特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

愛するなら闘え、:映画『わたしたちの宣戦布告』

こういう話はあまりニュースには出ないが(笑)、ある重電メーカーでは今、3・11以前はリストラ候補だったガスタービン部門に大幅に人を振り向けているらしい。またガス会社も躍起になって新鋭設備を導入した火力発電所やパイプラインを作っている。GEのCEO、ジェフリー・イメルト原発なんか採算に合わないと公言しているように、まともな企業なら、とっくの昔に原発以外のビジネスチャンスへ向かって経営資源の再配分を始めている

なのに、いまだに『原発がないと困る』とか言っている経団連の主流である重厚長大企業なんか10年後には新興国の企業に買収されてしまっても不思議ではない。『鉄は国家なり』の新日鉄ですらインド人の買収をビビりまくっている世の中だ。現に三洋電機NECのパソコン部門もレナウンラオックス中国企業に買収されている。ま、明日は我が身で、他人の会社のことをとやかく言ってる場合じゃないけど(笑)。
自分が激烈な市場競争に晒されていることを理解している企業だったら、コスト的に合わない原発を推進する方向へは進むことはしない、いや、出来ない。ボクは市場競争なんか大嫌いだが、市場原理にも良い点はあるってことだ。

ただ 問題は市場競争にさらされない連中だ(笑)。地域独占の電力会社しかり、役人しかり、御用学者しかり、政治屋しかり、補助金乞食の原発立地の土建屋しかり。こういう社会にたかる寄生虫軍団を何とかできるかどうかが、原発に限らず日本の将来に希望があるかどうかの試金石になるだろう。
                    
                                                    
ちょっと前から放送されている東京ガスのCM。映画『ヒミズ』でベネチア映画祭新人賞を取った二階堂ふみちゃんが出演している。共演はなんと『鉄男』の田口トモロウと『SRサイタマノラッパー3』の奥野瑛太。すげえ〜。そういうマニアックな面子(笑)の中でふみちゃんは、企業向けのいかにも、と言ったキャラクターを演じているのだが、彼女の存在感とヒリヒリするような繊細さが印象的だ。普通CMなんて記憶に残らないものだが、この娘の存在感はTV画面の予定調和の世界と良い意味での違和感を感じてしまう。そのザラザラした感触にはどうしても惹きつけられる。心に何か、引っかかりが残るのだ。

                                                 
渋谷でフランス映画『わたしたちの宣戦布告

パリに住む平凡な若い男女が恋に落ち、やがて男の子が生まれる。だが男の子は難病の悪性脳腫瘍だった。二人は全てを投げ打って看病をすることを決意する。運命に対する宣戦布告だ。
主演の俳優カップルの実話がベースだと言う。監督・脚本はカップルの女性、ヴァレリー・ドンゼッリが担当。2012年のアカデミー外国語映画賞のフランス代表だそうだ。
●右側が監督のヴァレリー・ドンゼッリ


この映画の最大の特徴は『お涙頂戴の話にはしないぞ』という製作側の強い意思だ。 カップルの役名はロミオとジュリエット、子供の名前はアダム。どこにでもいる名前だ。誰にでも、どこででも起きる物語ということを言いたいのだろう。 お話の途中でカップル二人が歌を歌ってミュージカル風にしたり、クラシックが流れたと思ったらエレクトロが流れたり、サスペンスやコメディ風の演出を取り入れたり、とにかくポップで進行に重さを感じさせない。
だけど ボクは子役が手術室に入るときのいかにも不安そうな顔を見たら涙腺決壊(笑)。ずっと泣いてました。赤ん坊にどうやってこんな顔をさせたんだろうと思わせる見事な演出、リアルさもたいしたもんだ。
                                           

ロメオとジュリエットはフランス人らしく事実婚カップルで親族同士は会ったこともない、という設定だ。実家の片方は同性愛カップル、片方は裕福な資産家、環境も生活も全然異なる親族・友達が、孫のために皆で立ち上がる、というのはとても痛快だ。
フランスの医療事情のことは良く知らないけど、子供の病気が診察される過程も印象に残った。子供が最初に診察を受けるのは市井の医者(それもなかなか見てくれない)だ。しかし、原因がわからないが様子がおかしいということが判ると関係者が連携して大学病院に転院させ、一流教授に診察させる。そこで腫瘍が見つかり、しかも ただの腫瘍ではない難病だということがわかると国の高度先進医療施設に担ぎ込む。そこでは患者だけでなく介護者の宿泊施設まで整っている。日本でもここまでいかないのではないか。この映画では病院の官僚的な部分も描いているけれど、殆どの人がカネだけのためではなく、患者のために働いている、というのはよ〜く伝わってきた。なんか、いいなあ(医療分野のTPPは絶対ダメ、だ)。
カネもなければ、看病のために仕事も辞めた若いカップルが子供に難病の治療を続けるなんて、国民皆保険社会主義だとか言っているバカが大勢いるアメリカだったらありえないだろう。この映画はハリウッドがリメイクしようと思っても絶対 無理(笑)。
レズビアンから資産家まで、親族友人大集合

介護はいつ果てるともない長期戦になる。二人は仕事も辞め、家を売り、友達付き合いも減り、病棟でつきっきりになる。劇中の台詞曰く『私たちはどんどん孤立していった』。そんな生活に疲れたロメオはつい、神を呪ってもしまう。『何で、うちの子がこんな病気に』。ジュリエットは窓を見ながら返事をする。『私たちなら乗り越えられるからよ
このシーンだけでも、この映画を見る価値がある。
                         
この映画の主役は難病の子供ではなく、あくまでも若いカップルふたりだ。若く未熟な二人が共同生活をはじめ、子供を生み、子供の病と闘う。終わりのない長期戦の中で二人は傷つき、関係は壊れてしまう。けれど、代わりに二人は子供を中心とした、より強い絆を手に入れることになる。

                                                            
人間の強さと弱さをこれだけ真正面から描いている映画は珍しい。フランスの難病ものということで『最強のふたり』をどうしたって思い出すけれど、こちらは完成度では負けるが斬新なアプローチで人間という存在に真正面から『斬りこんでいる』。その無謀さは観客の心に深い引っかかりを残す。
自分の心のかさぶたをはがしてみたい人は、ぜひ。この映画は力強さに溢れているだけでなく、見る者にそれを分け与えてくれる。