャードとミルドレッドが恋人になったのはごく自然な話です。やがて二人は異人種間の結婚が認められている首都ワシントンへ出かけて行き、ささやかな結婚式を挙げ、結婚届を出します。
●立会人一人だけのささやかな結婚式です。


結婚した二人はとりあえずミルドレッドの家に同居します。すると深夜 保安官が家の中に踏み込んできます。誰かが密告したのでしょう、異人種間の結婚の罪で二人を連行してしまうのです。保安官は二人を独房に放り込みますが、白人のリチャードはすぐ保釈、黒人のミルドレッドはいつまでも牢獄に留め置かれます。彼女は妊娠しているのに!です。
●わざわざ深夜に警官はドアをぶち開け、踏み込んできます。


滅茶苦茶な話、狂ってると思いますが、これはそんなに昔のことじゃないんですね。愕然とします。
二人は有罪を宣告され、離婚か35年間の州外退去!を命じられます。仕方なく生まれ故郷を離れた二人ですが、親兄弟が暮らす慣れ親しんだ土地を忘れることができません。
●二人はほとんど着の身着のままで故郷を追われます。


おりしもキング牧師が率いるワシントン大行進が行われます。黒人の解放を唱える巨大デモをTVで見るミルドレッドには、デモはまるで別世界のこととしか思えません。自分たちは生まれ故郷に住むことすらできないのです。彼女はその苦渋をケネディ司法長官に手紙で訴えます。手紙を読んだケネディは二人に人権団体(ACLU)を紹介します。その人権団体の支援を受けて、二人は結婚は人間の権利(生得権)で人種の違いなど関係ない。異人種間の結婚を禁止する州法は憲法違反だという訴訟を始めるのです。
●記者が大勢押しかけてきてもミルドレッドは臆しません。


映画にはアクションや暴力、法廷闘争のシーンもありません。ただ一緒に暮らしたいという夫婦二人の心理描写がメインです。
武骨で寡黙な、そして(労働者階級らしく)保守的なリチャードを演じるジョエル・シルバートン、聡明で気品があるミルドレッドを演じるルース・ネッガの演技は素晴らしいです。妻を懸命に守ろうとする肉体労働者のリチャードがふと見せる弱気な面や裁判を嫌がる保守的な面には思わず、ああ人間ってそうだよなーと心を打たれます。凛として美しいミルドレッドを演じたルース・ネッガは今年のアカデミー主演女優賞候補になりました。


ボクの大好きなマイケル・シャノン(『99%ホーム』)も出ているということで、それも期待していたんですが、大したシーンはなかったのは残念。今年アカデミー助演男優賞にノミネートされた彼は、この監督の作品の常連だそうです。
マイケル・シャノンは彼らに注目を集めさせる記事を書いたライフ紙の記者役でした(中央)。

●この作品に感動して、マイケル・シャノン主演の監督の前作『テイク・シェルター』も見てみました。竜巻の恐怖に取りつかれた男を描いた作品で、これも良くできているんですが、ボクはスリラーあんまり好きじゃないんですよね。

テイク・シェルター(Blu-ray)

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声高に何かを主張するでもなく、ただただ二人の心の機微と意志をつつましく描いた作品。演出も手堅くて、見る者の心を深く打つと思います。ただただ、当たり前のことを求め続けた、どこにでもいる(我々と同じ)市井の人間の強さを描いただけでなく、今という時代が人種差別主義者が大統領にまでなってしまう時でもあるから、でしょう。地味だけど、ほんとにいい映画心の清涼剤として、こういう作品こそ多くの人に見てほしい、まちがいなくAクラスの優れた作品です。