特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ロバート・ライシュ先生の新刊『格差と民主主義』と2014年音楽ベスト5

明けましておめでとうございます。いつも勝手なことばかり書いているこのブログを読んでくださる方、ありがとうございます。今年もよろしくお願い致します。
                                                            
             
                       
2015年の始まりは寒い正月だった。1日には東京でも雪が降ったし、いつもにも増して外に出るのが辛い三が日だった、殆ど出ないけど(笑)。それでも冬の訪れが早かったぶんだけ、今年はきっと春の訪れは早い、と思う。今はそれが希望だな(笑)。
                                
お正月はまず、出たばかりの尊敬するロバート・ライシュ先生(クリントン政権の元労働長官、カリフォルニア大バークレー校教授)の新刊『格差と民主主義』を読んだ。

ロバート・ライシュ 格差と民主主義

ロバート・ライシュ 格差と民主主義

内容は、今のアメリカ社会がいかに平均的な勤労層に不利で金満政治家や大企業に有利なゲームになっているかそして19世紀に広まった『社会ダーウィン主義』(無制限の競争と適応できないものの排除が経済を進展させるとする思想)が広まりつつあること、そのために一人一人が何を出来るかを述べたもの。原著はオバマ再選前に出版されたということで大統領選を意識したものになっており、そういう意味では現状とマッチしていないところやピンとこないところもあった。だが、基本的なことは日本の現状にとっても当てはまる。
                             
具体的にはライシュ先生はこんなことを指摘している。
ティーパーティや右派政治家などが言っているように大きな政府』が問題なのではなく、『誰のための政府なのか』が重要である。
・今 問題なのは雇用の回復のスピードが遅いことではなく、賃金が下落を続けていることである。その原因はグローバル化や技術の進歩ではなく、政治である(ドイツなどはグローバル化や技術の進歩があっても富の寡占は進んでいない)。
・米国は賃金の安さを売りにして競争することはできないし、そうすべきではない。労働者の生活水準を低下させる結果にしかならないからだ。 国民が企業を引き付けるのに充分な生産性と賢さを備えて、良質な雇用が国内に生まれるだろう。だが現状は公立学校の質が低下し、教育費が高騰し、医療コストが上昇し、その反対の方向へ行きつつある。
*円安を志向するアベノミクスは賃金を実質的に下げて企業の競争力を強くしようとしている。その結果はどうなるか、ってことだ。
国民所得が不均衡に富裕層に流れると中間層の購買力が減少し、それにより企業は国内向け生産能力を減少させる。その結果 国内の雇用も失われていく。
*これもまさに日本で起きている現象
法人税を下げる必要はない(*アメリカの法人税は高いと言われる日本と同じくらい)。企業は国民の消費支出が増えないから、国内へ投資しないのだ。法人税減税は教育など公共サービスへの政府支出減少を招き、より一層の購買力減少をもたらす
*ホント、安倍晋三はアホだ。
・やるべきことは富裕層と金融取引への課税企業助成と軍事費を削減その資金で教育や公共インフラ、医療などへ投資することで、皆が繁栄を共有できるようにすることだ。
投票日の翌日こそ本当の始まりである。議員や企業に対して根気よく声を挙げて、圧力をかけ続けなければ民主主義は実現できない。

                                                                                                 
この本の原題は『Beyond Outrage』(怒りを乗り越えて)。ライシュ教授はウォール街占拠のように単に怒りをぶつけるだけでなく、市民が積極的な市民権の行使を継続的に行わなければならないことを力説している。継続的な市民権の行使とは異なる意見の人間とも冷静に話し合いを続ける、ということだ。ちなみにこの人の『投票日の翌日こそ本当の始まり』という指摘は先日の選挙の翌日の朝日社説でも引用されていた。
                                                
日本では未だにトリクルダウンを唱えている政治家もいる。アメリカの例を見れば、いや日本の現状をきちんと捉えれば答えは明らかだ。富を再分配して国民の中間層の購買力を増やしていかない限り、経済も回復しないし、良質な雇用も増えない。政府の税収は減り、効果の薄い公共投資への無駄遣いで、財政赤字はどんどん増えていく。
累進課税の強化どころか、金融取引への課税まで主張するライシュ先生は元閣僚とは思えないくらい(笑)、ラディカルだ。ただラディカルなことを言っていても日本共産党堤未果のようにウソや誇張はない。そこが大きく違う。この本で挙げられている数字は政府の公式発表に基づいているそうだ。
共産党にしろ、緑の党にしろ、もちろん民主党にしろ、政治家やどこかのリーダーが国民を救ってくれるなんてことはない。完璧な政治家なんてないのだから、どこかの誰かに政治を任せきりになった時点で民主主義は終わりになってしまう。だが、誰だって政治なんて面倒くさい。ボクだっていやだ。その点をどうやってクリアしていくのか、ライシュ先生もそこには触れていない。その点はまだまだ工夫したり(投票率を上げる仕組みとか)、議論をしていかなければならないんだろう。


さて、年初は前年の音楽ベスト5から。このブログ、最初は音楽か食べ物をテーマにしようか、と思っていた。確か1回目のエントリーは蛭子能収先生が作詞したムーンライダーズの『だるい人』(突然、顔がだるくな〜る)だった。だけど音楽は極端にマニアックな路線に行きそうだし、食べに行った事ばかり書いているのは完全にマヌケなので止めた。でも音楽の事は書いておきたいのだ。
                         
5位:映画『日々ロック』の劇中歌(二階堂ふみ蛭子能収
入江悠監督の映画は音楽に関しては大したもんで、音楽のノリやメッセージだけでなく、登場人物がなぜ音楽をしなければならないかという初期衝動まできちんと描いていて、いつも感心する。ボクはこの人のサイタマノラッパーシリーズを見て、今まで興味なかったヒップホップを聞くようになってしまったくらいだ。今回はボクの嫌いなタイプの頭の悪いロックバンドがテーマと言うことで、そっちは好きになれなかったが、劇中で二階堂ふみちゃんが扮したアイドルの曲が滅茶苦茶に恰好良かったのと蛭子能収先生のバンドデビュー曲『百姓勃起』は人を舐めきったところが最高だった。
●これでアルバム出して欲しいなあ。

●もちろん蛭子先生に楽器が弾けたり、歌が歌える筈がない(笑)。ステージでつまらなそうに(笑)犬を抱っこしつづける、彼の佇まいを尊敬する。

4位:ベン・ワット@渋谷(11/28)
2014年もっとも聞いた回数が多いCDはこの人の『ヘンドラ』だった。80年代のニューアコースティックブームの旗手だったこの人が、妹の死をきっかけに30年ぶりに出したソロ・アルバムだ。それが、まさかの日本公演。CDでは哀切な感情を繊細に奏でていたが、ライブでは躍動感がある、逞しい演奏だったのはちょっと驚いた。

ヘンドラ

ヘンドラ

3位:音楽DVD3題:Perfumeの『World Tour 2nd』 、『ブルース・スプリングスティーン・トリビュート』、ピーター・ゲイブリエルの『Back To Front Live in London』
Perfumeの『World Tour 2nd』はその名の通り2回目のワールドツアー、2013年のロンドン公演を記録したもの。2000人くらいの会場でシンプルなセットだけど、アッパーな曲ばかりで『勝負してやる』という感じがビンビンだった。だが日本語での客イジリ(日本語が判る客を見つけて、通訳をさせていた)や、あ〜ちゃんがステージで泣いているところ(笑)など、やってることは基本的に日本と同じで、それが受けているところはびっくりした。昔は外人のコンサートで英語コメントを聞くたびに、僻み交じりに(笑)『日本語覚えて来いよ』と思ったもんだが、このDVDで男女比半々くらいの外人客がPerfumeの曲を日本語で歌っているのを見ると文字通り『時代が変わったと思った。特に終盤の『Dream Fighter』で英訳をスクリーンに映して、外人とのコミュニケーションを本気で希求するPerfumeの意志と外人がその曲に日本語で絶叫している(笑)のには本気で感動した。3人娘が日本と同じように思い切り頭を下げ続ける最後の挨拶で、外人の女の子も泣いてやんの(笑)。

ブルース・スプリングスティーン・トリビュート』はグラミー賞を運営している音楽家組合が年金基金の資金集めのために主催したコンサート。スティングやエルトン・ジョン、エミル―・ハリス(SPYBOY)などのベテランから、若手までが集まって、スプリングスティーンの曲を演奏している。どのミュージシャンも本人の目の前で本人より良く演奏してやろうという気持ちが伝わってきて、凄いコンサートだった。特に先日男性との同性婚をしたばかりのエルトン・ジョンの、エイズ患者をテーマにした映画の主題歌『ストリーツ オブ フィラデルフィア』の演奏や、社会派の白人シンガーソングライター、ジャクソン・ブラウンと黒人のトム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)の、2000年に無実の黒人少年がNY市警に拳銃を41発も撃ち込まれて殺された事件(昨年も似たようなことがあったばかりだ)をテーマにした『アメリカン・スキン(41ショット)』の演奏の気合は凄まじかった。演奏している方も聞いているスプリングスティーンも泣きそうになっていたが、観ているこっちも泣きそうだった。

ピーター・ゲイブリエルの『Back To Front』はアフリカ音楽と西洋のポップ音楽を融合させて大ヒットした80年代のアルバム『SO』をステージで再演したもの。見る前は正直、懐メロかなと思ってたが、ところがどっこい、もの凄い演奏だった。演奏者は皆60歳を超えてると思うが、若い頃より過激な演奏をしている。特にセネガル出身の超人ドラマー、マヌ・カチェのベスト演奏なんじゃないか。手が8本くらいあるんじゃないか(笑)という手数の多さだけでなく、上半身と下半身が全く別のリズムを奏でているんだもの。とにかく、びっくりした。

2位:バート・バカラック@渋谷(An Evening With Burt Bacharach And Tokyo New City Orchestra)(4/10)
齢86歳のアメリカ・ポピュラー音楽界の巨匠が自らのバンドを引き連れて、日本のフルオーケストラとコラボしたもの。50年代から90年代まで大ヒット曲連発のステージは楽しかった。ちゃんと自分でオーケストラを細かく指揮してたのも驚いた。上半身はブレザーとスカーフを身にまとい、下半身はジーンズとスニーカーという格好でステージを闊歩する本人は、いかにもアメリカ人らしいエロカッコいい爺さんだった。この人にしてみれば60歳台なんてまだ、ひよっこなのかも86歳にもなって、めかし込んで恥ずかしげもなく客席に投げキッスをする、こういうトンデモない爺さんはまさに人生の目標だ。
●今年出た、オリジナル演奏ばかりを集めたこのベスト盤は今まで最高かも。ステージもこの恰好だった。

Anyone Who Had A Heart - The Art Of The Songwriter / Best Of

Anyone Who Had A Heart - The Art Of The Songwriter / Best Of

1位:ムーンライダーズ再結成(moonriders LIVE 2014 at 日本青年館 Ciao! Mr.Kashibuchi)(12/18)
日本最古のロックバンド、ムーンライダーズが3年前に35年目で活動休止したのはショックだった。ボクが本当に好きな日本のロックバンドは知的でシャイで過激な、このバンドだからだ。活動休止後の2013年12月17日にドラマーのかしぶち哲郎氏が亡くなって、その1年後に再結成コンサートが行われた。

                                         
かしぶち氏が書いた曲中心の演奏。メンバーは皆60歳台だと思うが、演奏のテンポも速いし、出す音も若い時よりラディカルだし、凄いバンドだ。亡くなったかしぶち哲郎氏はヨーロッパ的な流麗なメロディが特徴だったが、改めて聞いてみると実に良い曲を書いていたのを思い知らされた。充実した演奏だったが彼を追悼する色々な仕掛けもあって、追悼の念と未来への希望がミックスされた良いコンサートだった。

                                                          

                                                                                      
ついでに昨年のTVではMXテレビテレビ東京の深夜ドラマ『アラサーちゃん』が面白かった。東京都が出資しているMXテレビは原発に反対するコメンテイターの発言を平気で流すし、大みそかに公共の電波で、場末のスナックのママたちにカラオケをやらせる『おママ対抗歌合戦』の、泥酔して退出する出演者が続出する酷さには毎年の事ながら感心した。あと、個人的に今年は、私立エビ中松野莉奈ちゃんに注目しています(笑)。
●今まで壇蜜というタレントのことは良く知らなかった。この人が上野千鶴子の本の帯で印象的なことを書いていたので番組を見てみたら、一見 下ネタ中心に見えて、実は細かいところにまで演出の手が行き届いた斬新なドラマだった。ちなみに原作者もプロデューサーも女性。