特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

彼女がラップを始めたら:映画『ソニータ』

3連休は楽しかったです。11月は仕事(というか雑事)が忙しいので今からウンザリしてるのですが、その前の良い骨休みになりました。
でもテレビをつけると世界中の嫌われ者のバカ政治家二匹が出てくるので、ウルトラ気持ちが悪い。3連休の間 殆どテレビは消してましたから静かなもんです(笑)。



●知ってれば、ボクも渋谷に行ったのに。


今週 金曜日の官邸前抗議は土曜日に大規模抗議があるのでお休みです。今週 ボクは社外研修でホテルに缶詰めで、どちらもお休みです(怒)。いやだいやだ。

●テレビに紹介されて 土日は大行列ができている銀座の天丼『いつき』。シンガポールからの逆輸入だそうです。安いし、まずくはないし、茶碗蒸しもついて量はあるし、店員さんの笑顔も良い。でも天丼なのに天ぷらじゃなくてフリッターなんですよ。天ぷらとは別の種類の食べ物(笑)。ボクは保守主義なんです。これを本気にする若い人もいるんじゃないの。もっとまともなものが食べたいなー。



ということで、渋谷で映画『ソニータ

アフガニスタンに生まれた少女ソニータタリバンから逃れてイランに逃げている。支援団体の助けで教育を受けているソニータの夢はラッパーになること。ところがアフガンに残っている親は彼女を持参金目当てに60歳の男と強制的に結婚させようとイランへやってくる


2016年のサンダンス映画祭でワールドシネマ部門の監督賞&観客賞を受賞するなど非常に高い評価を受けたドキュメンタリーです。監督はイラン人女性のロクサレ・ガエム・マガミという人。


映画ではまず、ソニータの日常生活が描かれます。10代の少女らしい生活です。マイケル・ジャクソンとリアーナに憧れ、スターがステージで歌う写真に自分の顔を貼りつけたりしている。
ラッパーを夢見る彼女は自作を録音しようとしますけど、イランでは女性が歌うことは禁じられています。女性が歌を録音することは非合法なんです。そういうこと以外は我々と全く変わりません。
ラップはお金がなくても、楽器が弾けなくても詩を作ってトラックをパソコンで作れば完成できる。機材が乏しいイランでも出来るんですね。まさにピープルズ・ミュージック、ストリートの音楽としての本領発揮です。


アフガン難民ということでお金の苦労はあります。姉妹で住んでいる家を追い出されそうになったりするけれど、いかにも10代の少女らしい生活です。イランに難民の少女たちをサポートする団体、 仕組みがあるのも意外でした。

●支援センターでの彼女。他の難民の子と一緒に教育を受けています。


ところがアフガンに残っていた母親がソニータの元へ訪ねてきます。9000ドルの持参金を持ってくる60歳の見たこともないジジイと結婚しろ、と言うのです。その9000ドルを今度はソニータの兄の結婚持参金にする、というのです。
●強欲なクソババア


勿論 ソニータは拒否します。が、母親は頑として譲りません。『これがアフガンの古くからの風習』、『自分もそうやって結婚した』というのです。見ているボクもここいらで完全に腹が立ってきます(笑)。そんな風習があるならアフガンなんか潰れちまえ、という気になります。

頭に来たのはイランの支援機関の人も一緒です。イスラムの教えに篤いイランの女性でも、『金目当てに結婚するのは人身売買と一緒じゃないか』、と抗議します。母親は、密着取材している監督にもカネを払えば結婚を延期させても良い、とまで言います。金目当てに娘を結婚をさせる母親が居るんですね。
しかしこの母親がクソなのか、風習の問題なのかはボクには判りません。これで怒りが湧くのもこちら側の価値観ではあります。彼らにとっては違うのかもしれない。でも監督も、ソニータの周りのイラン人も、観客のボクも激怒、としか言いようがない。
ソニータを抱きしめる支援センターの先生


ここで映画はドキュメンタリーの枠を逸脱します。悩んだ末 監督は自費で2000ドルを出してソニータの結婚を半年延期させます。もう映画の問題ではないんです。
●左が監督、右が支援センターの先生。目の前で16歳の女の子が売られようとしています。

半年の猶予を得たソニータは自分の境遇を歌にして録音します。そしてボロボロの部屋の一室にカーテンを貼ってMVを撮影します。それがこれです↓


映画でこれを見たとき、衝撃でした。カッコいいという言葉は不謹慎ですが、涙がこぼれました。訳詩がなければ何を言ってるかわかりませんが、圧倒的な迫力です。カッコいいです。怒りの音楽。これをYouTubeに流すと反響が盛り上がり、それを見たアメリカの高校が彼女に奨学金を出し、アメリカで教育を受けることを提案します。


喜ぶソニータですが、アフガン難民の彼女が出国するにはパスポートが必要です。そのためには一度アフガンに戻らなければならない。また家族にも話をしなければならない。ソニータはまだまだ危険が残るアフガンへの旅に出ます。

アフガンの現状を映像で見たのは初めてです。たぶん西側の人は今も入れないでしょ。自分の生まれ故郷に帰る旅とは言え、非常な緊迫感がフィルムから伝わってきます。家は泥と土の?家ばかり。茶色の光景が続きます。経済封鎖で苦しかったとはいえ、町には自家用車が走り、高層ビルもあるイランと比べるとは雲泥の差です。ソニータパスポートをもらう役所は道端の露店みたいなところです。首都のホテルもすごい。ホテルの前には銃を持った警備員が並び、何重もの鉄の扉で守られている。その奥は通常の部屋と変わらないだけにまさに驚きの光景です。部屋の外では軍用ヘリが飛び回り、爆弾テロは今も度々起きている。すごいところです。


ソニータは家族を説得できませんでした。アメリカに行くことを言いだすことができない。家族は彼女を温かく迎えますが、『女性が歌を歌うなんてふしだら』(笑)、『金のためにじじいと結婚するのが当たり前』、と思っています。彼女は家族には黙ってアメリカへ旅立っていきます。
●弟たちと会うのは楽しいのですが、ここに居たら彼女は売られてしまいます。

アフガンからやってきたソニータアメリカの高校は温かく迎えます。校長は『彼女は才能がある人間で、当校は彼女の才能を伸ばすサポートが出来てうれしい』と皆の前で宣言します。


こういうところはアメリカは見事だし、アメリカの強さだと思うんです。才能がある人間を見つけたら、人種・性別・宗教に関係なく、皆で応援する。その才能を伸ばそうとする。と、同時に トランプの入国禁止措置が如何にふざけているか、アメリカの国が繁栄してきた歴史をないがしろにしているか、を実感します。
アメリカに着いたソニータは家族に自分がアメリカにいることを電話で伝えますが、怒った母親からは電話を切られてしまいます。映画はソニータがサンフランシスコのステージに上がるところで終わります。
●これはNYでのステージ


あんまり期待しないで見に行ったのですが、面白い!感動しました!前半 ソニータという女の子自体にはそれほど興味を持てなかったのですが、中盤から彼女の境遇に完全に感情移入してしましました。ボクには『金で娘を売るアフガンの風習』や『女性は歌うなというイスラムの考え方』は理解できません。でも良いとか悪いとかは簡単には言いきる自信もない。現地の人もそれに納得している人と不満に思っている人と両方いる。
だけど、この映画を見て、やはり人間は通じるところがあると思いました。少女のあどけない姿、それに自分の夢をかなえようとする、その点は宗教や風習に関係なく一緒です。まさに心が揺さぶられる、そんな1本だと思います。今年のベスト10には入る素晴らしい作品です

かのjy