特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『逆転のトライアングル』

 週末の引っ越しはなんとか終了しました。片付けはまだまだだし、リフォームの二重窓取付が残ってはいるのですが、荷物だけは収まりました。

 引っ越し業者さん曰く、新居は世田谷区でもワースト3に入る面倒くさいマンションだそうで(笑)、心配していたんです。車を停める場所から住居迄の搬入経路が遠い、作業時間は9時から17時まで厳守&台車禁止など管理事務所が五月蠅いということで、業者さん泣かせの場所だそうです。
●家の前は木蓮が咲いていました。

 ですので、業者さんと相談して引っ越しは3日間の予定でした。初日はトラック3台への積み込み、2日目は新居への搬入、3日目は荷ほどき。

 相見積もりを取った他の業者さんは絶対4日間かかる(料金も20%増し)と断言していたので『間に合わなかったら、どうしよう』と思っていたのですが、お願いした業者さんが腕利きの作業リーダーをよこしてくれて各日全て午前中で終わってしまった。

 まだ20代の作業リーダーの子はバイトの子たちに的確な指示を出して、自分はベッドやクローゼット、異なるメーカーの家具の分解・組立もパパパッて済ませてしまった。バイトの子たちが『リーダーは営業所のエースなんです』と言っていたのが印象に残りました。尊敬されているのでしょう。
 普段の仕事もそうですが、仕事が出来る人に当たると気持ちが良いです。

●新居のベランダから見た夕陽

 来てくれた作業の人には若い女性もいましたが、彼女たちはボクがようやく1つ持てるくらいの重さの段ボールを3つ抱えて全力疾走で運んでいた。ビックリです。
 ボク自身は腰も痛くなるし、改めて老骨ぶりを痛感した3日間でした(泣)。年寄りばかりの将来の日本って引っ越しすら、ままならないんじゃないですか(笑)。


 と、いうことで、有楽町で映画『逆転のトライアングル

 モデルでインフルエンサーのヤヤは、恋人である男性モデルのカールと共に豪華客船のクルーズ旅行に招待される。リッチだが我儘ばかりの乗客はゴージャスな船旅を堪能し、やる気のない船長はアル中状態、それでも白人ばかりの客室乗務員は彼らから高額のチップをもらおうと笑顔を振りまきながら要望に応え、有色人種ばかりの下働きの乗務員は重労働にあえいでいる。ある夜 悪天候で危機に陥ったところに海賊に襲われて船が沈没。無人島に流れ着いた乗員乗客たちは食料、水、そしてSNSのない状況にあえぐが、生き残った船のトイレ清掃員は圧倒的なサバイバル能力を発揮する。

gaga.ne.jp

 昨年の第75回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞したコメディーです。先週のアカデミー作品賞の候補にも入っていました。

 監督は『ザ・スクエア 思いやりの聖域』や『南アルプスで起きたこと』などのリューベン・オストルンド。俳優の有名どころではウディ・ハレルソンが出演しています。

 映画は半裸状態の男性モデルのオーデション光景から始まります。普通の光景かもしれませんが、モデルたちも審査員たちもどことなく嫌味たらしい。よく考えたら、この映画の監督は皮肉で嫌味たらしい描写が特徴で、ボクは嫌いだったことを思い出しました(笑)。

 男たちの裸が不自然に強調されます。そしてモデルたちは高級ブランドではしかめ面、大衆ブランドでは笑顔を作る。その一方 ショーでは環境保護や平和、格差などのメッセージが写し出される。その癖 ファッションショーに招かれた客の間には席順など歴然とした格差がある。ファッション業界の偽善が徹底的にコケにされます。
 なおかつ画面からは時々イライラさせるような異音も挿入される。
 
●モデルたち。自ら性的搾取に身を投じている

 そのあと、女性モデルのヤヤ↓と男性モデルのカールのレストランの支払いを巡るくだらない痴話喧嘩が延々続きます。どちらもバカな言い分ばかりで、見ているボクは嫌になってくる。
 

●モデル兼インフルエンサーのヤヤ(左)とカール。

 特にカールは徹底的なアホ。話が終わろうとすると蒸し返す。そうやって観客をイライラさせるのが監督の狙いです(笑)。

●アホのカール

 それからヤヤとカールが招待された豪華客船のクルージングが始まります。インフルエンサーでもある彼らは無料で船に乗り込み、宣伝係を務めるのです。

●彼女は本来、ダイエットのためにパスタなんか食べません。これもSNSのため

 他の乗客はイギリスの武器商人夫妻、ロシアのオリガルヒなどウルトラ金持ちぞろいの世界です。出てくる料理も高そうだし、真の金持ちとはどういうものか、こういう描写のリアリティはヨーロッパ映画ならでは、だと思います。

●乗客は一癖ある奴ばかり。皆 超我儘

 船はヒエラルキーで支配されています。大金持ちの乗客以外にも、給仕やサービスなど乗客に接する従業員は皆 白人。優雅で丁寧で乗客の要望に徹底的に応えます。チップが目当てだからです。
 その下の船員たちは白人だけどラテン系などが混じっている。上半身が半裸の姿のまま観客に微笑んだだけで無礼だとして、陸に強制的に送り返されるような扱いを受けています。
 更に機関や皿洗い、清掃などは有色人種の従業員が働いています。彼らにはチップの機会すらない。

●チップをもらうことしか考えてない従業員たち。皆白人。

 アメリカ人の船長(ウディ・ハレルソン)は出航以来 自分の船室から出てきません。ずっとシャンパンで酔っぱらっているのです。
アメリカ人船長はアル中のマルクス主義

 嵐がやってくる中、船では豪華なパーティが催されます。それが次第にぶち壊れていく描写は色んな意味で見事です。ボクは下ネタは嫌いですが、映画史に残るような?徹底した描写が続きます。
 特に段々と嵐が激しくなってくる中、マルクス主義者である船長が共産主義嫌いのロシア人富豪と論争するシーンはこの映画の白眉でした。ここは滅茶苦茶 恰好よかった。
 しかし嵐の中 船長がそんなことをやっているのですから、船は沈没します(笑)
 
 生き残った乗客や従業員は無人島に流れ着きます。しかし食べ物もシャンパンも電気もSNS!もない。豪華客船とは全く世界が変わります。いや、立場が変わっただけで新たな階級社会、格差社会の始まりです!

無人島でキャプテン(船長)になったのは火を起こし魚を取ることができるトイレ清掃係でした。

 下ネタ、悪趣味、富の格差、ルッキズム、人種差別をぶち込んで笑い飛ばし破壊願望をかなえる、容赦のない作品です(笑)。ブニュエルと比較する向きもあるようですが、あれよりもっと下品で、嫌味です。
 資本主義を巡るマルクスの話など判る人にしか判らないような要素も取り入れられている。ヨーロッパのインテリのセンスはこんな感じなのか。

 この監督の前2作は苦手だったのですが、今作はバカバカしさが増していて比較的見やすかったです。
 個人的には好きになれないし、これがカンヌの最高賞なのか?というのはありますが、一見の価値がある、練りに練った映画でした。と 同時にかなり面白い映画であることは間違いありません。ホント、面白いです。


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