特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

新自由主義と格闘する物語:映画『ファイティング・ファミリー』

 めっきり寒くなりました。温暖化と言うけど、昔もこんなに寒かったのかなー。
 政治に無関心な国民ばかりとは言え、さすがに内閣支持率も下がり始めたようです。
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news.tbs.co.jp

 安倍晋三の度重なる国家の私物化と証拠隠蔽、これで支持率が下がらないようだったらどうかしてますよね。今の支持率だって高すぎる。

 以前にも書いたように、東京では1月12日に『#OccupyShinjuku0112』と称した安倍政権に反対するデモがあります。


 大阪、和歌山でも抗議が決まったそうです。




 
 もちろん、国会が終わっても問題は終わりじゃありません。アメリカ様べったりの安倍晋三やウヨ政治家が『自分の国は自分で守る』とか言ってますけど(笑)、『自分の社会は自分で守る』のは国民自身の責任だと思います。


 さて、この2年ほど、ボクはダイエットのため、ご飯やパンなどの糖分を減らしています。頑張ってBMI20、体脂肪率12%くらいにまで到達したので、それをキープしようと思っていたら、あまりご飯類は食べたくなくなった。我が家の夕飯はお米を0.5合炊いて、やっと2食分です。外食の時もチャーハンやピラフなどご飯ものは余程 特別な時を除いて滅多に口にしなくなりました。
 でも、こんな写真↓を見たら矢も楯もたまらず、つい食べに行ってしまいました。

 インドでお祝いなどで出される『ビリヤニ』というピラフをナンで包んだ『ダム・ビリヤニ』が品川駅のなかのカレー屋の期間限定メニューに載っていたんです。元々生スパイスと骨付きの肉をゴロゴロ入れたビリヤニは大好きです。それをナンで香りを閉じ込めたというのですから、我慢が出来ませんでした(笑)。
 判っていたことながら、食べてみたら香りは良かったけど味のほうは普通のマトンのビリヤニです(笑)。でも、もの珍しさへの欲求は満たされました。

 インド料理も西洋料理に比べればヘルシー、とは言うものの糖分と油分が多いため、インドでは心臓病が多いともいわれています。確かにインド映画を見ていると、スターじゃない一般の通行人などの役はデブが多い(笑)。だから、一時期より食べる頻度は減らしているんですが、やっぱりたまには食べたいなあー。
フィンランド大使館が6月にtweetしていた34歳の女性(1枚目右)が首相になりました(2枚目)。年齢や性別、貧富に関係なくチャンスが与えられる国と権力者自ら国家を私物化する国とでは将来 大きな差がついてくるでしょう。




 ということで、 日比谷で映画『ファイティング・ファミリー
fighting-family.com
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 イギリス東部の田舎町ノリッジ。寂れた街でローカルプロレス団体を運営するナイト一家のサラヤ(フローレンス・ビュー)は子供の時からリングに立たされ、兄たちと近所の子供たちにレスリングを教えながら、世界最高のプロレス団体WWEに出るという夢を抱いていた。兄のザック(ジャック・ロウデン)とサラヤはWWEに送ったビデオが認められ、オーディションに参加することになるが。

 全然期待しないで見た映画が『あたり』だというのはうれしいものです。
 世界最大のプロレス団体、かってはトランプも出演していたことでも有名なアメリカのWWEで活躍したイギリス出身のレスラー、『ペイジ』の一家を描いた実話、コメディです。
イギリスのTVで放映された彼女のドキュメンタリーを目にしたトップレスラー『ザ・ロック』、今はNO1のマネーメイキング・スターと言われるドウェイン・ジョンソンが制作、監督はスティーヴン・マーチャントと言う人。俳優としてXメンシリーズの『ローガン』などに出演しています。

 と言っても、ボクはとりたててプロレスも興味ないのでスルー予定でしたが、映画評論家の町山智浩氏が褒めていたので見に行ってみました。
●こっちのポスターの方がいいですね。内容をよく表している。

 舞台はイギリス東部の田舎町ノリッジ。先日公開された映画『イエスタデイ』
終盤へ向かう『いだてん』と映画『イエスタディ』 - 特別な1日
の舞台でもあった地域です。ノーフォーク湖沼地帯の中心として、かっては水運や漁業で盛んだった街ですが、産業の空洞化で今は見る影もありません。
 街は寂れ、家々はスラム化し、多くの若者は職もなく昼間からプラプラしている。そればかりか、子供たちの日常には麻薬の魔の手が忍び寄っています。
●ボクは子供の時に、ノリッジを舞台にしたこの児童文学を読みました。それとはまったく異なる荒廃ぶりには驚くばかり

オオバンクラブの無法者 (アーサー・ランサム全集 (5))

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 ノリッジの街でナイト一家は家業としてローカル・プロレス団体を営んでいます。父親も母親もレスラーで兄二人もレスラーとして育てられ、妹のサラヤも必然的にレスラーとして育てられました。子供たちのTVチャンネル争いもプロレスで決めるのですから、そうならざるを得ない(笑)。
●プロレスバカ一家。典型的な労働者階級の住宅です。

 父親は麻薬や暴行、盗みなどで度々服役していますが、レスリングに出会って立ち直った過去を持っています。プロレス団体と言っても1回の興行に100人も集まらないようなローカルプロレスですから、家計も経営も火の車。ですが、家族揃ってプロレスに熱中しています。そんな一家はコミュニティの中ではプロレス狂の家族として変人扱いされている、という側面もあります。
●親が教えてくれるのは『こうやって絞めるんだよ』みたいなことばかり(笑)。

 主人公と家族の背景を2,3分でスピーディかつコミカルに語るオープニングを見て、『この映画、良くできてるわー』と思いました。
更に良く見たら父親役は『ホット・ファズ』や『宇宙人ポール』などボク好みのコメディの主演のニック・フロストじゃないですか。一気にテンションが上がります。
ニック・フロスト、大好きです。『宇宙人ポール』は名作。

宇宙人ポール [Blu-ray]

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 サラヤはレスリングが大好きですが、元来 内気な性格。レスリングの技術も性格もしっかりしたお兄ちゃんのザックの後からついていくようなキャラクターです。ザックは自分がリングに上がる一方、放っておくと麻薬や盗みなど悪の道に引き込まれかねない街の低所得層の子供たちを集めてレスリング教室もやっているナイス・ガイです。ちなみにザックを演じるのは『ダンケルク』のパイロット役で女性ファンの人気を集めたジャック・ロウデン。見事な肉体と運動神経です。
●兄妹でリングに上がります。右がジャック・ロウデン

 ある日 二人の元に世界1のプロレス団体、アメリカのWWEから新人を選抜するオーディション(トライアウト)の呼び出しがかかります。WWEはレスラーなら誰でも舞台に立ってみたい夢の団体、二人はビデオを送って売り込んでいたのです。ロンドンで行われたオーディションに勢い込んで参加した兄と妹でしたが、合格したのは妹のサラヤだけでした。
●オーディションに出かけた兄妹は憧れのレスラー、ロック様(右)に遭遇します。ロック様は本作のプロデューサーも務めています。

 サラヤは兄と一緒の渡米を主張しますが当然認められず、単身渡米。TVドラマの主人公から取った『ペイジ』というリングネームをつけた彼女はマイアミでWWEの2軍に加わり、厳しいトレーニングの日々を過ごすことになります。しかし、脱落したらすぐクビ、という肉体の限界まで追いつめられる練習の厳しさに加えて、マイアミという異郷での孤独、それに華やかなWWEとイギリスの田舎町出身者とのカルチャーギャップにも苦しみます。

 一方 兄のザックは同時に恋人の妊娠が発覚、幼いころから夢描いていたWWEのスターになる夢が破れた彼は、絶望のあまり酒浸りの生活に陥ります。


 お話はコメディ形式で進んでいきますので、面白いです。ナイト一家の存在はとにかく面白い。
 暴行や麻薬などさんざんやってきただけあって、盗みくらいでは全く驚かないような柄の悪さの彼らですが、家族一同は非常に仲が良い。お互いがお互いをいとおしみ、認め合っている。これは考えさせられます。ローカルのプロレス興行ですから懐はいつも汲々としてますが、近所の子供たちが麻薬などの犯罪に引き込まれないようレスリング教室もやっている。柄が悪いが気のいい人たちです。

 柄は悪いし貧乏生活でも、あたたかな雰囲気で育ったサラヤはWWEの世界に驚愕します。
 筋骨隆々としたアスリートやモデルのような美女たちがスターとして君臨する華やかな世界ですが、裏では激烈な競争が行われています。レスリングには自信があったサラヤですが、WWEの2軍で行われる体力やレスリング技術の訓練についていくだけでも大変です。しかもダメだったら直ぐクビ。毎日のように脱落者が出てきます。

 さらにそれだけでなく自分を観客に『魅せる』ことが要求される。生のライブでは観客は嘘を見抜いてしまう、だからレスラーは自分がどういうキャラで、どう思っているのか、つまり本当の自分を見せることが要求されるのです。

 驚くべきことにWWEではレスリングだけでなくプロモーションの授業もあります。そこでは『お前は何者だ』、『お前はなんでレスリングをやっているのか』、『お前は何になりたいのか』ということが徹底的に追及される。その上で華がなければダメ。この自分自身に対する視線の厳しさは凄い。
 サラヤは今まで自分がぬるま湯の世界で育っていたことを思い知らされます。世界一の団体は厳しい。脱落寸前です。

 ちなみに約10年前 トランプもWWEに出演していました。実際にレスリングをやったわけではありませんが、観客への挑発やアピールはそこで叩き込まれたんでしょう。
WWEに出演していた当時のトランプ(映画とは関係ありません)

 目の前の何万人もの観客、そしてTVの前の何十万人もの客に即興でバカ受けするアピールをしなければならないのですから、政治家としての恰好のトレーニングでもあったはず。ちなみにWWEのオーナー夫人、リンダ・マクマホンはトランプ政権で中小企業庁長官に起用されました(笑)。
●『億万長者対決』という設定でトランプはWWEのオーナーのビンス・マクマホン(中央)と対決、試合後マクマホンの髪の毛を剃りました。WWEはオーナー自ら身体を張っているわけです。

 一方 兄のザック。スターになる夢が断たれ、絶望して酒浸りになります。かって彼の兄もオーディションに落選、酒浸りになって酒場でケンカを起こし、相手に重傷を負わせたことで刑務所の中にいます。ザックも同じ道を歩みかねない。
 折しもクリスマス。久しぶりに帰郷したサラヤはザックにWWEを諦めることを伝えます。サラヤは?ザックは?家族はどうなってしまうのでしょうか。


 この作品はケン・ローチの作品や『ブラス!』、『フル・モンティ』などイギリスの労働者階級の物語の系譜を良い意味で継承しています。
 かって栄華を誇ったイギリスと言う国の没落、それと同時に政治家が進める民営化や緊縮財政などの新自由主義政策に搾取され、多くの地方の労働者たちはギリギリの生活に追い込まれています。

 そんな環境下で犯罪や麻薬に陥って人生を失ってしまう人も多い中、この映画の登場人物たちはユーモアと助け合い、そして反骨精神を忘れない。現実にはこういう人たちも多いのではないですか
 ザックのレスリング教室で盲目の子供がコーナーから技を決めるところで、号泣しちゃいました。貧しく盲目で仲間外れにされていた彼を、ザックが無理やりレスリング教室につれてきています。その彼をリングの周りの子供たちも懸命にアシストする。

 この映画は華やかなWWEとも、イギリスの労働者を取り巻くなんでも自己責任、弱肉強食の新自由主義政策とも対極の世界を描いています。ザックやペイジ、それに子供たちがリングで戦っている相手は実は世の中の大勢・体制です。お金も才能もない彼らですが、彼らなりのやり方で当たり前のように自己責任だけの世界を乗り越えて見せる。ちなみに、その盲目の子はのちにローカルプロレスでレスラーになりました。


 ということで、WWEの世界というより、一人の内気な少女が心を開いて自分を見つけ出す話としても、現代の労働者階級の物語としても見ごたえがありました。プロレスというより、田舎の風変わりな家族が新自由主義と闘う物語です。ボク自身プロレスはあまり知らないですが、プロレスに興味がなくても十分面白い。これは当たりの映画。面白かったです。
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