特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『ボクらが立っている場所』(トマ・ピケティ氏のデータベース)と、映画『サード・パーソン』

休み明けにはいつも思うことだけど、休みは過ぎるのが早いです(泣)。仕事があるときだと冬場は起床しても空がまだ暗いこともあります。そういう時って、つくづく虚しさを感じます。朝7時頃には既に一仕事を終えている農家の人の事を考えたら、甘えたことを言ってるんじゃないと怒られそうだけど、やっぱり虚しい。それに寒い(笑)。早く老後資金を貯めて隠居生活に入りたいなあ(泣)。
                                                                  
                                                
今日 沖縄の翁長知事がカジノ誘致を止めるという記事が流れてました。原発補助金など目先のカネにつられる自治体が多い中、非常に立派です。お金は確かに必要だけど、他所から企業を誘致してカネを稼ぐなんてやり方が長続きするはずがありません。まして、カジノなんて(笑)。http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150104-OYT1T50109.html 
地域の活性化も原発をなくすことも、結局は自分の足で立つ気力があるかどうか、そこにかかっていることが今後ますますはっきりしてくると思います。あ、勿論自分も含めて、です(泣)。                               
                                                                              
                      
                                                               
さて、お正月に読んだロバート・ライシュ先生の『格差と民主主義』の収穫の一つは、巻末の訳者の解説の中でトマ・ピケティ氏のデータがウェブで公開されているのを知ったことでした。トマ・ピケティ氏とはご存知の通り、欧米で『21世紀の資本』が大ベストセラーになったフランスの経済学者で、正月の朝日新聞でもこの人の長編インタビューが載っていました。『21世紀の資本』は12月に日本版も出たけど、定価が6000円近い、異様に分厚い本なので、ボクはまだ読んでないです。これから半年くらいかけて頑張ります(笑)。

21世紀の資本

21世紀の資本

ピケティ氏の本の特徴は税務による公の長期的なデータを基に実証的に議論が進められていることですが、そのデータベースが英語で無料公開されています。題して『The World Top Income Database』(世界の上流階級の収入データベース) http://topincomes.parisschoolofeconomics.eu/
要するにピケティ氏は『悔しかったら、反論してみろ』(笑)ってことだろうけど、これが実に面白いです。100年以上の期間、モーリシャスから日本、フランス、アメリカまで世界約30か国を網羅した莫大なデータベースで、とても全部を見きれたわけではないけれど、お正月はこればっかり見ていました。要するにボクらが立っている場所はどういうところなのか、ということを考えていたんです。

まず長期データから。
●日米の収入上位1%が社会全体の収入のどれくらいを占めているかの比較(1886〜2012年) (青がアメリカ、赤が日本)

ここから見て判るのはまず、日米ともに第2次大戦前の富の不平等具合は酷かったということ。戦前は日本もアメリカも社会の上位1%が社会全体の収入の20%を占めています!どこかのバカみたいに『その頃の日本を取り戻す』なんて、頭がおかしいとしか思えないよ!(笑)
次に判ることはアメリカ(青線)は酷いってこと(笑)。レーガン政権が成立した80年代以降に上位1%に急速に社会の富が集中していく度合には驚くばかりです。アメリカは今や戦前並みで、上位1%が社会全体の収入の約20%を持っている。それに比べて日本(赤線)は90年代以降、富はゆっくりと上位に集中しているが、日本は上位1%の収入が全体の約10%とアメリカよりは遥かにマシです。
ただ、このことだけならボクも含めて多くの人が想像していた通りかもしれません。ちなみにアメリカの上位1%の平均収入は1,021,760ドル/年(当時が1ドル90円として約9,200万円/年!)(2012年)、日本の上位1%の平均収入は2,145万円/年(2010年)。

                                         
次に色んな国を比べてみます。
●各国の上位1%が社会の収入全体のどれくらい占めているかの比較(1940〜2012年)(紫がアメリカ、黄緑が韓国、青が日本、赤がフランス、黄色がスウェーデン

これを見て判るのは、やっぱりアメリカは酷い(笑)、韓国も97年に通貨危機IMFが介入して以来、急速に格差社会になった(ショック・ドクトリンだ!)、それと比べたら日本とフランスは同じくらいでまだマシ、スウェーデンは富の集中度合は比較的少ない平等社会(さすが!)だってことです。
だが、ところがぎっちょん!日本だって問題があります。
●日米の上位10%が社会全体の収入のどれくらいを占めているか(1940〜2012年)(青がアメリカ、赤が日本)

上位10%で見ると90年代以降、日本も社会の富の偏在化が急速に進んでいることが判ります。最初の上位1%のグラフとは上昇具合がだいぶ違うんです。要するに日本は、アメリカのように上位1%に富が極端に集中しているわけではないけれど、90年代以降 急速に社会の上位10%に富が集中する格差社会になりつつある、ということです。ちなみに日本の上位10%の平均収入は913万円/年(2010年)、アメリカは254,449ドル/年(2012年当時が1ドル90円として約2300万円)
                                            
外国人にこういうデータを示してもらわなければ判らないというのは情けないけど(元データは日本人の研究者が協力)、判ったのは今の日本はかなり酷い格差社会になっている、ということがわかります(下グラフ参照)。
●各国の上位10%が社会全体の収入のどれくらいを占めているか(紫はアメリカ、黄緑は韓国、青は日本、赤はフランス、黄色はスウェーデン
 

じゃあ、日本の上位10%はボッタクってるのだろうか?という疑問が湧いてきます。共産党なんか、そう言いそうだよな(笑)。だが、そんなに甘くないです。下のグラフを見ると日本の上位1%も上位10%も年間平均収入はこの20年間ほぼ横ばいです。それどころか2010年には上位1%の平均年収は90年のピーク時の2,338万円から約200万低下して2,145万/年(8%減)、上位10%の平均収入はピーク時の91年の985万から約70万円低下して913万円/年になっています(7%減)。上位1%、正確には上位0.01%の層の収入が増えまくっているアメリカと日本は大きく違う。日本の金持ちはアメリカに比べればまだ慎ましい(笑)と言えます。
●日本の上位1%(青線)、上位10%(赤線)の年間平均収入の推移(1990〜2010年)(単位=千円)

一方 それ以下の人たちはどうでしょうか。下のグラフを見ると上位10%以外の人、残り90%の層の収入は大幅に低下しています。92年のピーク時の平均年収225万円が2010年には149万円と、86万円/年も減少しています(34%減)、要するに年収が3分の2になっています。この数字は世帯でなく個人ベースだから、ではあるけれど、ちょっと驚くような数字です。
●日本のボトム90%の年間平均収入の推移(1990〜2010年)(単位=千円)

これは非正規社員の増加などで給料が減っているだけでなく、高齢化の進展で年金生活者が増えていることも影響しているし、不動産など資産は勘案されていないのは気をつけなくてはいけませんが、この20年で日本の90%の人の年収が3分の2に減っている ことに違いはありません。そりゃあ、景気が悪くなるわけだよ(笑)。ちなみにピケティのデータベースで色んな国を見てみたけれど、この20年間、90%の層の年収が30%以上も減っている国は先進国では日本だけ*ちなみに、他所の国はアメリカを除いて大抵の国は90%の層の年収は減っておらず上位が伸びているだけでした。アメリカだけは90%の層の年収がピーク時に比べて15%減、上位1%の層の年収は80%増!

判ったことをまとめてみると、『この20年間 日本はヨーロッパ以上に格差が拡大しており、社会の上位10%に富が集中しつつあること』、それに『日本の格差拡大の原因は残り90%の層の収入が急低下していること』です。
                                                     
こうやって考えてみると、大企業や富者を優遇してトリクルダウンを狙うアベノミクスがいかに的外れなのかが、とても良くわかります。上位10%以外の残り90%の層をどうするか、そのことが日本が直面している問題なんです。日本人が呑気なのかバカなのかは知らないが、日本では富の再分配を求める声はあまり聞かないし、90%の層でも多くの人は自民に投票したんでしょう(笑)。だが実態はこう、です。自分たちが今 立っている場所を確認する作業は、ある意味 お正月にふさわしかい作業でした(笑)。
*ピケティ氏のデータベースは操作も簡単だし良くできているので、お薦めです。
http://topincomes.parisschoolofeconomics.eu/






さて、半年前の映画だけどDVDが発売されたので感想を挙げておきます。
渋谷で映画『サードパーソン
『クラッシュ』や『ミリオンダラー・ベイビー』などアカデミー脚本賞を何度も受賞している監督として名高いポール・ハギスの最新作。『クラッシュ』は何人もの登場人物のエピソードが折り重なるように連なって、最後は一つの大きな物語になる、という名作でした。今回も豪華スターが何人も出演する群像劇ということで否応にも期待が高まりました。

サード・パーソン [Blu-ray]

サード・パーソン [Blu-ray]

パリのホテルではアメリカ人作家(リーアム・ニーソン)が執筆中の小説の筆が進まずに悩んでいる。その彼のもとに愛人(オリヴィア・ワイルド)が訪ねてくる。ローマではアメリカ人ビジネスマン(エイドリアン・ブロディ)がふとしたことからロマ族の女性と知り合いになる。誘拐された子供を取り戻したいという彼女に、男は助力を申し出る。NYでは離婚した元女優(ミラ・クニス)がホテルで客室清掃係として職を得る。元夫(ジェームズ・フランコ)に取られた子供の面会権だけでも得るために裁判を始めようとしている。パリ、ローマ、NYを巡る物語。

豪華スターの競演だが、人物描写が深いなあ〜というのが第1印象。特に2転3転しながら進んでいくロマ族の女性のお話は人物の掘り下げ方が普通の映画より1ケタ違うくらいの印象を受けます。あと、パリの小説家のお話。愛人役のオリヴィア・ワイルドの、身のこなし、洋服の着こなしは恰好よかったです。いや、世の中にはきれいな人がいるんだなあ、と改めて感心しました(笑)。この人とバカ小説家との駆け引きが軽やかでお洒落に始まり、だんだんとドロドロになっていく様にもう圧倒されました。
●バカ小説家(リーアム・ニーソン)と愛人(オリヴィア・ワイルド)。体全体のシルエットが綺麗な人っているもんだなと思いました。

●巻き込まれキャラのエイドリアン・ブロディ

                             
あとミラ・クニスジェームズ・フランコの子供の養育権をめぐる話は、どこまでいってもついてない女をミラ・クニスが熱演。ジタバタすればするほど、ドツボにはまっていく女に対して、ジェームズ・フランコのクールなあり様が余計に対照的です。

●シリアス演技で自分勝手さを爆発させる?(笑)ミラ・クニス

                        
ミラ・クニスの元夫を演じる男前のジェームズ・フランコ金正恩をぶち殺す、例の『ザ・インタビュー』にも出演(笑)。

ただ、次第に3つの物語が絡まる肝心のプロットが終盤にかけて破たんしてしまいます。NYにいた女性のエピソードがいつの間にかパリの話になっちゃうんだもん。監督は幻想的にしたかったのか、普遍性を打ち出したかったのかもしれないが、こっちはポール・ハギス監督の緻密に組み上げられたシナリオを楽しみに見に行ってるんだから、そこは興ざめです。そんなはずはない、と思いながら見ていたんだけど、ボクの見方が浅かったんでしょうか?

●バカな男の役をやっても、男前のリーアム・ニーソンだから鑑賞に耐える(笑)。


それ以外は音楽は流れる音も使われ方も異様に格好いいし、豪華俳優陣は頑張っているし、脚色も凄くよかったです。一流脚本家が作った映画だけど脚本は訳がわからない、だけど映画としては面白い、という変な作品でした(笑)。