特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『国家はなぜ衰退するか』と2013年音楽ベスト4

あけましておめでとうございます。
例年のことながら、ボクはお正月は世俗から離れて生活していました。テレビも新聞も観ないし、日常の人間関係が休みに乱入してくるのが耐え難いので届いた年賀状の束も放置したまま、全く見る気力がない。我ながら、だからダメなんだろうな(笑)。そういえばパブコメ書かなきゃ。
                   
唯一見たTVが録画で見たNHK紅白歌合戦あまちゃんコーナー。これは感動しました。楽しかった。全156話で終わった本編の続編になっていて、本編では東京に来ることが出来なかったユイちゃん(橋本愛)が上京して天野アキ(能年玲奈)と一緒に紅白に出る、というストーリーには泣かされました。
他にもドラマの役柄そのもので小泉今日子薬師丸ひろ子が出てくるところも感動したし、音楽を担当した大友良英がフィードバックを効かせたノイズギターを弾きまくっていたのも良かった。NHKの紅白でこんな前衛的な演奏をさく裂させたなんて前代未聞ではないか。昨年12月に大友良英あまちゃんビッグバンドのコンサートを見て、楽しくも達者なバンドの演奏に驚いたのを思い出した。
出演者一同が舞台に出てくる大団円で、園子温監督の映画『冷たい熱帯魚』でリアルな大量殺人鬼を演じてたでんでんや吹越満を見て一瞬、どうして殺人鬼がNHKに出てるんだ、と思ってしまったけど(笑)、北三陸のおばちゃん役の渡辺えりがジャニーズの司会者を触りにいくところまできっちり笑わせてもらいました。
あまちゃん』にはお話も音楽もそれだけの力があった、ということなんだろうけど、マニアックなところから誰にでも受け入れられる大衆性までカバーしたのには驚く。情報と技術が溢れかえり個人個人が分断されたこの世の中で、こういう普遍的なものが生まれたのはほぼ奇跡的な出来事ではないか。
紅白自体は興味ないのであまちゃんコーナーとプロジェクションマッピングを使ったPerfume以外は見てないんだけど、前衛からアイドルまでカバーするNHK恐るべし。



お正月に読んでいたのが『国家はなぜ衰退するのか』。同じロジックを上下2冊も使って論考していくので多少かったるかったが、興味深い本だった。

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

内容はMITとハーバードの教授が長い人類の歴史全体を振り返って、なぜ地域によって貧富の差が生まれたのか考察したもの。
この本によると、社会の繁栄を左右するのは地理などの自然環境でもなければ、宗教や文化でもない、『制度』であるとしている。『(色々な人の意見を反映させる)包括的な政治制度と(多様な人の利害を守る)包括的な経済制度がセットで成立していた場合』に社会は繁栄する。それらは人々の創意工夫を生み出す仕組みだからだ。歴史を振り返っても、資源が少なかったり、自然環境に恵まれない地域であってもそれらの仕組みがあった社会は繁栄している。それとは対照的に独裁国やプランテーション農業など、誰かが誰かを搾取する『収奪的な政治制度』や『収奪的な経済制度』は一時期は繁栄することがあっても決して長続きはしないという。収奪的な制度からは技術革新や創造的な破壊は生まれないからだ。
たとえば南アメリカと北アメリカ。現在は北アメリカのほうが圧倒的に豊かだが、コロンブス以前は南アメリカのほうが人口も多く豊かだったそうだ。だが南アメリカは貴族のスペイン人が原住民を奴隷的に扱ったためプランテーション式農業しか産業が発達しなかったのに対し、北アメリカは開拓民一人一人が自ら働かなければ食うことができなかったため、共和的な政治制度と一人一人の財産を保証する経済制度が存立した。それにより工業や商業が発展して豊かになっていった、と言う。この本ではこのことを、アメリカ南部と北部、イギリス(名誉革命)、ヨーロッパ(西欧と東欧)、中国、日本などの例を挙げて例証している。
また いったん豊かになってもローマ帝国のように共和制から帝政へ移行することで、社会が沈滞し衰退していくこともあるという。アルゼンチンも20世紀初頭は世界でも指折りの富裕国だったが、独裁的な政治体制が続いたために経済を発達させることができず、今は国家破たん寸前にまで追い込まれている。筆者によると中国も現状の抑圧的な政治体制が続く限り、経済的発展は長く続かないだろうとしている。
                                                             
現代の状況を振り返ってみると一部の発展途上国はグローバリゼーションの果実で豊かになってきている例もあるが、先進国では次第に収奪的な経済制度が優位になってきており、政治も収奪的になってきているように思える。
たとえば経済の面では、リーマンショックでもAIGや銀行などの超大企業は政府に救済されたが、一般の債務者は放置され多くの人が家を失った。日本の銀行も同じだった。東京電力は救済されたが被害を受けた人全てに未だに救済の手が届かない日本の原発事故もそれと同じ構造だろう。ブラック企業や職業上の男女差別だって収奪的な経済制度の典型的なものだ。政治の面ではアメリカでは2大政党制は国民の意志を必ずしも代表しないという声が次第に大きくなってきているが、2世3世議員ばかりの日本は包括的な政治制度という点ではアメリカより遥かに酷い、劣悪だろう。
そうなってくると、政治も経済も新陳代謝が極端に低い日本は次第に衰退していくことが十分に見えてくる。中世には世界で最も富裕だったベネチアは貴族の寡頭体制と経済活動が閉鎖的になったことで衰退し、今は過去の遺産を生かして食いつないでいる。つまり経済大国から博物館になった、と、この本には書かれている。将来の日本も博物館になれたら まだマシなのかもしれないが。


                                                          
                                                              
だが、すべてがうんざりするようなものばかりでもない。まだまだ世の中には素晴らしいものがある。人間にできることは、そういうものを拾い集めて勝負していくしかないのだ。映画に続いて、ボクの2013年音楽部門のベスト4はこれでした。
                                                                                                                               
1位.『あまちゃん』、暗いトンネルの中で大吉駅長が歌ったゴーストバスターズ(9月)
311の大地震が起きたとき、大吉駅長はユイを載せた電車を運転中だった。トンネルの中で緊急停車させた大吉は何が起きたのか確認するために、恐る恐るトンネルの外へと歩を進める。その時 彼が自分を勇気づけるように歌ったのがこれ。ちなみに彼はこの歌のサビの部分しか歌えない(笑)。暗く長いトンネルの向こうには言葉にできないような廃墟が広がっている。それに向き合うための勇気を歌が与えたのだ。音楽の本質ってこんなところにもあるんじゃないか。

                                     
2位.サントリーホールでのユジャ・ワン、ピアノリサイタル(4月)
何事も新しい考えや解釈を打ち出すのには勇気がいる。普段はためらってしまうこともあるけれど、この娘の向こう見ずな演奏のように時にはひたすら突き進むことも大事なんだなあ、と客席で思った。『ベラルーシから学ぶ私たちの未来』と『ユジャ・ワン ピアノリサイタル』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)

                       
                                                 
3位.選挙フェスの三宅洋平@渋谷(7月)
選挙運動でこれだけ内容に共感できて、尚且つ面白かったのは初めて。ある意味アナーキーだけど、老若男女誰もを包括しようとするメッセージに溢れていたのは驚き。選挙結果は残念だったけど、将来に向けて大きな大きな希望の種が残った。応援のミュージシャンのステージはFlying Dutchmanは見ることが出来たが、時間の関係で硬派のラッパー田我流を見られなかったのが残念。

                                   
4位.クラウディオ・バリオーニの新作『CON VOI』(10月)
イタリアの国民的歌手の久しぶりの新作。60歳を超えてさすがにミディアムテンポの曲が増えたけど、張りのある声はお見事です。ルックスも恰好いいし(笑)。日本でこんなこと書いてる奴は殆どいないだろうからボクが書いておく(笑)。
Con Voi

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