特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

金持ちのドラ息子VS映画『ハーブとドロシー』

今頃 金正日もびっくりしているんじゃないでしょうか。
何十年ぶりかの砲撃で周りの国々をビビらせたかと思ったら、日本ではあっという間にバカ歌舞伎役者が酔っ払って暴れた話に取って代わられてしまいました(笑)。
金正日もバカ歌舞伎役者も、世襲の、金持ちのドラ息子ってことは一緒です。世襲が幅を利かせるような社会は適材適所の人材配置が行われないから、イデオロギーの左右を問わず、当然のことながら腐っていきます。日本の歴代の総理大臣、小泉も安倍も麻生も鳩山も、ついでに日本の大多数の国会議員も、ついでにブッシュも、み〜んな金持ちのドラ息子。要するに世の中を悪くしているのは金持ちのドラ息子。
これは世の中の仕組みを説明するには、かなり納得性がある仮説だとおもっているんですが、最近は自分の権力維持以外に何にも興味を示さない菅という能無し総理大臣がいるから、少し自信がなくなってきました。



青山のイメージ・フォーラムで『ハーブ&ドロシー』映画『ハーブアンドドロシー ふたりからの贈りもの』公式サイト

NYの平凡な郵便局員と図書館司書のヴォーゲル夫婦の趣味は現代アートを買い集めること。彼らがアートを購入する基準は2つ。『自分たちの給料で買える値段であること』、『アパートに収まるサイズであること』。そうやって集めたアートがいつの間にか現代屈指のコレクションになっていた。

ある意味感動的な、まるで現代の御伽噺のような話ですが、この映画はそのリアリティをよく描写しています。
例えば、ヴォーゲル夫妻の購入予算は夫の郵便局員としての給料の範囲内であるため、購入対象はあまり高くないジャンル(主に小品)に特化しています。さらに彼らはアトリエへ自分で出かけて画商を通さずに直接作品を購入する。自分が気に入れば、アトリエの床に落ちているものでも購入しようとする。そして結構、値切る(笑)。アーティストも気さくな人柄に惹かれて、夫妻と友達関係になってしまいます。

映画の中では何度か、誰もが尋ねるであろう、根本的な疑問が呈されます。作品を一つか二つ売れば大金持ちになれるのに、彼らはなぜ売らないのか。
答えは明確。ヴォーゲル夫妻は作品を集めることが楽しみだから。
作品を売って金儲けする気なんかぜんぜんないんです。何か贅沢なモノを買うわけでもないし、夫は自分がコレクターとして有名になっても、勤務先ではそれを30年間隠し通す。子供のような目をして、ただひたすらギャラリーやアトリエを歩き回る、全く飾り気がない夫妻の姿を捉えた、この作品を見ていると夫妻の思い=ただアートが好きなだけ、が良く伝わってきます。
やがて夫妻のアパートメントは5000近い作品で溢れかえり、文字通り足の踏み場もなくなります。その結果 夫妻のコレクションはナショナルギャラリーへ寄贈されることになります(だが、そこにも入りきらず、全国の美術館へ寄付するプロジェクトが発足したそうです。)
映画は夫妻がパソコンショップでノートパソコンを購入するところで終わる。妻はただ、メールが出来ればよい、とマック・ブックの一番安い奴を選びます。そして足の悪い夫は購入したパソコンを妻に持たせず、自分で抱えてよろよろと運んでいきます。余計な機能も余計な気取りも要らない、眼中にない。なんて爽やかな老夫婦なんでしょうか。


劇的な画面があったり、声高に何かを告発したりするようなシーンも一切ありません、思い切り地味な作品だが、品の良い音楽もポイントを抑えたインタビューも明確な構成も秀逸です。

見終わって感じたのはヴォーゲル夫妻の生き方自体がある種の作品だ、ってこと。虚飾も作為もない老夫婦を見ていると心が洗われます。この世の中にはこびる金持ちのドラ息子ども、とはまったく対照的です(笑)。
土曜の朝の回にも関わらず映画館が盛況(ただしイメージフォーラム基準。観客数 約50人)だったのも良くわかる、傑作ドキュメンタリーでした。