特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

BS1スペシャル「ラップと知事選 沖縄 若者たちの声」と映画『ボヘミアン・ラプソディ』

この土日は爽やかなお天気でした。
それでもボクの週末は映画と1週間撮りだめていたTV番組を早回しで見るのが日課です(笑)。今週は金曜官邸前抗議へ行ってる間に録画しておいたNHKの番組を見ました。
f:id:SPYBOY:20181118164930j:plain

f:id:SPYBOY:20181118170025j:plain

先日の沖縄県知事選を控えて、沖縄のライブハウスで活動するラッパーたち数人に密着、政治や基地、生活に関する彼らの声をルポにしたものです。ラッパーと言っても勿論 皆 無名の子たちです。

若者たちの政治や基地に関する意見は様々です。政治的意見はともかく、米軍基地が無くなって欲しいというのが大抵の人の思いじゃないかと想像していたのですが、番組の冒頭、『自分がラップを始めたのは基地の米兵と知り合ったからだ、基地がなければ沖縄じゃない』という子が出てきて驚きました。

他にも、そういう意見って番組の中で結構 出てきました。基地で潤っているという経済的な理由なら判りますが、それだけじゃないんですね。もちろん身内や知り合いが被害を受けたような子は若くても強い拒否感はあるんですが、基地に対する抵抗感そのものがない若い世代って多い。もちろん基地より、経済的な期待を優先させて佐喜眞候補に投票する、という子もいます。
先日の知事選では10代、20代は佐喜眞候補に入れた方が多かったというのも判る気がします。もちろん、この番組にも、基地は絶対に嫌だという若いラッパーも出てくるんですけどね。
f:id:SPYBOY:20181119103229j:plain

ただし、番組で取り上げられたラッパーたちは全員男だった、ということは割り引かなければなりません。ラップというのはマッチョ的な文化を体現している面があって、それが正直 ダメなところです。男に選挙権なんか要らないんだよ、どうせバカばかりなんだから(笑)。
f:id:SPYBOY:20181119103703j:plain
2018沖縄県知事選 開票ライブ

一方 ラッパーの子がたむろする、基地の周辺で復帰前からバーを営業している店主(下写真右)なんかは『基地も米兵もお断り』という姿勢が明快です。そういう人は玉城候補のポスターを店に貼っている(笑)。ただし、基地前の商店街自体 もう終焉をむかえようとしている。

ラップの傍ら、配達の仕事をしている子は配達先の店でお年寄りの話を聞くことが好きだそうです。おばあさんから、戦中のことを聞かされると『うーん』となる↓。こういう機会がある子はまた違った考えを持つのかもしれません。

若者たちは声高にもならず、かといって遠慮もせず、自分たちの思いを率直に語っていて、面白かった。基地に賛成の子もいるし、反対する若い子もいる。基地に賛成だった子が選挙結果の大差を見て驚くシーンもあります。その子は『みんな、何かを変えたいと思って、玉城候補に投票したのかな』と呟きます。


この番組で取り上げられているのは若い男性、しかも、やや特殊な『ラッパー』というバイアスがありますから、これが若い人たちの意見全般とは受け取ることはできません。
その上で思ったのは、彼らの考えていることは結構 保守的だなあ、ということです。政治的にどうこうということではありません。既存の秩序や権威、権力が彼らの中で既成のものになってしまっている。

ボクの感覚だと『ロックやラップというものは権力と戦うための武器の一つ』(もちろん愉しみのためのものでもあります)です。ところが彼らは悪ぶっているポーズはしても、『地元万歳』というコンテキストに簡単に絡み取られてしまっている。ラップのふりをした日本語フォークかって(笑)、ボクなんかは思ってしまう。もちろん辺野古に座り込んでいる基地反対派の人たちにも旧来の反対運動という、これもまた既成の権威に疑問を持たない、悪い意味で保守的な人は多いとは思います。
●この子は父が米兵、継父などに虐待を受けて苦労したそうです。

地方の若い人の中には、保守的な『マイルド・ヤンキー』が増えてきているという説もありますが、そういう感覚って確かにあるのかもしれません。地元で仲良く仲間たちとつるんで暮らしていければ満足で、それ以上のことは考えたこともないし、考えても仕方ない。地方だってイオンに行けば大抵のものは揃うし、それで飢えるという訳でもありません。田舎のマイルド・ヤンキーのほうが竹中平蔵のような『金儲け命』の新自由主義者よりは、人間として健全なのかもしれない。

問題は、今の世の中が若い人たちの可能性を狭めてしまっていることだと思います。自分の身の回りとは違う生き方がある、違う価値観がある、ということを先行する世代が示すことをできていない。元来 そういうことを教えてくれるのがロックであり、ラップだと思うのですが、経済的な面だけでなく、文化的な面でも今の大人たちは脆弱だし、閉塞して生きているのでしょう。

ドキュメンタリーとして大変面白かったです。一方的な基地反対の観点で作られたものより、はるかに内容が豊かです。あまり予算はかかってないですが、NHKも一部は頑張っている。色々なことを考えさせる番組でした(25日の日曜朝に再放送があります)。
f:id:SPYBOY:20181119122552j:plain
f:id:SPYBOY:20181119122633j:plain



ということで、日比谷で映画『ボヘミアン・ラプソディ


ボヘミアン・ラプソディ」、「伝説のチャンピオン」、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」といったヒット曲で知られるロックバンド、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの伝記ドラマ。


まず最初に、ボクはクイーンというバンドはファンではありません。大体のシングル曲は知ってるし、良いなと思う曲もいくつかあるけれど、本気で好きな曲はボウイとデュエットした『アンダー・プレッシャー』くらいです。ハードロックは嫌いだし、大仰な音楽も嫌い、本作の主人公、フレディ・マーキュリーもうまい歌手だとは思うけど、歌い方が下品なので、あまり好きじゃありません。

Queen & David Bowie - Under Pressure (Classic Queen Mix)

尚且つ、クイーンは人種差別で各国からボイコットされていた当時の南アフリカで公演をやっています。ロックの世界でも南アボイコットの動きが広がっていた時に、です。ダリル・ホールホール&オーツは『ボイコットを破ったクイーンとロッド・スチュワートはクズ』とカメラの前で公言していましたけど、当時クイーンはずいぶん非難されました。日本人は無知が多いから意識した人は少なかったみたいだけど、ボクはこの点は許しがたいと思っています。
●80年代、南アの人種差別に抗議する有名アーティストが集まって作ったアンチ・アパルトヘイト・ソング『SUN CITY』。もちろんクイーンが入っているわけない(笑)。

Artists United Against Apartheid - Sun City (music video)


だから、この映画も最初はスルーしようと思ってたくらいです。デモまでの時間潰し、それに名作『シング・ストリート 未来へのうた』のヒロイン、ルーシー・ボイントンちゃんが出ているので見に行っただけなんです(笑)。



ということを抜きにして(笑)、映画としてはかなり面白い作品でした。監督は自身もゲイのブライアン・シンガー。Xメン・シリーズをマイノリティの葛藤と差別への抵抗として描いた監督です。
f:id:SPYBOY:20181113200505j:plain

まず映画が始まる前 おなじみの20世紀フォックスのファンファーレ。これがエレキギター、それもブライアン・メイっぽいギターの音色で奏でられます。おおっ!凝ってるなあ。
舞台は1970年のロンドン。主人公のフレディ・マーキュリーは、本名はファルーク・バルサラ。アフリカのザンジバル島生まれのインド系です。アート・スクールを卒業後、空港の荷物係として働いていました。ゾロアスター教徒の彼の一家はインドでの宗教弾圧を恐れてザンジバル島に移住、さらにそこでも宗教弾圧を受けてロンドンに移住してきます。''PAKI''と周囲からはパキスタン人扱いされ、しかも歯が出ていたことから、強いコンプレックスを抱いています。生まれ育った名前も捨て、フレディ・マーキュリーというイギリス風の名前に改名するほどです。しかし、彼には美声と声量という武器がありました。
f:id:SPYBOY:20181113200601j:plain

フレディはボーカルが脱退したばかりのスマイルというバンドに加入します。そのバンドにはギタリストのブライアン・メイ、ドラムのロジャー・テイラーが在籍していました。そこにベースのジョン・ディーコンが加わって、『クイーン』が結成されます。と、同時にフレディは洋服屋の店員をしていたメアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)と知り合い、同棲を始めます。
●メアリー(ルーシー・ボイントン)(右)とフレディ(ラミ・マリック)


ここから、皆さんもご存知のクイーンのスターダム街道が始まります。次から次へと流れるヒット曲を聞きながら、裏側のエピソード、レコーディングやレコード会社との関係を見るのは楽しかったです。約6分間の『ボヘミアン・ラプソディ』がシングルとしては長すぎるとしてレコード会社と揉めるくだりは、やはり面白い。クイーンの面々の強弁より、『マッカーサー・パークドナ・サマーの名曲)は7分だぞ』と弁護士が口をはさむところを入れたのがうまいなあ、と思いました。『マッカーサー・パーク』って『ボヘミアン・ラプソディ』をはるかに凌ぐ名曲だし、いかにも弁護士などが好みそうなオーセンティックな曲なんです。
この弁護士は後日クイーンのマネジメントを引き受け、悪徳マネージャーのせいで空中分解しかけた彼らを救います。いずれにしてもクイーンの曲は感動するほどではないにしろ、ポップだし、誰でも聞いたことがあるものばかり、大画面で見るのは楽しいです。
●'大ヒットした'WE WILL ROCK YOU''って、こうやって作ったんだって思いました。
f:id:SPYBOY:20181113201002j:plain

制作にクイーンのメンバーが入っているから美化しているのかもしれませんが、クイーンというバンドはずいぶん性格が良い人たちだったんだな、と思いました。天才肌だが暴走しかねないフレディを常識人の他のメンバーが宥めすかして、曲作りもビジネスも何とかまとめていく。ブライアン・メイ天文学博士、ロジャー・テイラーは歯医者、ジョン・ディーコンは電気工学と、ロックバンドには珍しくインテリ揃いだったからでしょうか。
f:id:SPYBOY:20181113201022j:plain

スターになったクイーンですが、フレディとメアリーの仲は破局を迎えます。フレディは彼なりに一生懸命 メアリーを愛しているのですが、心の底では男性を求めていることがメアリーには判ってしまう。彼はゲイ、だと。実際には両性愛者だったという話もありますが、この映画ではどちらかはわかりません。
f:id:SPYBOY:20181113200626j:plain

この映画でのルーシー・ボイントンちゃんはとにかく美しくて、画面の中で文字通りかがやいています。後光が差してます(笑)。いいなあ。

●こちらは本物のフレディとメアリー。似てるんでびっくり


2人は友人関係に戻り、フレディはメアリーのアパートの隣に大豪邸を建てます。飼っている猫たちに一つ一つ部屋をあてがいながら、一人で暮らすフレディ。夜になると彼は窓から、メアリーの部屋の明かりを見て孤独にさいなまれます。心ではメアリーを忘れることができないのです。フレディに興味がないボクでも、ここいら辺の描写はかなり、ぐっときました。判るなーと思った。
f:id:SPYBOY:20181113200938j:plain

やがてフレディは豪邸で夜な夜なパーティーを開くようになり、クスリ、アルコール、男に溺れていきます。悪徳マネージャーはそれを止めるどころか、手助けする始末。真面目な他のメンバー(笑)(?)とも徐々に亀裂が生じ、クイーンは解散状態になります。


やがて史上最大のチャリティ・コンサート、ライブ・エイドが企画され、クイーンにも出演依頼が来ます。何年も一緒に演奏していない彼らはどうするでしょうか。フレディは立ち直ることができるでしょうか。
f:id:SPYBOY:20181113200646j:plain

お話しは事実を基にしながらも、かなり脚色が入っています。そもそもフレディが自分がエイズであることに気が付くのはライブ・エイドのあとのようですし、両性愛者というより同性愛者として描かれているし、都合の悪い南アの話なんかも触れられてない。だけど、こういう物語にしたのは映画としては大正解。クイーン、フレディ・マーキュリーのある面だけを抽出して、自分のアイデンティティとコンプレックスに悩むマイノリティの物語に仕立て上げたことで、猛烈に感情移入できるお話しに仕上がっています。

日本の観客としては当初クイーンは欧米より先に日本で大人気になったこととか、親日家になったフレディの家に日本庭園があったとか、お忍びで歌舞伎町のゲイバーに通ってた話とかも入れてくれると面白かったですが、そこはスルー。ただ映画ではフレディの家に金閣寺のお札が貼ってありました(笑)。
f:id:SPYBOY:20180810051633j:plain


ライブ・エイドの画面は、あとで実際の映像と見比べてみましたが、本当にそっくりだし、本物と遜色ない。歴史に残る名演と言われているそうですが(ボクはそこまでとは思わない)、映画では大画面で見られる分だけ、本物より迫力があるかもしれない。1分や2分の演奏シーンじゃなく、20分近く再現したんですから、凄いですよ。すごい。音楽映画の歴史に残る名場面ではあるかもしれません。
●これがホントのライブエイドでのクイーンの演奏風景。日本ではフジTVがCMで切り刻んでライブエイドを実況し、滅茶苦茶にしました。許しがたい犯罪行為です。

Queen - Live at LIVE AID 1985/07/13 [Best Version]

フレディを演じたラミ・マリックという人は大したもんです。歌唱シーンは本物のテープだったり、プロのそっくりさん歌手を使っているようですが、それでもちゃんと歌えるし、フレディのド派手なアクションも完コピできている。なおかつ民族や宗教、セクシュアリティで悩むマイノリティの孤独を壮絶に表現している。
他のメンバーを演じた役者さんもすごいです。特にブライアン・メイ役の人は本人より本人じゃないかと思った(笑)。そして光り輝くメアリー役ルーシー・ボイントンちゃんがフレディの復活の鍵を握っているのも嬉しい(笑)。お互いに新たな恋人ができてもフレディとメアリーは生涯友人関係を続け、フレディは多額の財産をメアリーに残したそうです。
f:id:SPYBOY:20181113201146j:plain

とにかく面白いし、盛り上がる青春ドラマです。『ボヘミアン・ラプソディ』や『ウィ・アー・ザ・チャンピオン』がマイノリティであるフレディの心境と重ね合せたものになっているところは物語に深みを出しています。エンディングは病が進む中、死を目前にしたフレディの実質的なラスト・メッセージだった『THE SHOW MUST GO ON』(それでもショ―を続けなけれならない)を中心にすれば、もっと盛り上がるとは思いましたが、些細なことかもしれません。

Queen - The Show Must Go On (Official Video)


誰でも聞いたことがある大ヒット曲を大画面、大音量で見ながら、役者さんたちの熱演と判りやすい物語に涙する。実際のクイーンはそれ程 好きじゃありませんが(笑)、この作品はエンターテイメントとしてはかなり質が高い、面白かったです。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』最新予告編が世界同時解禁!