特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

値上げの夏:NHK『あまちゃん』と映画『世界が食べられなくなる日』


今日から7月。今年ももう、半分が終わってしまった。複数のメディアは『値上げの夏』の始まり、と語っている。電気代も小麦も油も上がる。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130629-00000071-jij-bus_allいったいアベノミクスって国民の生活に何かメリットあったんですかね。皆さん、景気が良くなったって言う人に実際に逢ったことありますか?(笑)。ボクは株を山ほど持ってた銀行や生保以外ではそんな人に会ったことありません。それで正体わかるじゃん。そういう冷静な皮膚感覚って、ボクは大事だと思うなあ。
                                                                                                                                                                          

あまりの評判の高さに釣られて、先々週くらいからNHKの『あまちゃん』を見ている。確かに面白い。ドラマのあらすじ自体はあんまり関心がもてないが、主役の能年玲奈という子のぶっ飛び具合、昨年『桐島 部活止めるってよ』で好演していた橋本愛、それに手馴れたヤンキーぶりが殿堂入りクラスの小泉今日子などが画面に出ているのを見ると、やっぱり楽しい。さらに若い頃の小泉今日子役を入江悠監督の深夜ドラマでヒロインをやった有村架純が演じているのも一筋縄ではいかない毒を放っていて、感心してしまった。劇中の『あまーソニック』とか『隠された秘密を明かすかのように思わせぶりだった母の手紙があっさり途中で終わってしまう』など世の中を舐めた描写も本当に面白い。笑いながらも気がついたのは、2週間前くらいから始まった東京編は昭和史の後半を振り返り、総括しているかのようだったってこと。疲弊する地方の地域起しの話から始まった『あまちゃん』は存外 深い物語になのかもしれない。
                                                                                    
あと もう一つボクが気に入ったのは大友良英の音楽。映画『その街のこども』などで素晴らしい仕事をしている人だが、ここでも良い仕事をしている。特に東欧風のテーマ曲のつんのめり気味のビートとか、静かな曲での深いディレイをかけた音の隙間など、ボクは大好きだ。ちなみに福島で育った大友は3.11の翌月 藝大で講演した際 『福島では静かな虐殺が行われている』といち早く指摘した人だ。フクシマで和合亮一などとフェスを開いた彼はこう言っている。
今後 どうしたいか考える、あるいは怒りを表すのにだって、表現力がいる。音楽や文学などの文化によって、そうした表現体力を鍛えることで人々は次に進めるのではないか』、
自分たちの文化を作り直すと同時に 媒体として機能しなきゃいけない。内と外を結びつけ、フクシマを孤立させないことだ
●祝 オリコンチャート5位。クレズマー音楽が日本のヒットチャートに入るなんて前代未聞だろう。

●大友が手がけた映画、『その街のこども』と『ケンタとジュンとかよちゃんの国』のサントラ。名盤です。
大友良英サウンドトラック Vol.0

大友良英サウンドトラック Vol.0

                                
ドラマなんか見ている暇もないんだけど、どうも『あまちゃん』から目が離せなくなってしまった。一見お茶らけたようで、ある意味アバンギャルドな作品はこれから3.11へ向かって突き進んでいくのだろうから。『その街のこども』もそうだったが、『あまちゃん』が傷ついた人々の心情に寄り添いながら、体験を風化させないような強さをくれる作品になることをボクは密かに期待している。
                                                                                                                                             

                                                                                                                                                                              

渋谷のアップリンクでドキュメンタリー『世界が食べられなくなる日
映画『世界が食べられなくなる日』公式サイト
                                      
遺伝子組み換えの農産物を使った食品と原発の問題とを重ね合わせたフランスのドキュメンタリー。以下はホームページから。

2009年、フランスである動物実験が極秘に開始された。それはラットのエサに遺伝子組み換えトウモロコシ、農薬(ラウンドアップ)を、いくつかの組み合わせで混ぜて与えた長期実験だった。実験期間は2年、ラットの寿命に相当する期間である。
現在、市場に流通している遺伝子組み換え食品の安全基準は、ラットに遺伝子組み換え作物を3ヵ月間与え続けても問題がないという実験結果をもとにしている。人間の寿命を80歳とすれば、ラットの3ヵ月は人間の10歳に相当する。分子生物学者、ジル=エリック・セラリーニ教授が行ったこの世界で初めての実験は、2012年9月に専門誌に発表され、フランスをはじめとしてヨーロッパ諸国、そして世界中に大きな波紋を投げかけた。
本作で、遺伝子組み換え作物の影響と同時に描かれるのが“原発がある風景”。世界第2位の原発保有数58基が稼働中で常にリスクと隣り合わせのフランスと、福島第一原発事故以降の日本。その地に住む農家がどのような影響を受けたのか。『未来の食卓』 『セヴァンの地球のなおし方』で“食の重要性”を訴え続けるフランス人監督ジャン=ポール・ジョーがカメラを向ける。
●ラットの実験風景
                                            
映画はラットの実験と原発の問題が交互に組み合わせた構成になっている。声高に何かを非難するという体裁をとってないのは好感が持てるが、肝心のラットの実験結果をあいまいにしたところは非常に気になった。途中では遺伝子組み換え作物をえさにしたラットの多くは4,5ヶ月以上経つと腫瘍が出来たり、内臓に異常が見られたりするというケースが描かれる。体の10%以上に膨らんだ腫瘍は画面で見ると驚きではある。だけど試験個体の何%に異常が発生したというような肝心の定量データや実験の結果ははっきり見せない。これはドキュメンタリーとしては重大な欠陥だし、何か意図があるのではないかと疑ってしまう。ドキュメンタリーの途中でセネガルの打楽器奏者の演奏が挿入されるのも、演奏自体はマジで素晴らしいのだが、何か情緒でごまかそうとしているのではないか、と思ってしまう。

*先週 東洋経済に載っていた監督のインタビュー記事に、セラリーニ教授の実験結果の事実関係がわかりやすくまとめられていた。
原発と遺伝子組み換え作物は非民主的だ | 映画界のキーパーソンに直撃 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

●フクシマにて


良かった点はところどころにドキュメンタリーならではの説得力のある画面があったところ。フランスでGM作物に抗議する農民たちが『刈り取り隊』を組織して実際に畑に入って刈り取るところ、またGM作物を積み下ろしする港湾労働者にガンが多発していることを訴えるインタビュー、こういう場面は迫力があった。特に後者。港にGM作物が詰まれた船が入ってくる。航海中は密閉されていたコンテナが開かれると、もわ〜と霧のようなものがあたり一面に立ち込める。
GM作物に使われている農薬だそうだ。これを見ると、大丈夫かよ、という気になる。荷卸をする港湾労働者たちはマスクをして作業をしているが、これでガンが発生したといわれても不思議ではない。まして、このガスは消費者の口に入る食べ物から出てきているものだ。
これはどう考えてもマトモじゃない。ボクは全然知らなかった世界なので、びっくりした。

原発の脇の農地
                              
この映画の中でラット実験をやったセラリーニ教授が“遺伝子組み換え”と“原子力”、二つのテクノロジーについて三つの共通点を挙げている。それは後戻りができないことすでに世界中に拡散していることそして体内に蓄積されやすいこと。確かにそれは正しい。            
そのためにもまず事実をきっちり伝えることが大事なのだ。今のところ GM作物は危ないと断言することは説得力に欠けると思う。だって『わからない』のだから。ワカラナイは危険とは違う。
だが、GM作物が安全と言い切ることも出来ない。少なくともモンサントが怪しい(笑)企業であることは間違いがない。規制官庁である米FDA(食品医薬品局)に圧力をかけてGM作物に疑問を投げかけた研究員をとばしたりしたのは事実としてわかっている。さらにモンサントがFDAの上層部に圧力をかけた結果、アメリカではGM作物を使った食品には表示義務がなくなってしまった。幸い日本には直接的にはGM作物は入ってきてないことになっているが、アメリカ産の食品や飼料のことを考えたら、実質的には既に日本へもかなり入ってきているのかもしれないが。
               
今 大事なのはまず『(GM作物が安全かどうか)調べろ!』と言うスタンスだと思う。怪しいことは間違いない。本当のことが知りたい。多くの人がそうおもっているのではないか。