特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『ザ・クリエイター/創造者』

 もう10月も終わり。朝は随分寒くなってきました。今年ももうすぐ終わりですね。
 まあまあ健康で仕事があることには感謝しなければいけないのでしょうが、煩わしい世の中から距離を置き、早く隠居生活に入りたいです。
 
 イスラエルの軍事行動は益々エスカレートしています。犠牲となる民間人がどんどん増えている。

 現実世界ではプーチン、ネタニヤフと国際法なんか全く無視して武力で暴れる輩が存在しています。ヒトラースターリンと同じように連中には言葉は通じない。今も昔も国連はならず者を止めることができない。

 イスラエルはガザのネットや電話を遮断して、虐殺の様子が外の世界に漏れにくいようにしています。ナチスアウシュビッツでやったことです。今度はイスラエルホロコーストをやっている。

 目の前で蛮行が行われているのに自分には何もできないのが、なんとも情けない。それでもまだ、地球の上には全く希望が無いわけではない。

 NYでも、まともなユダヤ人が声を挙げています。

 一方日本は相変わらず、酷いものです(笑)。



 と、いうことで、六本木で映画『ザ・クリエイター/創造者

 今から50年後 人類と共存するようになったAIがロサンゼルスで核爆発を引き起こす。その結果 AIを禁止した西側諸国と人類とAIの共存を目指す『ニューアジア』との戦いが始まる。10年にわたって戦争が続く中、高度なAI兵器を生み出したニューアジアの「クリエイター」暗殺ミッション遂行のため特殊部隊のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)が敵地へ潜入する。彼がクリエイターの居場所を突き止めると、そこには少女の姿をしたヒューマノイド(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)がいた

www.20thcenturystudios.jp

 『GODZILLA ゴジラ』、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のギャレス・エドワーズ監督の新作です。主演はジョン・デヴィッド・ワシントンって言われても知らねーよと思ったんですが、デンゼル・ワシントンJRの息子だそうです。渡辺謙も出ています。

 ボクはスターウォーズって大嫌いですが(笑)、『ローグ・ワン』だけは圧倒的な名作だと思っています。普通のスターウォーズはフォースだのジェダイだのしょうもない父子の因縁だの、所詮は『選ばれた人間』の話ですが、『ローグ・ワン』は市井の平凡な人々が手を取り合っていくことで権力に抗する作品で、本気で感動しました。
 ハリウッドのSFものなどは好みではありませんが、今作は監督も脚本もローグ・ワンと一緒ですから、見に行かざるをえない。
 

 お話はアメリカ軍の特殊部隊隊員ジョシュアが『ニューアジア』軍に潜入調査するところから始まります。AIと人間との共存を主張するニューアジア軍のAI開発の最高責任者を探し、暗殺することがミッションです。しかし彼はニューアジア軍の女性を深く愛してしまい、結婚。
 そこへしびれを切らしたアメリカ軍が襲ってくる。そのどさくさの中で彼は妻と離れ離れになってしまいます。

 そのショックで軍を辞めたジョシュアですが、5年後離れ離れになった妻の姿を映像で確認したことから、再び軍に戻り敵基地への潜入任務に就きます。
 果たして彼は妻と再会できるのか、 AIと人間との関係はどうなるのか、ということをテーマに物語が進んでいきます。

 二転三転する物語は粗削りなところもありますが、大筋は上手く出来ています。

 政治的な暗喩が驚くほど多い物語です。AIと人間との対比だけでなく、西側社会とグローバルサウスの対立がリアルに感じられます。

 直接的に思い起こされるのはベトナム戦争ですが、圧倒的な武力で住民を弾圧するアメリカ軍の姿はウクライナのロシア軍もそうですが、時節柄 ガザでのイスラエル軍がどうしても思い起こされる。それだけ表現に普遍性がある、ということです。

 マーベル映画もそうらしいですが、巨大なディズニー資本でどうしてこれだけアメリカに批判的な物語が作れるのか、と思います。これも日本のエンタメが逆立ちしてもかなわない点の一つ。

 画面が美しいです。予算は800億ドル8000万ドルとハリウッドの大作としては大きくないそうですが、それを逆手にとってフルCGではなく、LA、ベトナム、タイ、チベット、東京での実写にCGを重ねる形で表現されています。これが大正解。リアル感、生々しさが表現されていて物語が胸に迫ってくる。

 メカなどのデザイン、美術も普通のSF映画よりワンランク上。アップルがない未来を表現したそうですが、実にセンスがいい。最初から最後まで映画ではなぜか日本語文字が多用されますが、監督は日本の特撮が本当に大好きなんだなーということは良く判ります。被爆地となったLAの描写も福島を思い起こさせます。
 ハンス・ジマーの音楽も秀逸です。

 見ている人は次第に人間とAI、人間らしいのはどちらだろう、と感じるようになってきます。

 AIは平和に農業に従事するだけでなく、僧侶まで務めています。

 設定としてAIはシンギュラリティ(技術的特異点)を越え、人間を追い抜いているのでしょう。AIこそ、自然や神を怖れ、友を慈しみ、愛を分かち合おうとする。一方 人間は相変わらず目的のためには手段を選ばない。目的は手段を正当化する。LAでの核爆発の真相も軍は隠していました。


 終盤にかけて物語は露骨に『ローグ・ワン』に近くなってくるのは良し、とします(笑)。いずれにしても感動的な物語です。

 細かい部分は?と思うところもありますが、非常に野心的な物語、表現です。ボクは支持します。ローグ・ワンとはまた違う意味で感動的だし、深みのある物語です。

 お話が進むにつれ、人間とは何か、異なる種との共存にまでテーマが広がっていく。人間とAIの関係というより、異なる種に恐怖を覚える排他的な西欧社会と異人種と緩やかに共存を図ろうとする社会を対比することで、人間とはどうあるべきか、を描き出しているのです。パレスチナの人々に怯えるからこそ、イスラエルは排他的になり、ジェノサイドを行っている。
  
 固い話はともかくとして、エンタメとして悪くないし、この映画には心を揺さぶるものがあります。将来カルト化するかもしれません。これもまた、今年を代表する一本になるでしょう。 


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