特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『ロスト・キング 500年越しの運命』

 楽しい楽しい3連休。普段より1日休みが余分にあるだけで、どうしてこんなに精神的に楽なんでしょう。
 休みが終わった後がきついんですけどね(泣)。

 ハマスイスラエルに突如攻撃を始めたのはビックリしました。今回はイスラエルも裏をかかれたみたいですね。数千発のロケットが飛んで来たら流石に防ぎきれない。イスラエルはいつもの100倍返しをするでしょうから、双方の死者の数がどんどん増えていく。

 今回の攻撃自体は『ハマスは何をトチ狂ったのか』としか言いようがありませんが、この原因を作ったのは長年のイスラエルパレスチナへの違法行為や差別、虐待でもあります。

 犠牲になるのは多くは一般人。今回はハマスも滅茶滅茶なことをやっている。これ以上の殺戮は広がらないで欲しいけど、そんなことだけで片付けられるほど甘いものではないことも確か。

  平和を実現するためには時には実力行使が必要。それもまた現実です。武器を持って暴れている奴がいるのですから。

 ガザなんて恐らく地球上でもっとも理不尽が集約されているような土地です。日本の外交なんか全然影響力はないでしょうけど、数十年に渡って悪行を重ねてきたイスラエルに一方的に加担するようなことはしてほしくない。

 庶民に出来ることなんて限られています。殆ど無力に近いほど限られてはいるんだけど、そこで完全に目を瞑ってしまう訳にも行かない。これも世界の理なんでしょうね。


 と、いうことで、今回は無力な庶民のお話、実話です。六本木で映画『ロスト・キング 500年越しの運命

 夫(スティーヴ・クーガン)と別居中の40代の女性フィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は仕事場で上司から不当な評価を受けて嫌気が指すが、二人の兄弟を育てるために我慢して仕事を続けている。悩みながら暮らす中、彼女は息子の付き添いでシェークスピアの「リチャード三世」を観劇して衝撃を受ける。シェークスピアに残忍に描かれたことで歴史に悪名を残したリチャード三世も自分と同じように不当に評価されてきたのではないかと疑問を抱いたフィリッパは王の汚名を晴らすため、素人ながら調査を開始する。

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 2012年に500年間行方不明となっていたイングランド王リチャード三世の遺骨を発見した女性の実話を基にしたドラマ。カソリックによる人身売買を取り上げて14年にアカデミー作品賞、主演女優賞候補になった『あなたを抱きしめる日まで』のスティーヴン・フリアーズが監督、同作に出演していたスティーヴ・クーガンがプロデュ―ス、共同脚本を務めています。

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 ボクは未読ですが、シェイクスピアの『リチャード三世』はリチャードを極悪非道の王として描いています。背中が曲がっているため、性格もねじ曲がっていて、自分の甥をも殺したというのです。
 現実には現在の王家、テューダー朝になる前のヨーク朝の最後の王だから悪辣に描かれている可能性もあるそうですが、歴史上 その悪名は定着していました。

 フィリッパは背中の難病を患ったこともあり職場で正当な評価を受けていません。そんな職場にはつくづく嫌気がさしていますが、夫と別居中で兄弟二人の子供を育てている身として生活費を自力で稼がなければならない。そう簡単に辞めるわけにもいきません。

 悩みながら仕事を続ける彼女ですが、息子の付き添いでシェークスピアの『リチャード三世』を見た際、背中にこぶがあるリチャードは自分と同じように正当な評価を受けていないのではないか、と思うようになります。

 リチャードの名誉回復をしなければならないと思うようになった彼女の前には、度々リチャードの幻影が現れるようになります。彼女はリチャードの幻影と会話するようになる。

 子育てのために度々家に立ち寄る元夫(スティーブ・クーガン)も子供たちも流石に呆れます。

 リチャードの名誉回復を図る歴史愛好家『リカーディアン』の集まりに入ったフィリッパは、殺されて川に捨てられたと伝承されるリチャードの遺体がどこかに埋まっているのではないか、と考えるようになります。

  様々な専門家の話を聞きながら500年前の地図と現在の地図を重ね合わせ、500年前に遺体が埋められたのは、現在はアスファルトに覆われている市の駐車場だと推定した彼女は自分で資金を集め、渋る大学の専門家や市議会を説得して発掘を開始します。

 嫌々とはいえ、イギリスの市議会が一介の主婦に対して門戸を開いているところは感心しました。次第に彼女の言うことに耳を傾ける人も出てくる。

 それでも公的な地位がある人物は大学の専門家を始め 誰もが無謀だと諭しますが、彼女は挫けません。自分で資金を集めた発掘が始まって駐車場に書かれた『R』(リチャードのRですが、元来はVIP用の予約場所、reservedの略称)の文字が書かれた場所を指定して、ここに埋まっているのではないか、と非論理的な意見を主張します。アスファルトを掘り返す側にとってはそんな理由で場所を特定されてもたまったものではありません。

 こういう繊細な、思い込みの激しい役柄はサリー・ホーキンスの十八番です。この作品でもお見事です。
 ここで、もっといい味を出しているのが元夫役でこの映画のプロデューサーでもあるスティーブ・クーガン。外観はいかにもイギリスの皮肉っぽいジョンブルと言った風情ですが、一言でいってカッコいい。

 見る前は奇妙な話と思っていたのですが、実話だから驚きです。果たして、彼女が指定した場所から本当にリチャードの骨が出土します。 

 骨が出土すると世界中で話題になります。観光の面でも歴史研究の面でも大ニュースです。すると、今度は大学が彼女の手柄を横取りしようとします。
 元来控えめな性格で、市井のアマチュア歴史愛好家に過ぎない彼女には大学の権威に抗う術がありません。ここでも正当に評価されない人物、という当初のプロットが生きてきます。見事な脚本です。

 それでも彼女は自分のことより、リチャードの再評価のことだけを考えて戦っていきます。


 この映画の最大の美点は非常にハートウォ―ミングな作品に仕上がっていることです。驚きの実話というだけでなく、サリー・ホーキンスとスティーブ・クーガンの中心人物二人を包み込むような優しい、優しい物語です。

 少し前に見た邦画『福田村事件』で、なんでもかんでもセックスに還元する、しかも男性優位主義に未だに囚われている荒井晴彦の脚本の時代錯誤ぶりに激怒する体験をしたのですが(笑)、ああいう心の貧しさとは対照的に、この映画の作り手は根本的に心の豊かさが違う、と思います。

 あまり期待しないで見たのですが、見終わったあと気持ちが温かくなる見事な作品でした。これは見て良かった。すごくいいお話です。


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