特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

お互い、年を考えましょう:ムーンライダーズ@渋谷AX

珍しく遅く帰宅してNHK教育テレビをつけたら、画面に『人間力講座』というテロップが出てきた。『すごいなあ、そんなものが講座になっちゃうのかよ』、と思っていたら、まるで死んだ魚みたいな目をした勝間和代(笑)が出てきて、企業を再生したどこかの社長の話が始まった。
その時点で、さっさと画面を前日に録画した『おねだりマスカット』に替えてしまったので内容はよくわからない。が、最近は『人間力』まで商品にしちゃうんだね。

だいたい、人間力って一体何なんだよ。そんなことを臆面も無く述べちゃうこと自体、いい年こいた大人として、恥ずかしくないのだろうか(笑)。
人間のことなんてさっぱりわからないのに、まして人間力なんて頭の悪い熱血高校生じゃあるまいし、他人様の前で言うようなことじゃないだろう。ま、ボク自身は『人間力』のかけらもないってコトだけはわかってるから、どうでもいいけどね(笑)。


その翌日は渋谷でムーンライダーズのライブ。
先日の、大学生くらいが中心の『凛として時雨』と比べると客の年齢層が、た、高い。入場を待つ行列で聞こえてくる会話の内容も『誰それの葬式に行った』とか『最近は新陳代謝の調子が』とか、そんなのばかり(笑)。
開演前にお決まりの挨拶をギターの白井良明氏が読み上げる。
『ステージに向かって駆け出したり、椅子の上には登らないでください。』と言ったあと、付け加える。

『お互い 年を考えましょう』(笑)。

ステージはかしぶち哲郎氏と武川雅寛氏のアコースティック演奏で開演。
もうすぐ還暦という、かしぶち氏はブレザーの上に赤いマフラーという姿だ。そこから3,4曲、かしぶち氏の曲がフィーチャーされる。
締めくくりに『バックシート』。続いて『鬼火』が演奏される。いきなり、30年前のアルバム『モダン・ミュージック』からの意表を突いた展開には、しびれてしまった。
いいなあ。

新作から間が空いているということもあり、この日は比較的古い曲が多かった。
が、どれも演奏は新鮮で全然ナツメロになってないのが凄い。久しぶりに聞いた、かってのライブの定番曲『Frou Frou』はわくわくするような躍動感があったし、『スイマー』はシーケンサーのパートがギターリフに変わり、人力テクノになっている。『マニア・マニエラ』からの『檸檬の季節』はライブで聞くのは初めてだったし、岡田徹氏と武川氏が交互に歌った『さよならは夜明けの夢に』では胸がきゅんとなる。『犬にインタビュー』で思いのほか会場が盛り上がったのは80年代からのファンが多かったのかな。

高校生の頃からボクは、日本のバンドではムーンライダーズが一番好きだし、それは今も変わらない。しかし90年台中盤以降のアルバムは演奏や音は相変わらず実験的なことをやり続けていても、あまり良い曲がない、名曲がない、ことは不満に思っている。でも、こうやって名曲オンパレードをやってくれれば、しかもアレンジはバンバン変えてスリリングな演奏を繰り広げられたら何の文句もない。聴きたい曲はいくらでもあるのだ。メンバーの歌は相変わらず不安定だが、少なくともキーはそんなに外してない(笑)。

この日 最大の呼び物は鈴木慶一氏がベースに、鈴木博文氏がブルースハープに持ち替えて、スカのリズムに乗せた『モダン・ラヴァーズ』。
オリジナルより遥かにアップテンポで、より攻撃的になったこの曲では、武川氏のマンドリンソロ!が炸裂するは、博文氏は客席に飛び込むは、で殆どパンク・ニューウェイヴのバンドみたいだった。まったくトンでもない爺さんたちだ。

アンコールで小島麻由美嬢を呼び込んで演奏された新曲『ゲゲゲの女房』は悪いけどあんまり興味なし。曲がいまいちだもん。
短波みたいなノイズをコラージュした(笑)『くれない埠頭』。アンビエントな雰囲気にノイズが混入されて、予定調和をぶっ壊す。
かっこいい。
今やライダーズのメンバーの半分は還暦で、来年は結成35周年だそうだ。
肩の力は抜けてるけど、筋肉質。ユーモアは忘れないけど、やっぱり過激。もちろん訳のわからない、偉そうなことは言わない(笑)。

こういう年の取りかたには、本当に良いお手本だ。見ているだけで元気が出てくる。
やっぱり、ムーンライダーズのファンでいて良かった。