特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『丸の内の餃子と渋谷の餃子』と映画『天才作家の妻 40年目の真実』

 楽しい楽しい3連休はとにかく寒かったです。
そんな時こそ人が居ないだろうと思って、丸の内に行ってみました。
●寒すぎて歩く人もいない丸の内
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 たまには中華でも外食しようかなと思ったんです。
 まあ、普段は福建省出身のおばちゃんがやってる広東料理の店(笑)で毎日 800円の中華定食を食べてるんですが、戦闘モードの平日と休日とは違います。たまには他所行きの中華も美味しい。
●丸ビルで食べた餃子。ぷりぷりのエビとコリアンダーが美味しかったです。


 その翌日 映画を見に行った渋谷でさらに餃子が食べたくなって、センター街にある店に入りました。
 渋谷区で生まれ育ったボクですが、今のセンター街なんて場違いだ、と思います。そこにいるのは日本人にしろ、外国の人にしろ、観光客だらけで違和感しかありません(笑)。偏見かもしれませんが、歩いている人の服装や眼つきを見るだけでも緊張感を感じる(笑)。普段は通り過ぎるだけですが、店に入ってみると中国沿海部やアメリカの都市より遠い土地みたいです。それはわかっているけれど、とりあえずあまり体験したことがないことをやってみようと思ったんです(笑)。

 店に入るとカウンターにタブレットが置いてあるだけで、店員さんが来る気配もない。どうやら、タブレット↓で注文しろということらしい(笑)。回転寿司などではそういう仕組みがあるというのは聞いたことがあるんですが、行ったことがないのでボクはよくわかりません(笑)。渋谷なんて今は外国人だらけですが、高校生?のバイトちゃんもこれなら外国語を喋れなくても大丈夫。世の中はどんどん変わっているんだなーと思いました。

 餃子自体は別に美味しくもなく、不味くもなく(笑)。ニラ・ニンニクがたっぷり(笑)。だけど、こういう大量生産品は一度食べればいいかな(笑)。人間嫌いのボクですが、殆どしゃべらずに食事ができるというのは流石に衝撃的でした(笑)。
 ちっちゃな冒険でした。
●渋谷の餃子。これなら思い切り食べられる。一皿の値段は丸ビルのものと同じくらい(笑)。



ということで、新宿で映画『天才作家の妻 40年目の真実

 高名な作家、ジョゼフ(ジョナサン・プライス)と妻のジョーン(グレン・クローズ)は深夜、ノーベル文学賞を受賞した知らせを受ける。作家志望の出来の悪い息子を連れて、夫妻は授賞式が行われるストックホルムに赴くが、道中 ジョゼフの伝記を書こうとしている記者、ナサニエルクリスチャン・スレイター)から経歴についてしつこく質問を受ける。学生だったジョーンと出来てしまったことで名門女子校の教師をクビになり、作家を目指すが鳴かず飛ばずだったジョゼフは、ジョーンと結婚してから何故か傑作を書くようになった、というのだ。記者の思わぬ追及で、ジョゼフとジョーンの眠っていた感情が露わになり始める- - -
ten-tsuma.jp


 主演の女優、グレン・クローズアカデミー賞の前哨戦、ゴールデングローブ賞で主演女優賞を受賞した作品です。
 グレン・クローズと言う人は失礼ながら美人という感じではありませんけど、ボクは大好き。エミー賞トニー賞をそれぞれ3回受賞、アカデミー賞だけは6回もノミネートされていますが受賞歴なし。

 なんといっても映画デビューがボクの生涯NO1の『ガープの世界』の母ちゃん役です。

子供は欲しいけど男はまっぴらごめんというフェミニストで、負傷して病院に寝ている兵士にまたがってレイプして子供(主人公)を授かるという強烈な役でアカデミー賞にノミネートされました。これは素晴らしかった。
●主人公ガープ役のロビン・ウィリアムス(右)と。老母を演じたグレン・クローズはこれが映画デビュー作。

 それ以降も評価の高い人ですが、自らプロデュース&共同脚本まで行った2013年の『アルバート氏の人生』で女性は働くことが出来なかった19世紀のアイルランドで男装した女性の役を演じたのはまさに本領発揮でした。これまた、尋常じゃない素晴らしさ。今作はそれに続く系統の作品です。
spyboy.hatenablog.com


 映画は深夜の夫妻の寝室から始まります。詳細は書きませんが、この夫は登場から退場までトコトン、カス野郎です。
●妻と夫

 またクズ男かよ、といやーな気持ちになっていると、ノーベル賞受賞の電話が来ます。実際も電話で来るらしいですね。バカ夫は勿論、複雑な表情をしていた妻、ジョーンもさすがに喜びます。

 そこから、夫妻の過去と現在が入り混じる形でお話が展開していきます。ただ、あらすじ自体は見る前から想像できます。ノーベル文学賞を取った作家の作品は実は専業主婦の妻が書いたものだった、と言うものです。
ストックホルムで授賞式の準備が始まります。元来なら夫妻にとって晴れの日であるのですが。

●授賞式の準備で忙しい妻、ジョーンに夫の伝記を書こうとしている作家(クリスチャン・スレイター)が近寄ってきます。過去の資料を詳細に調べた彼は、夫の作品はすべてジョーンが書いているのではないか、というのです。

 二人は名門女子大で出会いました。文学教師だった夫。教え子だった妻。妻帯者だった教師は学生に手を出したことで名門校をクビになり作家を目指しますが、うまくいきません。
 ところが、あまりにも出来が悪い夫の作品を妻が全面的に書き直したら大ヒット(笑)。真に文学の才能があるのは妻の方だったのです。しかし二人が出会った当時 50年代末から60年代初頭は女性が作家になることは難しかった。仕方なく、彼女は夫のゴーストライターになることを選びます。
●若き日の妻と夫。妻役はグレーン・クローズの実娘が演じています。


 文学界にも女性差別があるのか、とも思ったのですが、ハリーポッターの作者、J・K・ローリングは作者が女性だと読者に嫌がられるのではないか、と邪推した出版社が、作者が女性であることが判らないように強要したペンネーム、だそうです。最近ですら、そうなのですから、夫妻が結婚した数十年前だったら、さもありなん。


 夫は家事と育児、妻は鍵をかけた部屋にこもって執筆する毎日を送ります。しかし、名誉や社会的地位は全て夫のもの。しかもこの夫は女性とみれば見境なく手をだすクソ男でした。それもいい歳こいてもずっと同じことをやっている超クソ男。見ていて虫唾が走るような下衆男。ジョーンにとっても、観客にとってもフラストレーションがたまります(笑)。夫を演じるジョナサン・プライスの徹底したクソ男ぶりはある意味、素晴らしい演技ではあります。

 亭主はクソ男、おまけに息子は出来が悪い。文学の才能だけでなく、経済的にも精神的にもジョーンが家庭を支えています。
●作家志望のドラ息子(右)。いい歳こいて自立もできないくせにコンプレックスだけは一人前。

 ただしジョーンの方もイノセントという訳ではない。そもそも妻がいるにも関わらず学生に手を出すようなクソ男を選んだのは彼女です。そこを突かれると彼女も強くは出られない。決して後悔はしてないけれど、彼女自身も複雑な思いを抱いています。


 お話しそのものよりノーベル賞の舞台裏やスウェーデンの景色には興味をひかれましたが、
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この映画の見所はなんといってもグレン・クローズの演技です。この目力、表情の変化、想像以上にすごいです。

 どちらかというと平板なお話しを、演技だけで観客を文字通り戦慄させ、涙させ、納得させる。単に演技力という言葉では表現しきれない見事な演技です。ここまでの演技を見たことって、ボクはあまり記憶にない。まじでゾクゾクしました。

 これを味わうだけで、文字通り、極上の時間を過ごせます。他のノミネート作品との兼ね合いで決まるのでしょうけど、この演技を見ているとどう考えてもアカデミー賞間違いなし、と思ってしまいます。
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 それだけではありません。女性のキャリアの問題とか、こんな下衆男じゃなかったら、ということだけではなく、最後にこの映画はもっと本質的な、人間に対する非常に深い洞察を突き付けてきます。社会的規範の問題はあるけれど、結局 その人が感じることが全てなんじゃないか、というラディカルな結論を突き付けてくる。

 ちょっと怖いけど、非常に考えさせられてくる映画です。高級品を味わってるなーという感じでした(笑)。おかげで素晴らしい時間を過ごさせてもらいました。

映画『天才作家の妻 -40年目の真実-』予告編