特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

NHK『''個''として生きる』と映画『LBJ ケネディの遺志を継いだ男』

いよいよ、秋が深まってきたことを感じる気候になってきました。
暑い夏には考えられもしなかったですが、最近の外出はシャツやポロシャツの上にどんな上着を着ようかな、と考える楽しみもあります。


これ↓はこの前 新宿で食べた鮭のソテー。洋服屋と有名ホテルのコラボ、しかも小山薫堂プロデュースという触れ込みで、名実ともにインチキ臭い店(笑)、普段だったら絶対に!立ち寄らないような店の名物だって言うんです。往々にして そういう店は小綺麗ではあるけど、高いし、うまくもないし、くだらないだけ。
ところが その店はネットに『洋服屋が絡んでいるだけあって店員さんが可愛い、おしゃれ』という書き込みがありました。休日の午後 さっと入れる昼食場所に困っていたこともあって、どんなものかと好奇心がてら、おもわず入ってしまったんです(笑)。以前 銀座のシャネルのビルにあるレストランへ行ったら、店員さんが全員、エレベーターガールに至るまで映画でしか見たことがないシャネル・スーツを着ていて感動したことがあるんです(笑)。シャネルのスーツなんて麗しのオードリー・ヘップバーン泉ピン子くらいでしか見たことないでしょ(笑)。
この店に入ってみたら、店員さんは外観もサービスも別にフツー(笑)。ファーストフードのアルバイトと変わりません。出てくるものは、まあ、美味しくはあるけど、なんてことない。これならボクでも作れる(笑)。アイデアとして感心したのは、ぶ厚い鮭の身を皮側に切れ目を入れて焼いたことくらいかな(笑)。自分が悪いのですが、我ながらくだらなかった(笑)。勉強になりました。



この 週末 NHKで放送された『マネー・ワールド 〜資本主義の未来〜 第3集  借金に潰される!?』。世界中で金融緩和が続けられた結果、個人も政府も企業も借金が積みあがっているという内容です。

NHKスペシャル | マネー・ワールド ~資本主義の未来~第3集 借金に潰される!?
今回は、『資本主義自体が限界に来ている』という水野和夫先生が出ているだけあって、経営者の妄言を垂れ流す先週までのものとは観点が違っていました。ウォール街の天敵、こと、エリザベス・ウォーレン先生が出ていたのも良かったし。ただ政府の財政悪化は新自由主義的な政策の帰結、社会福祉の費用は増えていくのにお金持ちや企業は減税したことが大きく響いていることに触れていなかったのは物足りなかった。アメリカでも、日本でも、そこがポイントじゃないでしょうか。



それより、印象的なドキュメンタリーがありました。日曜朝のETV『こころの時代〜宗教・人生〜』で『''個''として生きる』と題して、今年1月に57歳で亡くなったラッパー、ECD氏の生涯を振り返る1時間番組をやっていたのです。


こころの時代~宗教・人生~/宗教の時間 - NHK


ECDという人は日本語ラップの草分けです。(保育園の迎えの時間を気にしながら)社会運動にも積極的に参加する人で、311後のデモのコールで度々使われる『言うこと聞かせる番だ、俺たちが』というライム(歌詞)を作った人です。日本語ヒップホップのファンではないボクでも、いつもデモの先頭にいる彼の存在は大きな励みになってました。
●2011年6月のデモ。この頃は警察の取り締まりも暴力的で、デモに行くのも少し怖かった。その先頭にいたのがECD


2016年に進行性のガンで入院、歩けなくなっても病院を抜け出して、沿道に一人で立って、デモにこぶしを振ってくれていたのは忘れられません。今回の番組を見て、彼が近くの病院に入院していたことが初めて判りました。
●2017年7月9日、『安倍政権に退陣を求める緊急デモ』『7/9 安倍政権に退陣を求める緊急デモ』と映画『22年目の告白−私が殺人犯です−』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。やせた姿にはびっくりしたけど、ボクはこの時の彼の姿を忘れられません。



NHKのこの番組は1時間かけて彼の生涯を記録フィルム(デモはなかった)、著作、家族の証言で丁寧に振り返っていました。彼は、貧しかった自分の親の姿を見て戦争を諸悪の根源と考えていたこと、音楽も家庭生活もそれぞれが個であることを最後まで大事にしていたことが良く判りました。彼にはとても及ばないけどボク自身が考えていることとも近くて、凄く共感できた。他人には期待しない。自分は自分でしかない。個であることを貫くのは日本のようなムラ社会では厳しい生き方でもあります。荒涼とした荒野の中で彼は何を考えていたのだろう。番組はこの9月、彼が納骨されるシーンで終わります。
ヒップ・ホップファンのNHKの30歳のディレクターが趣味で勝手に作ったとしか言いようがない番組(笑)でした。宗教番組ですよ、これ(笑)。しかもNHK神戸の制作でしたけど、神戸なんかECDと何の関係もない(笑)。NHKの懐の深さNHKはまだ生きていると感じられるような感動的な番組でした。NHKにも、こうやって頑張っているクリエイターもいる。今度の土曜、10月20日の13時〜14時に再放送があります再放送予定 - こころの時代~宗教・人生~/宗教の時間 - NHK


ということで、新宿で映画『LBJ ケネディの意志を継いだ男映画『LBJ ケネディの意志を継いだ男』公式サイト

1963年11月テキサス州ダラスでケネディ大統領が暗殺された。同行していた副大統領、リンドン・ジョンソンは急きょ大統領に就任。元々保守的で南部出身の彼は、ケネディが遺したリベラルで高学歴、北部出身の閣僚たちの間で難しい立場に追い込まれる- - -


ケネディ大統領の暗殺で、副大統領から36代アメリカ大統領に就任したリンドン・B・ジョンソンを描いた作品です。
監督は『スタンド・バイ・ミー』、『ミザリー』、『最高の人生の見つけ方』のロブ・ライナー、今年アカデミー賞で旋風を巻き起こした『スリー・ビルボード』の警察署長役も記憶に新しいウディ・ハレルソンがジョンソン大統領を演じています。
ウディ・ハレルソンリンドン・ジョンソン大統領を演じます。


ジョンソン大統領という人はベトナム戦争を推進したことで、一般には非常に評判が悪い。ボクもイメージ悪かった。実際 戦争の推進に伴う支持率の低下で、2選目の立候補を断念しています。実際 現職の大統領が立候補を断念したのは彼だけだそうです。
ところが、最近 公民権運動に関する映画『グローリー』大統領の執事の涙を見ていると、公民権法はケネディではなく、後を継いだジョンソン大統領が成立させています。

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それだけでなく、メディケアと呼ばれる高齢者の保険制度の確立や貧困対策など国内政治では様々な功績を挙げている。ケネディは立場はリベラルかもしれないが、ベトナム戦争を激化させたし、キューバ危機も起こしたし、やったことは大したことはない。実績という点ではジョンソンに劣ります。ジョンソンとはどういう人なんだろう、と興味を持っていたところで、彼を描いた映画が公開されました。


ケネディは北部出身のエリート、大金持ちの息子です。それでも第2次大戦に従軍、魚雷艇の艦長として最前線に出て日本軍に撃沈されて生死の境をさまよったことがあるところが日本の2世、3世とは大違いですが、とにかく南部の人からは胡散臭く見られていました。そこで大統領選挙で起用したのが南部出身の民主党の院内総務、リンドン・ジョンソンです。党内の予備選でケネディと候補の座を争ったジョンソンをケネディは敢えて副大統領候補として起用し、南部の票を獲得しようとします。
ケネディ(右)は弟のロバート(中央)の反対を押し切って、今まで自分の敵だったジョンソン(左)を副大統領候補に起用します。


狙いは功を奏し、ケネディは大統領に当選します。ジョンソンは副大統領になりますが、ケネディの周りは弟で司法長官のロバート・ケネディやフォードの副社長だったマクナマラ国防長官などハーバード卒の北部エリートばかり。『ベスト&ブライテスト』と呼ばれた人たちです。

ベスト&ブライテスト〈上〉栄光と興奮に憑かれて (Nigensha Simultaneous World Issues)

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もちろん、この『ベスト&ブライテスト』の連中が判断ミスを重ねて、アメリカをベトナム戦争の泥沼に引きずり込むのですが、当時はそんなことはまだ判りません。ただでさえ華やかなケネディの陰で南部出身でそジョンソンは地味な存在に甘んじます。
●粗野で尊大なジョンソンと違って、ケネディはスマートです。TVがある時代、ジョンソンは勝てっこありません。


しかしジョンソン自身は政治力には長けていました。党の院内総務(議会リーダー)として、議会工作が不得意なケネディから、黒人の権利を保障する公民権法を成立させるべく南部の議員たちとの交渉役を任されます。巧みな交渉で一歩一歩譲歩を勝ち取っていきますが、周りからはもたもたしているように見えます。元々保守的なジョンソンです。特にケネディの弟、リベラルなロバートとは犬猿の仲になります。
●その後 ロバート・ケネディも暗殺されます。


ジョンソンはケネディが不得意な部分をカバーしたわけで、そういう意味では存在感はありましたが、一般的な人気は出ない。粗野で乱暴、尊大な気質のジョンソンでしたが、幼児時代に親からうけた冷たい仕打ちもあって、内面では『人から愛されたい』欲求が強い人間でした。そうやって鬱々としているところに、突然 自分が大統領になることになった。
●粗野で尊大なジョンソンでしたが妻(右)と二人きりの時は気弱な男でした。


当時 公民権法はまだ未成立。南部を中心に反対も根強く、議会のことを良く知っていたジョンソンはケネディの法案提出に反対していたくらいです。


そんな時に大統領になった彼はどうするでしょうか??彼がやったことはある意味 我が身を捨てることでした。南部出身という自分の立場や権力欲を捨てて、公民権法の推進に彼は邁進します。リンカーン銅像を見ながら『100年前のあんたの仕事の後始末をつけてやる』と呟くジョンソンの姿は超カッコいい。
ケネディの暗殺後、ジョンソンは帰りの飛行機の中で急遽 就任の宣誓をします。このシーンは当時の報道写真にも残っているとおりです。右はケネディの未亡人のジャクリーン。


どんな人間にも色々な面があります。善とか悪、右とか左、リベラルとか保守といった具合には中々片付けられません。ジョンソンはかっては公民権法に反対するくらい保守的な人間でしたが、黒人差別は絶対に許さなかった。ルーズベルトを尊敬するニューディーラーとして医療制度確立や貧困者支援を積極的に行いましたが、外交政策は不得手でベトナム戦争は推進した。矛盾に満ちた人間の姿を90分でコンパクトに描いたこの映画、ウディ・ハレルソンの名演技も相まって、かなり面白かったです。これもまさに今 みられるべき映画かも。