特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

いつだって『人生はビギナーズ』

Twitter上で繰り広げられた映画評論家の町山智浩氏とジャーナリストの上杉隆氏のTBSラジオ降板理由を巡る論戦?がとても面白かったです。
3分でわかる上杉隆VS町山智浩 @uesugitakashi - Togetter
上杉氏が自分が降板したのは東電(電事連)の圧力、とラジオで公言したのに対して、電事連原発の悪口言いたい放題だけど降ろされない町山氏が、それは事実と異なる、と指摘したものです。
1から8まである、このツイログではコラムニストの小田嶋隆氏が義憤に駆られて乱入したり、最後にはかって原発広告に出演したことを今も悔やんでいる水道橋博士まで出てきて、ある種感動的なエンディングを迎えます。上杉隆がもっともらしいデマをでっちあげ、それが広められて海外にまで伝播していったこと、そしてそれがバレる過程を見ることができます。

上杉氏は既存マスコミや原発に批判的な姿勢の人だから、言っていることをつい甘く聞きがちです。こういう話は自分の情報リテラシーを磨くのには良い勉強になります。なんせ総理大臣が『2号機にホウ酸水いれるような状態になっても、温度が90度を超えても問題ない』と寝ぼけたことしかいわない国だ。冷温停止『状態』と造語まで法令で作って定めた定義が80度、なんてことはすっかり無かったことになっている。そもそも昨年の3号機の再臨界だって認めてないし。)目の前に起きている現実を見るには、やっぱり自分の頭で考え続けるしかないんだろうな。毎日どんどん新しいことが起きるから、人間は年をとったって一生ビギナーみたいなもんでしょ。
  


ということで(笑)。新宿で映画『人生はビギナーズ
多重債務に悩んでいるときの解決法


主な登場人物は4人。主人公の38歳の独身男性(ユアン・マクレガー)、その父(クリストファー・プラマー)、主人公の恋人(メラニー・ロラン)、主人公の飼い犬(ジャック・ラッセルテリアのコスモくん)。主人公は悲観的な性格で友達は仕事と犬。女の子と付き合っても、いつも自分から別れを告げてしまう。そんな彼の母親が亡くなって5年、厳格だった父が突然、自分がゲイであることをカミングアウトする。父の行動に戸惑いながらも主人公も徐々に変わって行く、そんなお話です。
  

これはマイク・ミルズ監督の実話だそうです(笑)。
4人の表情と演技が、とても、よいんです。ユアン・マクレガーはうじうじ、めそめそした表情がとても似合います。特に眼。映画でも『悲しみを抱えた眼』と表現されていたが、グレーの眼の奥の寂寥感がとてもよかったです。しかも男前だから絵になる(笑)。クリストファー・プラマーの堂々としたゲイ演技はゴールデングローブの助演男優賞を受賞するのにふさわしいです。最高齢の受賞だそう 。
美貌のメラニー・ロラン嬢(『オーケストラ』のバイオリニスト役)は出てくるだけでぞくぞくします。赤いドレス姿でもラフな格好でも、男装してもまばゆいばかりだ。見ていて純粋に楽しいです。
●二人と一匹

だが、なんと言っても最高なのはジャック・ラッセルテリアのコスモくん。主人公が話しかけると文字通り彼の感情にあわせたような表情をして、無言で対話する(画面にモノローグがついてるけど)。これがすごく良いんです。悲しげな主人公には悲しみを共有する表情をしたり、ま、しょうがないよといった諦めの表情をして見せたりします。確かに犬は人間の感情を理解できるが、どうしてこんな表情ができるかなあ、と思うくらい、コスモくんは素晴らしかったです。
ただ、映画ではやたらと犬が高級ホテルを闊歩してたけど、あれはOKなんでしょうか?世の中がそういう風になればいいなとは思うけれど。一回だけ行ったフランスの二つ星レストランでは、確かに人間より偉そうに犬が闊歩してたけど、あれは店の飼い犬だったからなあ。犬が闊歩する二つ星レストラン - 特別な1日(Una Giornata Particolare)
●哲学的なコスモくん
 
  
この映画のもう一つ優れたところは戦争の苦難や同性愛やユダヤ人に対する差別を抱えながら生きた親たちの世代と息子たちの世代を対比させる視点です。
先週見た『J・エドガー』で描かれた同性愛を公言できない時代は直接生きた世代のみならず、そのあとの世代にも確実に影響を与えています。この映画が(初めてゲイを公言して公職についた)ハーヴェイ・ミルクのことをドキュメンタリーまで引用して語っているのもそのためでしょう。ボクはゲイパレードなどで使われるレインボーカラーの意味を初めて知りました。素敵でした。またユダヤ人差別も女性の社会進出についても忘れずに言及されています。そういう視点はこの映画に深みを与えています。
 

描写としては主人公が深く抱える父親に対する思い入れとか、メラニー・ロランの抱える影にはわかりにくいところがあるのは事実。父親が新聞に掲載した(率直に自分の欲求を表現した)『パートナー募集』の広告を見て主人公が心を動かされるのは、ボクにはあまり理解できなかったです。
  
お話の語り口も(これも『J・エドガー』みたいに)過去と現在を取り混ぜて進めていくところはとても面白いし、ウディ・アレンみたいに古いジャズを多用した音楽や画面全体はとてもお洒落で気が利いています。
  
   
一言で言うと、『人生はビギナーズ』は人生の寂寥感、無常観をお洒落に描いた映画っていう感じ(笑)。そこはすごくいいです。また主人公の父親のように、死ぬまでに色々なことを整理したり準備したりできたりする時間を神様にもらえたらいいなあ、と強く思いました。

死や無常観をテーマにした映画だけど、考えさせるし、とても楽しい映画です。いつまでたっても人生はビギナーズ、っていうのも若干 疲れるんだけどね(笑)。