特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

2011年のベスト映画と音楽

2011年は大変な年だった、というのが殆どの人にとっての感想だろう。しかも災禍はまだ続いているのだから、1年を振り返るTVニュース番組など殆ど正視する気にならない。
来年もなかなか厳しい年なのかも。景気だって普通に考えるとEUはもう一発あるだろうし、アメリカは低空飛行、アジアは貸し渋りバブル崩壊もありそうだ。世界同時不況なら、もちろん日本も影響は避けられない。ノーベル経済賞学者のスティグリッツが『来年は根拠ある悲観論の年になる』、『2011年のベストニュースは、どうやら12年より良い年である可能性が高いということ』と言ってたが、そのとおりだと思う。ただでさえ嫌いな仕事のことを考えると頭痛い(泣)。

だけど良い兆しもないわけではない。2011年は化けの皮が剥がれた年だ。日本の政治家や役人がいかに国民のことを考えないか。社会的責任とか綺麗ごとを言ってた企業が実はいかに無能で無責任か。TVや新聞などの大手マスコミがいかに嘘つきか。多くの人が本当のことに気がつき始めたんだと思う。

だから今はある意味 スタートライン、じゃないか。与野党問わず政治家がダメなのは勿論、役人、独占企業、新聞、TV、これらは社会の害悪と思って8割がたは間違いない、のは今年 改めて良くわかった。あんな奴らに少しでも期待するのは間違いだ。


これからどうするかは他の誰でもない、自分たち次第だ。 ダメ人間のボクには何にもできないけれど、目一杯 抵抗してやる(笑)。大好きな映画とか音楽とか、キラキラしたものをかき集めながら。
そんな2011年のボクにとっての映画ベスト5、音楽ベスト3はこれ。

●映画
1位:その街のこども劇場版(1月)
神戸の地震が起きてから10年後、当時子供だった男と女が夜の神戸を彷徨う、静かな物語。実際に大震災を体験したという主演の森山未来佐藤江梨子の等身大の演技、大友良英の素晴らしい音楽、臨場感溢れる演出が一体になって独特な雰囲気を作り出している。それは、不条理な出来事が人間に何をもたらすか、そのあとどうやって生きていくか、を雄弁に語っている。まして3・11を通り過ぎて、この映画は一層 輝きを放つようになった。
●特別な雰囲気、特別な映画

その街のこども 劇場版 [DVD]

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2位:サウダージ(11月)
この何年かの日本の光景をこれほど的確に描いた映画があるだろうか、と思った。
甲府市を舞台に土木作業員、日本語ラッパー、タイ人ホステス、ブラジル人労働者たちを描いた自主制作の群像劇。疲弊する地方都市とグローバリゼーションの中で人々のうめき声が聞こえてくる。でも『この街ももう終わりかもな』という台詞のなかには絶望以外のもの、も見える。この国の政治家や役人がどんなに酷くても、ボクたちは生き続けなければならないのだから。

 

3位:監督失格(9月)
監督がかって愛人関係にあった、故人である女優さんへの想いをつづったドキュメンタリー。とりたてて、ドギツイ場面があるわけではないが、見ていてこれほど緊迫感のある映画は初めてだった。ある意味 サウダージ私小説版というか、個人の私的な恋愛感情を描いているだけなのに、普遍的なものになっているのがすごい。

  
4位:大好きな映画たち:『台北の朝、僕は恋をする』(3月)、『人生、ここにあり』(8月)、『50/50』(12月)
どれも見ていて楽しい、美しい映画。ジャンルはラブコメディ、社会的起業、闘病ものと一見脈絡がないが、共通して流れているものがある。
平凡な人間のちっちゃな知恵と意志、世界に対する楽観とほんの少しの幸運。どの映画にも悪人が一切出てこない。その底流にある価値観をボクは断固として支持する。よく考えたら全部コメディだな。
●今年の3月、空っぽの街で見るにはふさわしい映画だった。

台北の朝、僕は恋をする [DVD]

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5位:資本主義VS人間:『ソーシャル・ネットワーク』(2月)、『イクジット・スルー・ザ・ギフトショップ』(7月)、『マネーボール』(11月)
3つの映画はどれも、カネが全ての世の中で、どうやって生きていくかを描いている。驚くくらい完成度が高くて、見てから数ヶ月たっても感慨がじわじわと湧いてくる。ソーシャル・ネットワークで完璧に『嫌な奴』を演じていたジェシー・アイゼンバーグくんが、年末に見たおバカ映画『ピザ・ボーイ』でいつもどおりオタクな、ピザ配達人を演じているのを見て、何故かホットした(笑)。『マネーボール』は以前 自分がやった会社再建にそっくり、終わったあとの寂寥感までそのまんまでびっくりした。

●音楽
1位:ザ・ナショナル日本公演(11月)
音楽雑誌風に言うと、『マンハッタン系最後の大物』の初来日公演。
曲もルックスもぱっとしたところがない、地味〜なバンドを想像していたのだが、圧倒的な良さ。派手なところは全く無いが、きっちりしたリズムに、ノイズを効果的に取り混ぜた演奏、時々ぶちきれるヴォーカルも格好いい。よく比較されるジョイ・ディヴィジョンより遥かに良いのではないか。ナルシスティックなところが微塵も無いところが気持ちよい。今を生きるバンドらしく姿勢は俯き加減だが、崩れていく世界に正面から向き合うぞ、という確固たる意志が伝わってくる。ギグを見ながら、まだロック音楽というものに希望が残っているんだ、と思った。


2位:ももくろちゃんとかまってちゃん(2月)
ももいろクローバー神聖かまってちゃんの渋谷での対バン。 確かにももくろちゃんの完全燃焼ぶりには度肝を抜かれた。娘たちが息も絶え絶えになるまで力いっぱい歌い踊る姿をライブでみたら絶対に応援したくなる。身体性の勝利って言う奴だ。これで曲がもう少しよければなあ。
一発屋だろうと思っていた、神聖かまってちゃんも想定外に良かった。の子は想像以上にカリスマがあったし、バンドの脱力加減とマッチしてた。何よりも楽曲が良くて、これからが楽しみ。ETVで5月に放送された、このバンドの特集『町にボクのロックは流れますか?〜ネット世代のカリスマ’’現実に’’挑む〜』も見ごたえがあった。
●子どもが新自由主義にケンカを売ってるような新曲。外角はずれ、ぎりぎりボール、というのが素晴らしい(笑)


3位:11のとても悲しい歌(ピチカート・ワン)(5月)
2011年を象徴するようなCD。お洒落でゴージャスで趣味が良い、優れたポップ音楽だけど、一筋縄ではいかない暗鬱さが漂っている。本当に価値があるものは真夜中の一人の部屋から生まれてくる、のだと思う。

11のとても悲しい歌

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