特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『アリー/スター誕生』

 お正月休みが遠い過去のように思える(笑)、この週末は楽しい3連休でした。

 今日 街に出ると晴れ着の女の子が大勢歩いていて微笑ましかったですけど、その背景を考えると、良くあんなことするな、とも思います。みんな、それなりに可愛らしいし、自分が好きでやっているのか、親や友人、マスコミなど周囲に踊らされているのかはわからないけど、やっぱり、なんであんなことをやっているのだろうと考えてしまう。

 なんで自治体が成人式なんか開くの?
 なんで式典で首長やくだらない有名人の説教を聞かなければならないの?

 はるか昔(笑)、ボクは成人式なんか行こうとも思わなかったし、今年二十歳の姪っ子ちゃんに聞いたら『(成人式なんか)アホらしい』という返事しか返ってこなかったし(姪っ子ちゃん、偉い!)(笑)、冷静に考えると、そんなものなんでしょう。もちろん成人式に行きたい人を非難する気はないけど、不思議には感じます。

冷静に考えると、最近起きていることはこうなんですよね↓(朝日新聞編集委員tweet

きりがないというか、世の中はどんどんきな臭い方向へ進んでいる。

この国、いや、国民!の自浄能力には期待しません。でも何とかオリンピックだけでも潰れてほしいなあーー。東京で二回中止になれば、それこそ伝説になると思うし(笑)、大河ドラマ『いだてん』も余計に盛り上がるでしょう(笑)。


www.change.org


 こんどの日曜日、1/20、東京、大阪で同時に『安倍やめろ』デモがあります。 #AbeOut0120大阪   #AbeOut0120   #安倍もう飽きた   #維新もうんざり
とりあえず、冬空の下で声を挙げてみましょうか。そうそう、、デモとか言っても、所詮 お散歩に毛が生えたようなものです。気持ちいいじゃないですか。



ということで、日比谷で『アリー/スター誕生
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昼はウェイトレスとして働きながら、夜はゲイバーで歌っているアリー(レディ・ガガ)は、鼻が大きすぎるなど容姿にコンプレックスを持っていて、歌手になる自信を持てずにいた。ある日 酔っぱらって訪れたカントリー歌手のスター、ジャクソン(ブラッドリー・クーパー)から歌を高く評価され、ジャクソンのステージに上げられたことをきっかけにスターへの階段を登り始める。私生活でも二人は結婚するが、アリーの成功とは対照的にジャクソンはアルコールとドラッグに溺れていくーーーー


 ボクはレディ・ガガとかあまり興味ないので最初はスルー予定でしたが、非常に評判が良いので、とりあえず見に行ってみました。
 音楽はあまり好きじゃなくても映画としては面白かったボヘミアン・ラプソディの前例もありますし。『アリー』はアメリカでも興収は2位、レディ・ガガのサントラは全米、全英で1位を獲得しています。日本ではいまひとつのようですが、世界的には大ヒットしています。
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 当初はクリント・イーストウッド監督、ビヨンセ主演の予定だったそうです。ところがビヨンセが懐妊したため、レディ・ガガが主役になって、監督も出演しているブラッドリー・クーパーがやることになった。
 お話自体はハリウッドで4回目のカバーだそうです。かってはジュディ―・ガーランドやバーブラ・ストライサンドなどが主演している古典です。バーブラの前作くらい見ていけば良かったんですが、このお話し自体あまり好きじゃないんですよね。というか、大嫌い(笑)。だって、

 貧しい女の子が王子様のような男と知り合い、歌手や映画スターとして一躍 スターダムにのし上がるが、それとは反対に男は落ちぶれていく。

 今こういう映画が作られることは『女性を取り巻く差別はジュディ・ガーランド、いやバーブラの時代からすら、変わっていないことを告発している(嘆息)』という考え方もあるのでしょうけど、描き方はいい加減、少しは考えた方がいいんじゃないの?って思うんです。
性差別やルックスなどでくすぶっていた女の子が王子様のような男に救われる話も、瓢箪から駒のようなスターダムの話も、女性の成功を認めることができない男なんて、バカすぎて描く価値ないでしょ。


 今作もそういうお話です。世間で言われているとおり、ブラッドリー・クーパーのミュージシャン役、レディ・ガガの歌手役も悪くありません。特にブラッドリー・クーパーは歌とギターを特訓したそうで、表現はやや平板だけど本当の歌手みたいに見える。しかも曲まで自分で書いている。アルコールとドラッグで身を持ち崩していくスター歌手という役ですが、彼は終始 酒やけの声で演技し続ける。まさに熱演です。
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 映画はブラッドリー・クーパーレディ・ガガの二人をほぼアップで映し続けます。まるでこの二人は本当にできているんじゃないかと思わせるほどです(笑)。セリフに出てくる気持ちだけでなく、言外の気持ちまで伝わってくる。ちなみに『ボヘミアン・ラプソディ』ではフレディ役の俳優とヒロインのスーザン・ボイントンちゃんは実際に今 付き合っているらしい、くっそー(笑)。
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 俳優としてはブラッドリー・クーパーがメインですが、俳優としてのレディ・ガガも良いです。ジャクソンと出会った時の様々な表情の変化は素晴らしい。夜明けの駐車場のシーンなんかは歴史に残るくらいの名シーンかも。前回の『スター誕生』のバーブラ・ストライサンドと同じように、大きすぎる鼻にコンプレックスを持っているという設定のレディ・ガガ、ほぼスッピンのユダヤ人顔は結構可愛いです(笑)。
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 悲劇にしたくなかったと、とブラッドリー・クーパーは語っていますけど、演出も出過ぎず、感傷も押さえられていて、品がある。ジャクソンもアリーの造形も丁寧に描かれている。特にジャクソンの人物描写は説得力がある。監督としての手腕は見事なものです。
 ブラッドリー・クーパーと言えば超二枚目俳優として知られていますが、天は二物を与えたらしい(笑)。俳優としての二人はめちゃくちゃ気合が入っている。映画としては悪くありません。
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 一応 ある程度 今の時代のことは反映されています。アリーは男に頼らない自立した女性だし、ジャクソンに絡む酔っ払いを自分で殴り飛ばしたりするほどです。実際のレディ・ガガ同様、LGBTQに対する共感が表現されているのもいいです。



 でも、ボクの好みで言うとイマイチ、でした。お話で勝負しない音楽映画なのに、全く音楽に説得力がないんですもん。
まあ、ブラッドリー・クーパーの歌は良しとします。彼が歌うシーンは長くないし、彼の音楽は映画の中では添え物ですから。
だけど、お話にあるように、レディ・ガガが演じるアリーの音楽は『スターになって当然』というほどの説得力はない。映画を見た人は『うまい』と思うようなレベルではある。でも感動するほどでもない。ボクに言わせれば、凡庸です。

 これがビヨンセだったら違うかもしれません。彼女だったらルックスも歌も曲も『おおっ!』というだけの説得力がある。
アカデミー主題歌賞間違いなしと言われている、この映画の主題歌『シャロウ』はかなり良い曲です。だけど感動する程の名曲ではない。アリーの部屋にはキャロル・キングのウルトラ超名盤『綴れ織り』のジャケットが飾ってありましたが、それ風の音楽に強引で大仰なサビをつけて、無理矢理盛り上げようとする感じ。良くできているけど、合成甘味料が多用されているみたいで、ちょっと趣味が悪い。

Lady Gaga, Bradley Cooper - Shallow (A Star Is Born)


 お話し自体は見る前から判っている。だったら音楽で説得するしかないじゃない。この映画はそれが出来ていない。これは歌とかギターの技術の問題じゃない。基本的に音楽が人生に占める意味が判ってない。

 例えばジョン・カーニーの超名作『はじまりのうた』では歌は素人の女優、キーラ・ナイトレイが歌ったり、ヘイリー・スタインヘルドちゃんがギターを弾いてました。どちらもド素人、演奏技術はボクとおんなじくらいです(笑)。

キーラ・ナイトレイの歌。上のレディ・ガガと比べると、音楽において技術と感動は必ずしも比例しないことが良くわかる。

BEGIN AGAIN - Keira Knightley "Lost Stars" (Lyric Video) - Estreno 1 Agosto

 でも、滅茶苦茶感動する。それはこの映画が音楽が人を救う瞬間を描いているからです。それが音楽の意味なんですよ。
 
 音楽で納得させる映画の例は他にもあります。少し前、2009年、ジェフ・ブリッジス主演の『クレイジー・ハート』。

アル中のカントリー歌手を主人公にした、この映画とそっくりな話です。同じように主演のジェフ・ブリッジスが主題歌『The Weary Kind』を弾き語りしています。この曲はアカデミー賞ゴールデン・グローブ賞で主題歌賞を総なめ、真面目に聞いているとそれだけで泣いてしまう、これ一発で映画の内容全てを納得させてしまう超名曲でした。それくらいなら映画としても説得力がある。
●映画ではジェフ・ブリッジスが弾いています。

Ryan Bingham - "The Weary Kind" (Theme from Crazy Heart) [Official Video]


 同じように音楽をテーマにした『アリー/スター誕生』にはそこまでの説得力、音楽に対する熱情はない。ダンスを入れてもいいし、テクノアレンジでもいいけど、アリーがレディ・ガガと重なりすぎているのが裏目に出ている。ボクはこの映画にも表現されている、レディ・ガガのLGBTQに対するシンパシーには共感する。でも、この程度のありきたりの音楽では人間は救われない。
●美男美女が楽し気に演奏しているところを見るのは楽しいんですけどね。
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 じゃあ、音楽映画なのに音楽が今いちな例はどうでしょう。例えば『ボヘミアン・ラプソディ』。クイーンは一流のポップスだとは思いますけど、基本的にはごく一部の曲を除いて、安っぽい商業主義で大仰で下品な音楽です。要するにファーストフードみたいな産業ロック。聞き流している分には良いけど、ボクはクイーンの音楽単体では全く感動できません。
 でも『ボヘミアン・ラプソディ』は脚本が面白い。クイーンが南アで公演して間接的に人種差別を支持したなど都合の悪いことをカットしたり、事実を大幅に改編して、感動できる話に仕立てている。そこを大画面と音響で盛り上げて、共鳴させている。その手腕は素晴らしい。一方 『アリー/スター誕生』は脚本もありきたり過ぎる。


 全然 悪い映画じゃないどころか、俳優の演技も良いし、完成度も高い、ブラッドリー・クーパー監督は大したものです。美男美女の美しいラブストーリー。後味も悪くありません。サントラもCDで買うほどではないにしろ、iTunesで買っちゃうかもしれないくらいの良さはあります。好き嫌いの問題もあるけど、これだけ感想を書けるだけの作品ではあります。
 上の悪口はボクの感じ方なんで、客観的に見れば取柄はある映画です。でも、いまいちだったなあー。感動はしなかった。ホント、ビヨンセ主演だったら良かったのに。

映画『アリー/ スター誕生』予告【HD】2018年12月21日(金)公開