特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『革新自治体』と映画『ムーンライト』

桜の花も土曜にさっと散ってしまい、文字通りの葉桜ですね。桜並木の下を歩くと桜餅の匂いがしました(笑)。葉桜も嫌いじゃないんです。瑞々しい生命力、気力みたいなものを感じます。自分に足りないから羨ましいのかな(笑)。
●土曜日の桜並木。今年はこれでもうオシマイ。


さて 北朝鮮アメリカは威嚇の応酬で文字通り チキンゲームみたいになってきました。食べ物もないくせにミサイルを撃ってる奴も頭おかしいですが、戦争で得する国はどこもないんだから、とにかく武力だけは勘弁してもらいたいもんです。この週末は来日中のイギリスの有名ミュージシャンが逃げ出すという騒ぎまで起きています。80年代に一世を風靡したエコバニ(エコー&バニーメン)のイアン・マカロック、ソールドアウトだった公演は中止だそうです。まあ、バカ丸出しではあるんですけど(笑)、

●この『The Cutter』は名曲だと思うんですけどね。今 聞くとすげえ下手(笑)。1984

●今を時めくアーケイド・ファイアがバックで演奏すれば、まあ、いいかなって。2015年。


バカと言えば、こんな時に芸能人集めて花見をやってる安倍晋三も勘弁してくれと思います。この夫婦が三宅洋平と同じくらいバカなのは最初から知ってますが、危機感なさ過ぎでしょ。

●まあ、リテラは『噂の真相』の残党がやってるそうで、ボクは一切信用してないです。煽りばっかりで気持ち悪い、下品。

どうなんでしょうか、金日成の誕生日?とかいう15日と言う山は一つ、超えたんでしょうが、次は北朝鮮の建軍記念日の25日がもうひとつの山なんでしょうか?頭おかしい連中が近くに居るのも全く困りものです。昔の大日本帝国教育勅語とか戦陣訓とか、まさにあんな感じだったんでしょうね。バカにもほどがあるだろとは思うんですが、庶民にはなかなか出来ることがありません。それでも『文明は幻滅によって滅ぶ(今読んでる『誰がアメリカンドリームを奪ったのか』より)そうですから、幻滅しているわけにもいきません。せめて感情に踊らされず、冷静でいなくては。


では、軽い読書の感想です。『革新自治

かっては日本の主だった地域、東京、大阪、京都、神奈川他に野党側の知事が就任していたことがありました。美濃部、黒田、蜷川、飛鳥田という当時の知事の名前は聞き覚えがある人も多いでしょう。この本は当時の革新自治体がどうして成立したか、また、どうして崩壊していったかを述べたものです。
かっては東京も神奈川も公害の被害が深刻でした。大気汚染による『光化学スモッグ』で、夏場はヒリヒリ眼が痛くなったのはボクもうっすらと記憶があります。高速道路からみる川崎なんか空が真っ暗でした。それらに対して当初 自民党政府は無関心でした。公害防止のための環境規制や福祉の充実などを旗印に60年代から70年代にかけて、大都市には野党が推す知事が誕生したんですね。この本によると当時の人口の4000万人以上が革新自治体で暮らしていたそうです。今から考えると信じられないですが(笑)。国がやらなかった環境保護や福祉政策を行ったという意味で革新自治体は大きな意味があったんですね。


じゃあ、それがどうして崩壊していったか。
一つは石油ショック以降の不景気で右肩上がりの経済が終わったこと。福祉や環境保護などの財源が問題になると同時に、市民の関心も景気対策に向けられていきます。
もう一つは当時の革新自治体を構成していた社会党の無能と共産党の傲慢社会党地方自治に関心がないばかりか、党内左右の対立を延々と続けていたそうです。党内改革で社会党の党代議員は政治家ではなく活動家が大勢を占めるようになったため、社会党は国民ではなく活動家のための党になっていき、市民の支持をどんどん失っていきました。確かに『権力は腐敗する』が『無権力もまた腐敗する』。学者出身の土井たか子氏を登用してマドンナ旋風などで盛り返すことはあったにしろ、本質的には社会党は60年代には既に存在価値を失っていたんですね。ボクも社会党社民党には何度も投票したけど、こんなクズ連中だとは思いませんでした。今や連中が風前の灯火になるのも当然です。共産党も自党優先の独善は当時も全く変わりません。当初は社会党と組んでいた公明党も愛想をつかして、今度は自民党にすり寄っていきます。それに加えて、首長に頼りっぱなしの国民横浜市長だった飛鳥田は市民との対話集会など直接民主主義を志向したそうですが、全く功を奏さなかったそうです。彼は『日本の市民は成熟していない』と述懐しています。この週末の富山県の市議選の結果(汚職だらけだった市議会は相変らず自民が過半数だった)を見ても、今も全く変わってないですよね。


当時から日本の野党は国民のニーズから遊離していて、自分たちの路線争いなどセコイ抗争ばかりやっていた。一方 自民党は野党の政策の良い部分は取り込んで、権力の維持・奪回に成功する。連中は権力と利益がモティベーションですから、ある意味 常に現実に即しているんですね。


読んでいて、今とあまり変わらないなーと言うのが感想です。今の民進党のざまを見てると呆れかえるばかりですけど、それは今に始まったことではなく、もしかしたら60年代以降、まともな野党は日本に存在しなかったのかもしれません。日本に民主主義が定着するのはまだまだ、先が長いってことなんでしょうか。やはり我々 一人一人がもう少し変わらないとダメなんでしょうね。



と、いうことで、六本木で映画『ムーンライト映画『ムーンライト』公式サイト

舞台はマイアミの貧困地域。シングルマザーの母親に育てられるゲイの黒人少年の成長物語を少年時代、ハイスクール時代、青年期の3部構成で描いたもの。

今年のアカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演男優賞を獲得した作品ゴールデングローブ賞でもドラマ部門の作品賞を受賞しています。監督・共同脚本は長編映画2作目というバリー・ジェンキンズ。原案となった戯曲があるそうですが、マイアミの犯罪地域を舞台にしたお話は、その地域で育った監督、脚本家の少年時代の体験が色濃く反映された作品だそうです。貧困と差別を訴える低予算の個人的な作品にお金を出したプロデューサーはブラッド・ピット。この人、やってることがかっこよすぎでしょう。


お話は三部構成で第1部は『リトル』。体が小さいだけでなく、ゲイであるがゆえに周りから苛められる少年が、キューバ系移民の麻薬の売人のフアン(マハーシャラ・アリ)と出会い、彼やその恋人テレサジャネール・モネイ)と知り合って成長していく姿を描きます。恥ずかしがり屋で人見知りな少年が、筋骨隆々とした麻薬の売人と知り合って、少しずつ心を開いていきます。家ではヤク中の母親に虐待されるし、友達もケヴィンという少年を除いてほとんどいない。彼の唯一の味方がフアンと彼の恋人テレサです。多くの時間を一緒に過ごすようになったフアンはまるで父親のように、彼に『自分の人生は他人に決めさせるな』ということを教えます。しかし、フアンは彼女の母親にも麻薬を売っていました。麻薬の売人役のフアンを演じたマハーシャラ・アリはアカデミー助演男優賞を取りました。それに値する、素晴らしい演技を見せてくれます。超カッコいい名演です。
●主人公はリトルと呼ばれています。ゲイで黒人で貧困でシングルマザーに育てられる彼にはどこにも居場所がありません。

●麻薬の売人役のマハーシャラ・アリ。超カッコいいです。

●この美しい肌の色。

         
         
第2部は『シャロン』。それは少年の本名です。高校に入学したシャロンは相変らずいじめられていますが、幼馴染のケヴィンとだけは仲良くなって、彼だけはシャロンを『ブラック』と呼びます。母親はクスリで身を持ち崩し、売春で生計を立てています。フアンは亡くなってしまいましたが、テレサが彼の面倒を見てくれています。シャロンはケヴィンと心を通わせるようになりますが、学校で手ひどい暴行を受けたシャロンは、とうとう怒りにまかせていじめっ子たちに反撃に出ます。それはケヴィンとの友情をも引き裂いてしまいます。
●高校に入ってもシャロンには居場所がありません。牢獄の中のような暮らしです。

●ある晩 海岸で幼馴染のケヴィンと出会います。

●高校生の主人公。第1部、第2部、第3部、主人公を全く違う俳優が演じています。共通点は『寂しそうな眼をしていること』


第3部は『ブラック』。成人したシャロンはマイアミからアトランタへ引っ越し、なんと麻薬の売人『ブラック』になっています。筋骨隆々で金の入れ歯をして、派手な車に乗る彼の姿はフアンがよみがえったようです。現在は麻薬矯正施設で暮らす母親のことも許すことができない、天涯孤独な男です。ある日 今もマイアミにいるケヴィンから電話を受けたシャロンは再び生まれ故郷へ出かけていきます。
●ダイナー勤めのケヴィン(左)と再会した主人公(右)。


●少年は筋骨隆々とした男に変貌を遂げました。しかし相変わらず、自分の居場所はどこにもない、と感じ続けています。


ロケの舞台となったマイアミの貧困地域の描写は凄まじいです。例えば主人公の少年がお湯が出ない風呂に入るシーンがあります。大なべで湯を沸かす彼が何をやっているのか最初はわかりませんでした。意味が分かった瞬間 愕然としました。他にも家というより廃墟みたいな家がいっぱい画面に出てきます。住んでいるのは見事に黒人ばかりで、白人どころかヒスパニックもアジア系もいない。その地域は監督や脚本家が育ったところで、今も監督の親せきが住んでいるから、安全に撮影ができたそうです。ちなみに少年と同じように監督も脚本家も母親は薬物中毒だったそうです。ラストベルトなどのアメリカの貧困地域の荒廃具合は第3世界と一緒、とはよく言われますが、実際に見ると我が目を疑うようなすさまじさです。
●この物語の中で唯一、ヤク中の母親だけはナオミ・ハリスが一貫して演じています。



そのような地域を舞台にした映画ですが、映像が超美しい。黒人の肌が青銅色に見えるように着色しているそうですけど、マイアミの海に濡れる彼らの肌の色の美しさと言ったら、絵画を見ているようです。貧困の中で麻薬まみれで暮らす彼らですが、その姿は非常に美しく、誇らしげに見えます


それは願望かもしれませんが、人間の本質はそういうものだと訴えているかのようです。そう、この映画は人間の誇りと愛情を語った、根源的なことを語っているんです。たまたま主人公は黒人で貧困で片親でゲイで麻薬の売人ですけど、彼もまた我々と同じ人間です。自分に誇りを持ちたいと思っているし、渇するように愛情を求めている。それを美しい映像とリアルな描写、チェロを多用した美しい音楽で語るから説得力があるんです。


人種差別や貧困を語った深刻な物語ですが、見ている側はみじめな気持にはなりません。現代のことを語る叙事詩ってこういう感じなのでしょうか。ボクは主人公に感情移入しまくりでした。それは彼がいじめられっ子だからでも、同性愛者だからでもない。それは、この映画が人間の本質ってこうじゃないか愛とはこういう物じゃないか、と思わせてくれる、美しくも切実な物語だから だと思います。
映画館を出た後 思わず背筋を伸ばしたくなります。たびたび引き合いに出してしつこいですけど(笑)、人間の成長を全く語らない『ラ・ラ・ランド』とは対照的、素晴らしさが一桁違います。『ムーンライト』は圧倒的な傑作です。