特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『クマとクエ』とBS-NHK『欲望の資本主義2022』

  昨日の大雪(東京基準)はビビりました。今朝の冷え込みで一気に凍りましたから、道が滑るのは怖かった~。
 ボク自身は以前 北海道の人に教えてもらったアイゼンを靴に付けているので問題はありませんでしたが、雪の日の通勤は気を付けないとマジで命にかかわります。
●今朝の夜明け前。きれいですが、足元は凍って通勤は命がけ(笑)。

 見る見るうちにコロナの第6波がやってきました。最近の小康状態で、ボクの勤務先でも会社の行事のイベントや宴会を復活させようとしていたところです。とにかく、全部つぶれて欲しい(笑)。
 確かに宴会はコミュニケーションと言えばそれまでですが、こっちはとにかく関わり合いを最小限にしたいのですから迷惑極まりない。仕事だけならともかく、そういうくだらない『感情労働』を時間外にまで強いられるから、モチベーションが落ちる。自分でも良くクビにならないと思うくらい宴会やイベントに出ないボクですら、これだけ嫌なんだから、皆良くやっていると思いますよ。

 日本のサラリーマンのやる気は世界最低レベルだそうですが、それは宴会のような時間外の感情労働まで強いられるから、と思うのはボクだけでしょうか。
www.nikkei.com
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 さて、ボクはクリスマスなんて興味ありませんが、年末の食べ納めは結構好きです。街には人が居なくて、店も落ち着いているからです。今年は徒歩圏、また近所のイタリアンに行ってきました。

 これは月の輪クマのサラダ(笑)。クマの薄切り肉と店の人たちがやっている畑の野菜と組み合わせたもの。クマのような味が強い肉には苦い葉物が合うんでしょうけど、案外 蕪がマッチしていました。

 こちらはクエ。上には生ハムが載っています。クエに負けないくらい味が濃いエノキ茸(高知の海洋深層水で作った’’極みえのき’’というもの)と合わせて、シイタケのパウダーを掛けたもの。やっぱりハタ科は魚の中で一番美味しい。

 白トリュフと白子のパスタ。白と白。お店の人がこそっと『白子入りはボクのテーブルだけ』と言っていたので、年末で材料が余っていたんでしょう(笑)。白子と白トリュフ、どちらも大好き!

 帰り際 お店の人が『来年は普通に働ける年になってもらいたいです』と言っていました。昨年は1年のうち9か月が『何とか宣言』の期間でした。飲食業の人にとっては当たり前だけど、切実な願いでしょう。
 まして、こういう手の込んだ料理を出す店は定員は少ないし、テーブルの間隔だって数メートル空いている。もちろん酔っぱらって大声をだすような下等人種はいない。感染リスクは電車なんかより遥かに低いに決まっています。
 当たり前のことが中々当たり前にならない世の中です。少しでもマシな世の中にしていきたいものです。

 


 ここ数年、お正月に連続して放送しているNHKーBS『欲望の資本主義』は今年も面白かったです。
 今年は『欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを越えて』と題して、経済面から見たコロナ禍での格差拡大、環境・資源の問題、将来の経済体制について語ったものでした。

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 前半の1時間は個人的に殆ど見るものはなかったですが、後半の1時間は面白かった。
 共産主義の苦い記憶から資本主義内での改革を語るチェコの経済学者、セドラチェクと脱成長を主張する斎藤幸平の討論は見ごたえがありました。はっきり結論が判るようになってましたから。

●40万部を超えるベストセラーです。面白いですが、真に受ける人が増えたら世の中がおかしくなる(笑)。


 セドラチェクも斎藤も資本主義が行き過ぎていると考える点は一致しています。現状からの脱却をセドラチェクは資本主義に基づくヨーロッパモデルに求め、斎藤はコモンによる脱成長コミュニズム共産主義)に求めています。

 資本主義が成長を求める限り環境破壊は止められないとする斎藤に対して、セドラチェクは共産主義体制では環境破壊は資本主義より遥かに酷かった(笑)と反論します。資本主義体制でも利益優先の間違いは起こすけれど、間違いには異論が出てくるのに対して、共産主義では異論が出てくるのは難しいからです。

 斎藤は『デジタルを使えば、コモン(社会的共通資本)としてより広い範囲の社会インフラを共同運営できるのではないか』、

『教育やエネルギー、公共交通機関などは無料に出来るだろう』と述べます。

セドラチェクの答えは『共産主義にならなくても、ヨーロッパは既に教育は無料になっている。』(笑)。

 さらに彼は『古くは管理されなくなった放牧地、近くは共産主義国が示しているように、コモンという発想は既に歴史的に失敗している』と述べます。まったくその通りです。

 斎藤は星野リゾートの星野社長との対談で『(環境負荷の大きい航空便は)航空税を上げて、海外便の料金は4~5倍に上げ、国内の近距離便やLCCを禁止しろ』と言っています星野氏×『人新世の「資本論」』著者 「勝手にSDGs」の真意 (3ページ目):日経ビジネス電子版
 ボクも全く同感ですが、言うだけならは簡単です(笑)。LCCを禁止するなんて、誰が決める権利があるのか。航空便が減ったり、LCCがなくなった後の雇用はどうするの?。そこいら中に作ってしまった地方空港は? 

 SDGSでも脱成長でもいいけれど、本気で環境や省資源を考えるなら、環境負荷が大きいコンビニやファミレス、ファストフード、それに牛肉食だって禁止すべきです。山手線内なら自家用車だって禁止すべきです。ボクはコンビニもファミレスもファストフードも行かないし、自家用車も持ってませんけど、ポルポトみたいな独裁政権でないかぎり即時禁止なんてことは難しい。やっぱり時間がかかる。
『資本主義では地球温暖化への対処には時間的に間に合わない』という斎藤の言ってることは原発の即時廃止と同じで、机上の空論です。

 セドラチェクは『脱成長コミュニズムは机上論。机上で考えられた共産主義の政策の成功例は一つもない。時間はかかるかもしれないが経済的・思想的自由を保障した資本主義の下で改革していくしかない』といいます。

 実際に共産主義(の失敗)を体験した人間のいう事の方が遥かに説得力があります。セドラチェクの『机上論』という感想が、民主党政権時代の元中国大使、伊藤忠の元社長、丹羽宇一郎氏と全く一緒だったのは面白かった。
●丹羽氏は斎藤氏の脱成長コミュニズムを、面白いけど『人間という存在を無視した、机の上の空想論』と評しています。


 そのあと番組では現実に経済成長と環境保護を両立させているスウェーデンの例が紹介されます。1990年からの経済成長とCO2の排出量を比較した下のグラフ、ピンクの線が日本、青がスウェーデンです。スウェーデンは経済も成長し、CO2の排出も減っている

 スウェーデンでは経済面では自由競争で不振の企業は潰れたり、身売りされます。国を代表する企業、サーブやボルボ(自動車)、ABB(重電)も例外ではありません。日本のように役所が東芝や日産の経営に口出し、救済するなんてありえない。

 スウェーデンでは事業の変化に応じて労働者は転職せざるをえませんが、国は『積極的労働市場政策』として転職にまつわる教育や失業手当のサポートを積極的に行い、労働者も積極的に他の産業へ移動する。移動した先では他の分野のノウハウが注入されることでイノベーションが生み出されたり、経済の活性化につながることが紹介されていました。 

 スウェーデンでは産業ごとに最低賃金が決まるそうです。『連帯的賃金』と言って、企業、労組、国が話し合って社会的に決める。最低賃金が払えないような企業は容赦なく潰され、労働者は他の企業に転職することになります。その仕組みによって産業の生産性と労働者の賃金が両立している。

 だから日本も最低賃金は上げるべきなんですね。まともな賃金を払えないような企業は中小企業だろうと零細商店だろうと助ける必要は無い。経営者もさっさとクビにすべきなんです。
 日本は企業は保護するけれど、労働者はあまり守らない。それが社会全体の足を引っ張っている。守るべきなのは企業ではなく、人です。
●菅のアドバイザーのデヴィッド・アトキンソン(元ゴールドマンサックス)ですが、この件については彼は正しい。インボイスの導入も当然。税金という社会的義務を果たせない企業を生かしておく必要はない。

 最低賃金が上がらないから、全体的な給料だって上がらない。

 番組の最後でギリシャの元蔵相(半年だけ)・経済学者のバルファキスが言ってることがピンときました。
成長か脱成長なんて問いは無意味。(金融など)成長しなくても良い分野はあるが、再生可能エネルギーや教育、文化などもっと成長したほうが良い分野もある。捨てるべきものと伸ばすべきものを区別することが大事ではないか』

 あともう一つ、資本主義を歪めているのは成長より、過当競争ではないか、とも思いました。適度な競争は企業や社会にイノベーションや健全性をもたらしますが、過当競争や独占になると賃下げや不正にまで発展してしまう。東電や派遣社員の問題が典型です。
 競争を無くすことは出来ないにしろ、過当競争や独占にならないよう、もっと我々は目を配るべきではないか、とボクは思えます。独禁法の強化だけでなく、スウェ―デンの『連帯的賃金』(産業ごとの最低賃金)なんてすばらしいアイデアだと思いました。

 という具合に、見る人に考える材料を与えてくれる2時間でした。1月10日の深夜に再放送があります。

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