特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

シニカルなデジャビュ:17歳の肖像

日比谷で『17歳の肖像http://www.17-sai.jp/
こう言ってしまうと身も蓋もないですが、ビートルズ登場前のイギリス、オックスフォードを目指す優等生の女子高生が年上の男に騙されて大人になっていく、そんな話です。
おすぎ曰く『若くて優秀な女がでてくるような話なんかみたくもない』(笑)。それは極端な反応にしても、見る前から陳腐なストーリーが想像できてしまう話では、あります。
だがユーモアと自虐精神に溢れた佳作『ハイ・フィディリティ』や『アバウト・ア・ボーイ』を書いたニック・ホーンビィの脚本だというんですね。そらあ、行くしかない(笑)。

話としては好みではないし、ビートルズ以前のイギリス、という時代設定も巷で言われているほど、ボクにはそれ程ぴんと来ません。

この映画の魅力は、人間を見る視点が温かいこと、に尽きます。
あまちゃんだけど、クレバーで凛とした主人公像は魅力的です。それを演じるキャリー・マリガンのスイートな存在感も、それにマッチしています。このヒトが初主演でアカデミー賞主演女優章にノミネートされているというのも、凛とした主人公の造詣と初々しい彼女の実像が重なって、観客が感情移入してしまうからに違いないです。

だが、それだけではありません。
主人公だけでなく、主人公を裏切る彼氏、彼氏の泥棒仲間、規則に厳しい校長先生、冷たそうな担任教師、ケチで口やかましい父親、それぞれの描かれ方が多面的で素晴らしいんです。
特に主人公と担任教師や校長先生(文字通り貫禄が溢れるエマ・トンプソン)との女性同士の愛憎こもった関わりは最高です。『いくら優秀でも女性は教師か役人くらいしか未来がない』という彼女たちの会話には当時の時代背景を考えさせられて、思わずハッとさせられます。そして50年過ぎた昨今の就職事情にもそれが当てはまるところがあるのがボクには苦々しくもあります。そして、その会話は映画の後半 主人公が世界に向き合う姿勢が変わっていくことに対する、見事な伏線になっています。

この映画に登場する誰もが憎めないし、最後にはその人なりの魅力すら感じられるようになります。様々なエピソードをより合わせて、糸が紡がれるように収束していくプロットは、その根底にある世界の捉え方、価値観が素晴らしいと思う。シニカルだが肯定的、とでも言ったらよいのでしょうか。
この映画は単なる青春ものではない、もっと普遍的なことを述べようとしている映画です。


日々の暮らしに追われていると、失くしてしまう感覚があります。
この映画を見終わって、少しそれを思い出したような気がして、文字通りすがすがしい気持ちになります。やっぱり脚本の勝利なんでしょう。アカデミー賞3部門ノミネートもうなずける。ほんと、良い映画。