特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

終盤へ向かう『いだてん』と映画『イエスタディ』

 24日に文科大臣の萩生田がBSフジの番組で、大学入試改革での民間英語試験の導入をめぐり、年2回まで受験可能とすることについて「裕福な家庭の子が回数を受けてウオーミングアップ(準備)できるようなことはあるかもしれないが、そこは自分の身の丈に合わせて勝負してほしい」と発言したことが、波紋を呼んでいます。
www3.nhk.or.jp


 ある意味 非常に正直な発言です。だって連中は格差を固定しようと思ってるんですもん(笑)。生まれた家の財産やコネで社会的地位が決まる世の中であれば、2世3世議員ばかりの自分たちはそれで安泰になるんだから。

 もともと、ベネッセなどの民間英語試験を大学入試に導入することは準備不足などで多くの抗議の声が挙がっており、全国高校校長会も反対しているほどです。
●現役の学生さんが呼びかけた、10月4日夜に文科省前で行われた民間英語試験導入に対する抗議はボクも行ってきました(笑)。

www.change.org


 人材しか資源がない日本で、貧富の差や住んでいる地域、性別で格差を固定して優秀な人材が世に出る道を狭めることはまさに自殺行為です。でもネトウヨとか日本会議の連中、それに安倍晋三はそれを目指してるんだもん(笑)。以前行われた教育資金贈与の無税枠拡大なんか、それの最たるものでしょう。連中は日本のことなんか考えてない。税金に寄生して自分たちのお仲間だけが栄えればいいと思ってる。

 それなのに、国民のほうも自己責任とか言って社会的格差を放置するようなアホばかりだったら国は滅んでいく、そんなの当たり前です。


 昨日 NHKドラマ『いだてん』が最終章に入りました。このドラマの視聴率がいまいち振るわない理由がわかりました。今の日本人には質が高すぎるからだと思います(笑)。

 上のシーンだけでも(これだけじゃないけど)最近1年でTVで流れたドラマで白眉だと思いますが、歴史を知らないバカには全然わからない(笑)。ドラマの舞台となった60年代だけじゃなく、今にだって当てはまる話です。

 新婚の太賀くんが学徒動員に駆り出された前回までの満州(素晴らしい演技でした)と言い、NHKの良心どころか、『いだてん』は殆どドラマの金字塔(笑)じゃないですか。

 肝心の主人公(金栗四三)に驚くほど魅力がない、大河ドラマというフォーマット自体がタルい、などの問題はあるにしても、『いだてん』はまともな人たちの間では延々と語り継がれる伝説のドラマになると思います。


 ということで、日比谷で映画『エスタデイ

yesterdaymovie.jp

 イギリスの海辺の田舎町で暮らすジャック(ヒメーシュ・パテル)はシンガーソングライターとしてスターになることを目指していた。幼馴染で親友のエリー(リリー・ジェームズ)がマネージャーとして支えてくれているが、一向に芽が出ない。ある日 世界的な停電に見舞われ、真っ暗になった街でジャックは交通事故にあってしまう。昏睡状態から目覚めて病院から退院したジャックが、ギターを手に『イエスタデイ』をつま弾くと、周りの人間は良い曲だと驚く。世界はビートルズがなかったことになっているのだった。

 ボクはビートルズって、あまり興味ないんです。もちろん大好きな曲はいっぱいあるけど、偉大過ぎて思い入れを持てない、といったところでしょうか。CDも持ってないし。だから、この映画、見る前はあまり乗り気ではありませんでした。

 監督は『トレイン・スポッティング』やロンドン五輪の開会式を制作したダニー・ボイルだから悪くはないだろうとは思いましたが、脚本の名手、リチャード・カーティスラブ・アクチュアリー、アバウト・タイムなど)がクレジットに入ってなければ、見に行かなかったと思う。


 舞台はイギリス東部、サフォーク州。海沿いの地域です。クレジットにはイプスウィッチなどの地名が出ていました。かっては水運や観光で栄えていたけれど、今は仕事も少なく、すっかり鄙びた地域になっています。
●ジャック(ヒメーシュ・パテル)とエリ―(リリー・ジェームズ)は幼馴染です。海沿いの田舎町で育ちました。

 主人公のジャックはかっては教師でしたが、今はスーパーでバイトをしながらシンガーソングライターとして活動しています。彼の才能にほれ込んだ幼馴染のエリーがマネージャーとしてサポートしてくれますが、一向に芽がでない。同じく地元で学校教師をしているエリーはいつもジャックを励ましてくれますが、本人は夢を諦めるべきか、迷い始めています。

 舞台はイギリスの田舎町(ブレクジットに賛成する人が多そうな、かっては栄えていたけれど今は産業も職もない)で、主人公は『地元育ちの』インド系、っていう設定が良いです。


 ある日 世界的な停電が発生し、ジャックは交通事故に巻き込まれます。重傷で昏睡状態に陥ったジャックでしたが何とか一命をとりとめました。退院祝いにエリーからギターをもらい、ふと『イエスタデイ』をつま弾くと、周囲からびっくりされます。なんと良い曲なんだ、と(笑)。ジャックもびっくりします。いつの間にか世の中からビートルズがなかったことになってしまっているのか、と。

 ジャックはうろ覚えだったビートルズの歌曲を演奏するようになります。すると、バカ受け。ジャックは天才シンガーソングライターとして一躍 脚光を浴びるようになります。
 エド・シーランのサポートを受けてメジャー・デビューしたジャックはスターダムの道を突き進む。しかし、地元にこだわるエリーとの距離はだんだん広がっていきます。
エド・シーランの悪徳マネージャーが文字通り悪徳で笑えます。

 本当にジャックはこれでよいのでしょうか。

 この映画の良いところはまずヒメーシュ・パテルがちゃんと演奏しているところです。弾き語りだったり、今風だったり、パンク風だったり、単なる物まねではない。演奏が上手いというわけでもなく、下手というわけでもなく、丁度売れないシンガーソングライターが演奏しているようなレベルになっている。オリジナル曲(笑)の具合もそう。
 この塩梅って映画を作っている側が本当に音楽が好きでないとわからない。
エド・シーラン(右)は本人役を本気で演技しています。元来、コールドプレイのクリス・マーティンの役だったそうですが、家庭の事情で断念したそうです。ボクはクリス・マーティンの方が良かったけど、エド・シーランのほうが親しみが湧くかも。

 それでいて、演奏はちゃんと生きた音楽になっている。ジャックとエリーたちが線路際のスタジオ(笑)で手作りで録音する時の楽しそうな顔と言ったら!その瞬間をカメラに収めた監督の手腕には脱帽です。

しかも演じるのはビートルズの名曲ばかり。そりゃあ、いいに決まってます(笑)。

 あと、リリー・ジェームズのむちむちの田舎娘ぶりがかわいい!美人というわけではないんだけど、可愛い!如何にもイギリスの田舎町に居そうなあか抜けない感じがすっごく魅力的でした。『ベイビー・ドライバー』のあの娘がこんなに化けるとは。


 ビートルズがない世界にはオアシス(もろに影響を受けた90年代のバンド)もなかったり、ほかにもコカ・コーラハリーポッターが存在しなかったり、ディティールも面白い。
 ジャックがアルバムの名称を『ホワイトアルバム』にすることを提案したら、人種差別と思われるからダメ、など昔との変化も面白い。ジャックやエリーたち、素朴な田舎の人たちと音楽業界の金の亡者たちとの落差も対照的です。イギリスの鄙びた田舎にインド系の一家が根付いているところも現代ぽい。


 ビートルズの曲を演奏しているだけなのに、天才ソングライターともてはやされるジャックは自責の念に駆られます。自分が作った曲ではないし、曲を作ったジョンやポールの心象風景を理解しているわけでもない。エリーとも別れてしまい、道に迷うジャック。そんな彼にある出会いが訪れます。でもネタバレになっちゃうので書けません(笑)。

 ダニー・ボイル監督はそのシーンについてこう言っています。
 恐怖や暴力は、絶対的な美しさと驚異の瞬間によって克服できる。僕たちは、ちょっとの間、そんな勝利は可能だって信じることができる
 ボクもその通りだと信じています。この映画はそれを体現しています。あの人はやっぱり、ああやって生きていたんだな、と。誰もいない冬の海辺が良く似合う、このシーンだけでもこの映画は見る価値があります。


 地方を襲う不況、広がる格差、現代の世相を背景にしながら、音楽の楽しさとビートルズへの愛に溢れたこの映画、すごくおもしろかったです。ダニー・ボイルのおしゃれな演出もよいですが、さすが名脚本家のリチャード・カーティス! わかってるなー。
 期待をはるかに超える面白さでした!

映画『イエスタデイ』予告