特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『サフランのミルフィーユ』と読書『ビジネスの未来』(民主主義のために税金上げろ)

 いよいよ春らしくなってきました。東京では今週末にでも桜が咲くようです。通勤途中の桜のつぼみもずいぶん膨らんできました。
●膨らんできた蕾と登ったばかりの太陽。人生の折り返し点を過ぎたボクには眩しく見える(笑)。

 お皿の上も春。前回のエントリーで触れた近所のイタリアンの続きです。
 まず、これぞ春、という白アスパラ。ずいぶん早いなと思ったら、ロワールのハウスものだそうです。ま、それはしょうがない。それより今年は食べられないと思っていたので、食べることが出来て嬉しかった。焼いた芽キャベツと生ハム、半熟卵と一緒です。

 但馬牛(神戸牛です)の熟成肉と春の野菜。熟成肉は3週間~4週間の熟成が普通ですけど、これは4か月。これだけ長いとナッツのような熟成香が消えます。肉がプリプリになって、噛めば噛むほど味が出てくる。ブームの時は熟成が浅いまま出す店も多かった。
 コロナで肉の需要が減っているからこそ、食べられるお肉です。

 サフランミルフィーユ。パエリアやブイヤベースなどに入っているサフランを甘いものに使うなんて初めてでしたけど、美味しかった~。サフランを練りこんだピンク色のクリームがいかにも春の訪れ、でした。


 さて、コロナは相変わらず収まりません。それどころか、東京では再び感染が増えつつあります。まともな対策を取ってないのだから当然、です。一方 経済は相変わらず厳しい。
 今日 バイデン大統領の演説を報じた、このニュースを見て流石に羨ましくなりました。 
www.nikkei.com

 昨日も3度目の給付金1人15万円などの経済対策のニュースが流れていました。
news.yahoo.co.jp

 以前にも書いたように、アメリカは7月末までには集団免疫を獲得するという方向で動いています。それでいち早く経済を回復させる。今回の演説はその方向性を具体的にした、というところでしょう。
 健康と経済を両立させる広い視野で政策とゴールを考え、その方向性と目標を国民に具体的に示し、納得を得られるよう努力する当たり前のことが当たり前に行われる政治、羨ましいですよね。

 この数日 ネットもTVも311の振り返りを沢山やっていました。印象に残ったものをメモ代わりに残しておきます。
 津波を生中継したNHKのカメラマンが葛藤の末 退社した話
www.huffingtonpost.jp

 地震の復興や救援に当たった自衛隊の話。
business.nikkei.com

 それに彼らや警察、消防が原発事故に対処したことも。
business.nikkei.com

 特に自分たちの設備を被災者に回し、長期間シャワーも浴びずに作業に従事した米兵の話は考えさせられました。以前 パキスタン地震の救援に行った際は現地の習俗を無視して逆に顰蹙を買っていた米兵が、長年駐留して日本人を良く知っていたため献身的に活動した、というのです。
 昨今は知りもしないで外国の悪口を言ってる日本人が増えていますが、自分たちはどうなのか。
business.nikkei.com

 民主党政権も政策でも実行でも種々の不手際があったにしろ、国民を助けようとする意志があったことだけは今の政権より、まだマシでした。
this.kiji.is

ボク自身は菅直人政権は『幼稚』と思っているのですが、幼稚な政権でも、国民の事を考えない政権よりは遥かにマシです。

 しかし、それでも 今バイデン氏がやっている、国民の健康と経済を両立させる戦略(7月までにワクチンを接種して集団免疫を獲得、経済をいち早く回復させ他国に対して優位に立つ)と実行力には遠く及びません(もちろん成功するかどうかは判りません)。
 単に今の政権を変えれば良いと言う話だけではなく、まだまだ我々自身がもっと進化していかなければいけないと思うのです。
 

 


 さてさて、読書の感想です。『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

 著者の山口周という人は慶應の哲学科を出て大学院で美術史を専攻、そのあと電通からBCG(東大の卒業生の人気ランキングでベスト5に入る外資系コンサル)に入り、独立。『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか』(笑)でビジネス書対象2018を受賞するなど、種々のベストセラーを出している人です。昨年末に出たこの本も非常に売れているようです。
●こんなマヌケな表題の本は絶対読みません(笑)。

 ボクはビジネス書とか嫌いです(笑)。この本の帯にも『新しい世の中を作るために資本主義をハックしよう』と書いてあります。『ハックしよう』ってよくハウツー本に使われていますけど、嫌悪感を感じる言葉です。いかにも頭が軽そうだし、インチキ臭いじゃないですか。チャラい(笑)。

 でも、たまたま読んだ、この本はちょっと面白かった。
 何が面白いかというと、これもまたベストセラー、斎藤幸平が書いた『人新世の「資本論』と同じテーマだからなんです。『資本主義はもう限界』という認識は水野和夫先生とも共通する。
 マルキストの斎藤幸平とはある意味 反対の立場の人間が同じテーマを扱うって面白いじゃないですか。

人新世の「資本論」 (集英社新書)

人新世の「資本論」 (集英社新書)


 いかにも元BCGのコンサルらしく、本の冒頭で著者本人がエッセンスを簡潔にまとめています。

1.私たちの社会は明るく開けた『高原社会』へ軟着陸しつつある。
 『高原社会』とは著者がメタファーとして挙げている言葉で、人類が苦しめられていた物質的不足から解放された世界を指しています。人類は長年 無限に成長しなければならないという意識を強迫観念のように持ってきたが、これからは成長が止まった世界になる、というのです。
 このことは低金利や資源の制約などを理由に、水野和夫先生やサマーズ元財務長官、斎藤幸平まで多くの識者が指摘しています。

2.高原社会での課題は『エコノミーにヒューマニティを回復させること』
 最近は資本主義システムの制度疲労が指摘されるが、全否定して新しいシステムを求めるのは現実的だろうか?仮に可能だとしてもフランス革命ロシア革命のように大きな犠牲を払わなくてはならない。むしろ、資本主義をハック(乗っ取る)して市場原理に人間的な原理(ヒューマニティ)を組み込むほうが有効ではないか、と著者は言っています。

 今問題なのは市場原理の行き過ぎであって、市場原理自体を全否定するのは得策ではない、とボクも思います。市場原理には競争で腐敗を防ぐ、という大きなメリットがあるからです。そのメリットは東電のような独占企業を見ればわかるはず。資本主義がダメなのは自然や生き物など商品化してはいけないものまで商品にしてしまうことで、市場競争が問題なのではありません。

3.実現のカギとなるのが『人間性に根差した衝動』に基づいた労働と消費
 経済合理性を追い求める行動様式を人間の喜怒哀楽に基づく衝動に準拠したものに変えていくことで、現在の問題点を解決するだけでなく、新たなイノベーションを起こせるのではないか。喜怒哀楽に基づく衝動とは『将来のために今を我慢する』から脱却して、今という時間を楽しく充実して過ごすことに重きを置くもの。例えば芸術であったり、娯楽であったり、社会的に意義のある仕事だったり、と著者は言っています。
 
 言ってることは判るけど、ここはボクは楽観的に過ぎる、と感じられました。どんな仕事でも仕事自体をやりたくない人って結構いるのではないでしょうか。
 
4.実現のためには教育・福祉・税制等 社会基盤のアップデートが求められる。大きな北欧型社会民主主義国家を目指せ。
 そのためには誰もが安心して好きな仕事に取り組めるよう、『ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入』GDPに変わる新たな総合的指標としてソーシャル・バランス・スコアカードを導入』『政府の具民化政策を見直し、芸術や格差の是正など人間的価値を重きに置く教育制度の刷新』『それらを実現するために税制を高福祉・高負担型に転換する』、などが必要、と著者は主張しています。


 著者が言ってることで2つ、面白い点がありました。
 1つは『システムを取り変えることに注力するより、システムの中の自分たちを変えるほうが有効ではないか』ということです。
 学生/市民運動や革命など20世紀後半は様々な変革が試みられてきたが殆どが失敗に終わった。それは『システムが主で人間が従』という考え方に立っていたからではないか。それでは従来のシステムと何ら変わりがないから失敗した。
 システムを取り換えるより自分たちの思考や行動様式を変えて、資本主義を内側から乗っ取る(ハック)方がうまく行くのではないか、と著者は言うのです。

 ボクはシステムを変えようとするのが全て間違いとは思いません。公民権運動や女性解放運動のように目に見える成果を挙げた運動も多い。反原発運動だって、まだ道半ばとは言え、再稼働や新設を押しとどめる成果を出しています。ただ『システムが主で人間が従』という考え方ではうまくいかないのは全く同感です。
 社会主義がその典型ですよね。斎藤幸平の言ってる環境重視の社会主義は善悪や価値を一方的に決めつけるエコファシズムに繋がりかねない。ちなみにナチは森林保護など環境問題にも熱心でした。 
 ボクはシステムと人間、車の両輪として変わっていくことが必要だと思います。


 もう一つは、所得税や消費税など『税金を上げろ』です。
 日本は国民所得に対する租税の負担率がOECD36か国の中でも8番目に低い、そうです。一方 国民の幸福度が高い北欧やフランスなど西欧諸国は押しなべて負担率は60%以上、一方 国民の幸福度が低い日本や韓国などの負担率は40%台前半。

 著者は所得税相続税、それに消費税など国民負担率を上げることで3つの効果がある、と言います。
1つは税金を上げることで寄付の文化が高まる。どうせ税金を取られるのなら税金控除がある寄付をしたほうがマシ、と考える人が増える。自分でお金の使い道を決められるからです。それは言えてますよね。

2つ目は『くだらない仕事がなくなっていく』。高額所得を稼いでも税金で取られるのなら、くだらない仕事、つまり人の役に立たないような仕事は減って、人々は自分が本当にやりたいことを仕事にしていくのではないか。
 意義のある仕事なんて思いつくだけでも大変ですから、本当にそうなるのか大いに疑問ですが、ベーシックインカムと組み合わせれば可能性はなくもない(笑)。

3つ目は『人々の政治へのコミットメントが高まる』。確かに高い税金を取られる、となれば、行政に注文は付けたくなるし、政治家への監視の目も厳しくなる。投票率だって上がる。
 著者は『世の中を悪くしているのは無批判で無関心な善人』と言っていますが、その通りだと思います。無批判で無関心な善人は自分が悪いとは思ってませんから。救いようがない。
 『税金を上げれば、人々の政治参加が高まる』、これは目からうろこ、の指摘でした。

 抽象的な部分や賛同できない部分もありますけど、鋭い指摘が多々あります。特に『税金を上げることで政治参加を促す』はその通りだと思いました。

 この本、アマゾンのユーザー書評に『 ちょっと頭のいい世田谷左翼向けエンタメ本』と揶揄しているものがあって、ネーミングも含めて鋭いなあと思いました。確かにちょっとそういうところはあります。ただ、著者は左翼でも何でもないし、斬新な切り口を提示すると言うBCG的な意味で頭がいいことは事実。彼らは良くも悪くも斬新な切り口を出すと褒められるんです、その方がクライアントには面白いから(笑)。著者の発想も条件反射みたいなものでしょう(笑)。

 ほぼ同じテーマを扱った『人新世の「資本論」』と比べてみるのは誰にとっても非常に有益だと思います。
 『人新世の「資本論」』ではコンサルや金融、広告代理店は世の中のガン、不要な仕事とありました。ボクも全く同感ではあるんですけど(笑)、元コンサルの書いたこの本の方が遥かに視点は鋭いし、現実的だと思いました。もちろんコンサルも金融もマスコミも広告代理店もピンキリ、9割以上がゴミだけど、ごくわずかな人だけが価値がある、ただそれだけなんでしょう。


 コロナ一つまともに対処できない今の日本は閉塞感に覆われたダメダメ国家です。少子高齢化による衰退が避けられない貧乏老人国。政府や大企業だけでなく、野党や市民運動も一緒だと思う。
●日本の現状はまさにこの通りだと思います。

 けれど、一部の若い人たちの起業のように、ビジネスのように思いがけぬ分野から社会を変えるためには具体的にどうするか、そういう本が出てくる時代でもあります。政治や市民運動も時代遅れのジイさん連中をお払い箱にして新たな形に変わっていかなければならないのでしょう。

 311を振り返りつつも、これからが大事です。そのためには、やっぱり仕事や家庭で一人一人が変わっていくことが重要だと思います。



ということで、残り3回となった金曜官邸前抗議、今週はリアルでも行われるそうです。残念ながらボクは別件があって不参加。3日前に発表があってもムリ(笑)。
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 311が有っても最も変わってないのは東京電力かもしれません。独占企業って言うのは間違いなく、世の中のガンだと思います。競争原理が働かない独占企業やカルテルをせん滅すれば資本主義の問題は6~7割解決するんじゃないでしょうか。