特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ジュネスの反乱

フランス ジュネスの反乱―主張し行動する若者たち

フランス ジュネスの反乱―主張し行動する若者たち

近年フランスで起きた2つの事件、2005年に郊外の子供が警察に追われて感電死したことをきっかけにおこった郊外の暴動、CPE(2年間 企業側が自由に解雇できる制度)導入に伴う反対運動について描かれたルポルタージュ本田由紀先生の熱い(笑)書評に惹かれて読んでみた。http://booklog.kinokuniya.co.jp/honda/
一言で言うと大変興味深い本。ルポルタージュと言っても、あんまりそういう感じはしない。著者が若者側に肩入れするのはかまわないにしても、あまりにも 抗議を起こしている若者側の事情だけを一方的に述べているので、読んでいる側としては事実がよくわからない。そういう点では残念な本だ。アジ文書なみ。と言ったら言い過ぎだろうか。
『反乱』を起こした側の話は聞きたいが、僕は、その反対側の事情も聞きたい。(表面的だけかもしれないが)失業率の減少につながるというCPEについてはなおさらだ。日本ではあまり伝わってこない事象であるからこそ、まず事実を知りたい。そのためには一つの事象を色々な観点から見るということが必要ではないか。この本にはそういう視点は殆ど、ない。
それでも『フランス ジュネスの反乱』には、そのような致命的な欠点を補うだけの価値がある。
まず、本田も挙げているようにこの本の中に散発的に述べられていること、直接的な市民運動や権力側の弾圧の進展パターンや方法が述べられているのは大変貴重なのだ。60年安保や全共闘含めて、市民に根ざした、しかも大規模な市民の運動がほとんど発生したことがない日本では、このような知識自体がまったく蓄積されていない。
そして、もっとも瞠目すべきなのはこの本で描かれているフランス人の主体性の強固さ、だ。ビジネスでも、研究でも、どんなことでもそうだろうが現場において、一人一人が自分の頭で考え、判断する。引くべきところは引き、押すべきところは押す、ぎりぎりの切羽詰ったところでの判断は中々出来るものではない。そういうことが出来る人間が存在する、それも市井に多数、存在する社会、これは一朝一夕の話ではなく長い間の歴史的蓄積ということなのだと思う。そういうことがきちんと描かれているのが、この本の価値だ。
 ただフランスと日本の差をため息ついていれば済むような単純な話ではない。その後の大統領選ではCPEで自ら墓穴を掘ったド・ビルパンを押しのけ保守派候補となったサルコジが大統領になったわけだが、左翼の女性候補が勝てばメデタシだったのか?マスコミのいたずら電話に引っかかってカナダからのケベック独立を言い出すようなことは置いても、僕はロワイヤルという人には非現実的で日和見なことを言っているような印象しか持たなかった。イデオロギーはさておいても政権党、野党とも、実務的な政権担当能力すらない、というのは日本でも同じだ。もちろんハンガリーからの移民が大統領になれる国と世襲のボケ政治家だらけの日本とは根本的にレベルが異なるにしても、だ。
 ロクでもない選択肢しかない、という問題は、フランスや日本など固有の問題や候補者の個人的能力の問題と考えるより、構造的なものであるように思えるのだが、どうだろうか。